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再会した恩師とトークイベント「鉄、高度成長、幸福論」/MOTHERの作り方⑩

発売中の拙作写真集「MOTHER」(赤々舎刊)。製造業の技能継承から高度経済成長期と現代のギャップをみつめるドキュメントです。このnoteでは「MOTHERの作り方」と題して、本作りと展示に関わっていただいた方々のご紹介とメイキングストーリーを連載しています。同タイトルの写真展は10月30日までに東京と大阪を巡回し、無事に終えることができました。お越しいただいた皆さま、本当にありがとうございました。「トーク」をテーマに写真展「MOTHER」を振り返りたいと思います。

▼これまでの記事一覧
1回:構成(赤々舎・姫野希美さん)
第2回:装丁(ユータデザインスタジオ・中島雄太さん)
第3回:製本(渋谷文泉閣さん)
第4回:印刷(ライブアートブックスさん)
第5回:製鉄(JFEスチールさん)
第6回:風景(大門郷土史研究会・曽我部光さん)
第7回:家族(僕の父)
8回:展示(POETIC SCAPE・柿島貴志さん)
第9回:素材(ご協力いただいた皆さま)

■トーク恐怖症

僕はトークが大の苦手です。

過度の緊張しいであるので、人前に立つと真っ白になります。こういうイベントは10回やれば慣れるとのことで、かなり修行が必要なようです。過去に3回、東京のギャラリーで展示をしましたが、自ら主催でギャラリートークを行うのは今回が初めてでした。

写真展で開かれるトークイベントの多くは、写真家同士や写真関係者との対話で構成されています。聞いている方も写真についての深い考察も得られますし、僕も大好きです。一度、写真家の青山裕企さんが企画するトークライブに呼んでいただきました。お互いがなぜ写真を撮るのか、その題材に取り組むのかなどなど、トークが苦手なものの話ははずんで楽しい時間を過ごすことができました。

今回の場合、ドキュメンタリーの展示としていろいろな方々に関心を抱いていただくことを目的にしたく、写真以外の分野との接点を探れればベストだと考えました。誰に向けてのトークイベントかを意識し、ふさわしいゲストをお呼びする必要があります。

鉄と高度成長をテーマにした作品であるため、想定する来場者は団塊の世代を中心とした年齢の方々や、製造業に携わる方々です。この方々が納得するように、テーマの両方を詳しく知る方にお願いしました。

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ゲストからいただいた写真で構成したトーク用スライドの一部

■恩師への依頼

まず最初に思い浮かんだ方は、京都大学の新宮秀夫名誉教授でした。新宮先生は京大工学部冶金学科ご出身。鉄を研究しておられました。エネルギーにまつわる研究から派生した、工学が追求する「幸せとは何か」を本にも著している先生です。僕が学生時代に生協の購買に「幸福ということーエネルギー社会工学の視点から」という新宮先生の著書が並んでいたのを見て、即座に購入しました。

と言うのも、当時は京都議定書がCOP3で採択され、温室効果ガスへの取り組みが叫ばれていました。工学部に所属していると、将来この問題は避けて通れない問題です。なぜ自分は工学を選んだのか、その答えを改めて探すために一般教養科目の倫理学などをとって学んでいました。これはまさに自分に向けられた本だと感じたのです。

先生と直接お話しすることになったのは、大学4回生に上がる直前、休学して海外に放浪するため当時専攻長であった新宮先生に許可をいただく時でした。当然のことながら休学には理由が必要なので「一身上の理由」として海外旅行のことをふせるのが、バックパッカー学生の間で定番でした。先生はそれを見抜いてか、「本当は何が理由なんや」と返され、嘘がつけず素直に「チベット旅行です」と即答してしまいました。しかし先生は笑いながらも休学許可を与えてくれ、半年間の旅に出ることができたのです。

この旅があってこそ、写真により深く目覚め、今の自分があります。アジアの新興国を巡ったことで、今回の制作にまつわる高度成長期の日本との比較も思いつきました。言わば先生は恩師です。トーク出演のお願いをしたところ、すぐに快諾。トーク時に配るレジュメまで、サラサラっと自ら用意していただきました。新宮先生の広い心は、昔から変わっていませんでした。ただただ頭が下がります。

写真展の内容に合わせて執筆いただいたレジュメ

もうおひと方、トークゲストをお願いさせていただいた先生がいらっしゃいます。東京工業大学の永田和宏名誉教授です。鉄鋼業向けのセンサー開発や、たたら製鉄の技術についても研究されています。永田先生とは直接の面識はなかったのですが、大学院時代の友人の紹介により、引き受けていただけることになりました。

初の打ち合わせでは2時間程度を予定していたところ、研究内容や学生生活の話について盛り上がってしまい、5時間を超える話し合いになりました。団塊の世代でもある先生の生い立ちから現在の研究対象まで、思う存分うかがうことができました。僕の父が先生と同い年だったことも、親近感を抱きつつ楽しくトークをさせていただけた理由につながっています。

お二人の先生のおかげで、鉄と技能継承、高度成長をテーマにして、写真とサイエンスという異なる領域に関心がある方に応える準備が整えられました。

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新宮先生(右)には小道具も用意いただきました

■人とつながるためのトーク

話上手な教授陣に助けられ、両日とも時間いっぱい楽しいトークを行うことができました。終了後も個人的に質問をする異分野の作家さんが絶えず、来場者のみなさんにも満足いただけたようです。異なる分野の人と人をつなぐ意味で行ったトークイベント。目的は達成できたと思えました。

あえて自分にとっての反省点を挙げると、司会者を自らが兼ねてしまうと、僕の性格上、相手の話を聞いてみたくなるため、なかなか自分のことを話しにくくなることでした。次回以降に生かしたいと思います。ご協力いただいた皆さまには、この場も借りてお礼申し上げます。トークに慣れるまであと7回。頑張ります。

ちなみに出展作家からの話を聞けるのはトークイベントだけではありません。僕は展示期間中できる限り毎日ギャラリーに在廊するようにしています。作品についての質問など遠慮なく投げかけていただけると嬉しいです。たくさんお話ししましょう。

展示はトークで人と繋がれる。

だから写真はやめられません。

▼予告
次回の投稿は11月6日(水)を予定しています。
本づくりのこんなことを知りたいなどの質問をお受けいたします。コメント欄に書き込みをお願い致します!

写真集「MOTHER」は全国書店の他、以下のサイトでもお求めになれます。
赤々舎
アマゾン
著者ホームページ(限定版・サイン入り)

関連の作品「Hands to a Mass」がニコンの名古屋フォト・プロムナード2で開催します。
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