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プロフェッショナルとは。写真展の構成はコミュニケから/MOTHERの作り方⑧

発売中の拙作写真集「MOTHER」(赤々舎刊)と同タイトルの写真展は、製造業の技能継承から高度経済成長期と現代のギャップをみつめるドキュメントです。このnoteでは「MOTHERの作り方」と題して、この制作に関わっていただいた方々のご紹介とメイキングストーリーを連載しています。今回は展示について。展示構成によって作家の世界観をいかに表現するかと、それを引き出してくれる方あっての作品でもあることをお伝えします。

▼これまでの記事一覧
第1回:構成(赤々舎・姫野希美さん)
第2回:装丁(ユータデザインスタジオ・中島雄太さん)
第3回:製本(渋谷文泉閣さん)
第4回:印刷(ライブアートブックスさん)
第5回:製鉄(JFEスチールさん)
第6回:風景(大門郷土史研究会・曽我部光さん)
第7回:家族(僕の父)

■展示というメディア

キヤノンギャラリー銀座での展示を終え、10月24日から同ギャラリーの大阪で始まる今回の展示は、東京・中目黒のギャラリー「POETIC SCAPE」の柿島貴志さんに構成と額装をお願いさせていただきました。今年4月に行った初の打ち合わせで、今後のスケジュールをうかがうと錚々たる面々が展示相談の予定をされていて、恐縮しつつ喜びを噛みしめていました。

僕は完全に写真のアウトサイダーだったので、これまで展示の構成について学んだことはありません。もし自分がきちんと写真の学校に入っていたならば、これはきちんと授業で教えてもらえた内容だったのかなと思います。

インスタグラムの普及によってデジタルのウェブで作品を公開する環境が整っていても、やはりアナログの展示が作家の世界観を違う次元に引き上げてくれます。写真の中身以外でも勝負が必要になり、書籍やインターネットがメインとも考えられるドキュメンタリーも最近は展示が主戦場のひとつであると、いま感じています。

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前作「Touch the forest, touched by the forest.」では木を使用

僕の初回noteで書きましたが、写真を音楽に例えるならば、一枚一枚が楽曲で展示がライブです。作家が在廊し解説も聞けて、写真に囲まれての体験を得る意味で、リアルの空間がいかに貴重か。写真集やネットと写真展が全く異なる点は、写真そのものの大きさだけでなく、一覧性にあると言われます。つまり、前者では数枚ごとに順を追って展開しますが、後者は視界により多くの写真が入ってくる。ギャラリーであれば全写真が一気に見れてしまうわけです。そして気になる写真から順番にその世界に入って行けます。作り手目線から見ると、全容と詳細の容易な行き来を前提として制作しなければなりません。

ちなみに僕のツイッターアカウント「@kinoseido」では、印象に残った作家の展示を随時ご紹介しています。よろしければフォローしていただけるとうれしいです。

Screenshot_2019-10-19 紀成道 (KINO Seido) on Twitter

僕のツイッターより

■迫力をとるか、動きをとるか

初回の打ち合わせで、まずはブックにまとめた展示用セレクト写真を一通り見ていただきました。製鉄所で真っ赤に溶けた鉄が技術者と格闘しながら徐々に冷えて固まり端正な製品に移り変わるさま。そしてそれぞれの世代の技術者が見てきた製鉄の町の風景で写真を構成していました。今回の作品コンセプト「製品と製造過程のギャップと、団塊世代とミレニアル世代のギャップ」について説明すると、柿島さんから一言。「動から静への流れ。ランダムからグリッドへ展開して表現するのはどうでしょう」。

柿島さんはPOETIC SCAPEのインスタグラムにアップされている、これまで手掛けた展示を見せながら、イメージに類似したものの解説してくれました。液体のようにランダムに配置された展示と、ビシッと整列されてコンパクトに収まった配列で固体を表す展示。瞬時に私の作品の意図をくみ取って、展示構成に転化させる発想の速度と、過去の引き出しの多さに、驚きと安心を同時に得ました。

