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MOTHERの作り方④「だから写真はやめられない」

発売中の拙作写真集「MOTHER」(赤々舎刊)。製造業の技能継承から高度経済成長期と現代のギャップをみつめるドキュメントです。このnoteでは「MOTHERの作り方」と題して、この本作りに携わった方々のご紹介とメイキングストーリーを連載しています。第4回は本作りに欠かせない印刷です。担当していただいたライブアートブックスさんについてお伝えします。

▼これまでの記事一覧
第1回:構成(赤々舎・姫野希美さん)
第2回:装丁(ユータデザインスタジオ・中島雄太さん)
第3回:製本(渋谷文泉閣さん)

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8ページ分をまとめて刷って、色の微調整をする

■こだわりの本はここで

今回、印刷をお願いさせていただいたライブアートブックスさんの工場は大阪にあります。近くまで来ると周辺にも印刷工場があるためインクや機械油の香りに迎えられます。とても好きな香りです。製鉄所や町工場を取材した時もそうでしたが、嗅覚の刺激は想像力をかきたてます。そして印刷機の稼働する重い音も響いて、ものを作っている空気感が路地に漂っています。

プリンティングディレクターの石原史義さんにお会いし、工場内の応接室にうながされるとそこには最近同社が携わった写真集やカタログがずらりと並んでいました。蜷川実花さんの「trans-kyoto」、伊丹豪さんの「photocopy」など、手の込んだ本の多いこと。物としての存在証明を体現しているかのようで、出版不況どこへやらと感じてしまうほどです。こだわりのある本はここにお願いするのもわかります。

写真家は色校正のため印刷所を訪れます。大きな紙1枚に表8ページ分をまとめて印刷し、翌日裏に8ページ分を印刷する形です。写真集が16の倍数でページが構成されているのも、これで納得。印刷機長の我如古昭治さんに刷り上がった見本を見せてもらい、こちらが用意した校正済み写真プリントと照らし合わせながら「ここは藍を足そう。墨を足そう」とインクの量を調整します。すぐさま印刷機が再稼働し、数十秒後にはバシっと仕上がってきます。そして本刷りに移行するOKサインを出して開始。次ページの印刷を待ちます。これを数日かけて繰り返し、全ページ完了させます。

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CMYKの4色で印刷するための原版。刷り終えて並ぶ

■思い通りの色へ

これはよく言われることですが、印刷に使うインクは基本的にCMYK(藍・赤・黄・墨)の4色で、デジタルの写真データをパソコンで見た色がそのままには反映されません。インクジェットプリンターですと色数も多く、モニターの出すRGBの色味を再現しやすいのですが、印刷はそうはいきません。鮮やかな蛍光色はCMYKの苦手とするところです。4色に加えてメタリックや蛍光の特色インクを使うケースもあり、赤々舎さんから発売されたインベカヲリ★さんやアン・ジュンさんも特色インクを使っています。いかに作品の色を再現していくか、スピーディーかつ的確に進められていきます。私の作品では特色は用いないものの、鉄が生きていると感じられる色、その痕跡の色を再現してもらうために、赤と黄色とその明るさにこだわりました。

今回の写真集で難しいと言われていたのが、ビフォーアフターで表現した貼り合わせ写真の色合わせです。同じ印刷機で同じ元データと言えど、色味をそれぞれ微調整しながらページ毎に印刷するため、これとは独立して印刷した重ねる用の写真とのずれが結構生じてしまうはずでした。しかしそれは杞憂に終わりました。

どんどん印刷された紙が積み重なっていくのは、姫野さんとデザイナーの雄太さんと私の頭の中にあったものが、世に旅立つ直前の光景に見え、感慨に浸ります。重い機械音のもたらす興奮と緊張は、まだ2冊目の本を出す身としては貴重な場でした。

最近はこの刷り出しの紙(裁断前の大きな紙)を記念に持ち帰る作家も多いとのこと。私も何枚か譲っていただきました。場合によっては原版の金属板も欲しいという方もおられるそうです。

ちなみに金属に模した写真集ケースに記された文字も実は印刷です。これがまた特殊で、インクを乗せているにもかかわらず、表面が削られているような視覚効果があり、とても不思議です。触ってみるとインクが盛られていることがわかります。特殊印刷はこの他にもたくさん存在します。作家の個性や、作品の雰囲気と合わせて考えることで、写真集の表現は無限に広がります。本の制作は印刷の奥深さを感じさせてくれ、その逆もしかり、印刷技術の多様性により写真集制作が魅力的でもあるのです。

職人たちの技により写真集の表現力が高められる。

だから写真はやめられません。

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ケースに施された特殊印刷

▼予告
次回の投稿は10月1日(火)を予定しています。次回からは撮影現場について連載する予定です。
本づくりのこんなことを知りたいなどの質問をお受けいたします。コメント欄に書き込みをお願い致します!

写真集「MOTHER」は全国書