実は僕自身も展開はぼんやりと考えてはいたので、過去にスケッチしていた展示構成をベースに組み直した案を、後日の打ち合わせで見ていただくと、「もっともっと空間を生かし、作品を少し小さめにして間を開けた余裕のある展示にして、強弱のアクセントが強めましょう」とクオリティが自分の発想より遥かに高くなっていくのを感じ、写真同士の「間(ま)」で伝わるものが存在することも学びました。

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動(左)から静(右)への移り変わり(東京の展示より)

製鉄所の迫力を伝えるプリントの大きさと、全体を把握してもらいつつ一枚一枚をしっかり見てもらう動的な配置とを、天秤にかけることになりました。展示を行う空間の広さによって、出来ることの限界があります。総合的に勘案して、「動的な配置」に傾きました。今回伝えるべきことの優先順位は「ギャップ」です。鋼の製品の端正さから想像もつかない、現場の生きた鉄との格闘のギャップが、本作のテーマのひとつでもあるので、写真の大きさで来場者を圧倒する迫力を伝えるのものは、1点だけとすることに譲りました。

そしてライティングです。キヤノンギャラリーさんの壁は黒色調なのが特徴。カットライトと呼ばれる、矩形に合わせて写真だけに光を当てられる照明をたくさん持っています。暗めの空間に写真だけが浮かび上がらせることが可能です。赤々舎の姫野希美さんからも、僕の今回の作品はこの場に合うだろうと言っていただいていたので、こうしたコミュニケーションの繰り返しから、柿島さんの言う「インダストリアルな展示」に僕の作品が昇華されました。

ちなみに東京での展示構成と大阪のそれでは、壁の並びの違いから少し変えています。いかに世界観に導入するかは、人の動線があってのこと。案内文と作品の並びが繋がっているかどうかで写真の配置を一部変更しています。

キヤノンギャラリー展示プラン

東京での展示案(上)と大阪(下)の違い(プランより)

■プロフェッショナルとは

今回の展示でお伝えしたいことはまだあります。制作物個別についてもまだ大きな見せ場があるので、そちらは次回に。

経験の豊富さとバラエティある発想、そしてそれをいかに言葉で論理的に説明できるか。一言目で他人に対する印象が決まることを考えると、それを簡潔に伝えられる方がいいです。これらはキュレーターや作家だけでなく、他人と仕事をしうる全ての人に必要な能力だと思います。プロの仕事は、相手があってのこと。能力を持ち合わせた上で柔軟に相手や環境に合わせた最適解を出すことが、協業の必要条件だとこの展示を通して考えるようになりました。

協業によって新しいものを生み出す過程を説明するのに、よく掛け算の表現が持ち出されますが、個人的には違和感を覚えます。まず、全くの別物が生まれるということはなく、それぞれの個性に基づいた延長線に存在しているからです。加えて、個人だけで100%より高い能力を発揮することはあり得ないと僕は考えているので、他人との掛け算をしても100%を超えることはありません。たとえば「90%×90%=81%」のようにむしろ下がります。

納期、空間、予算…。何事にも制約があります。その中で出来る限り個別の能力を引き出し、結果としてより高い値を出すには、協力してもらえる方との出会い、そして意思疎通をしっかりし、うまく着地点を探すことが大切だと思っています。だから掛け算よりも素直な足し算がしっくりきます。そしてこれを実現に導いていただいた柿島さん。その豊富な引き出しから自然な流れで、一緒に構想を盛り上げていただける力に改めて感謝しています。

平面(写真)から空間(展示)への跳躍はコミュニケーションから。

だから写真はやめられません。

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東京での展示を終えて、大阪の会場へ搬出

▼予告
次回の投稿は10月25日(金)を予定しています。テーマは「素材」です。
本づくりのこんなことを知りたいなどの質問をお受けいたします。コメント欄に書き込みをお願い致します!

写真集「MOTHER」は全国書店の他、以下のサイトでもお求めになれます。
赤々舎
アマゾン
著者ホームページ(サイン入り)

写真展「MOTHER」がキヤノンギャラリー大阪で開催されます。
2019/10/24〜30(土曜13:00にトークイベント開催、日曜は休館)
詳細はこちらです。

関連の作品「Hands to a Mass」がニコンプラザ銀座のフォト・プロムナードで開催中です。
2019/8/31~10/31(日曜は休館)
詳細はこちらです。ぜひお越しください。

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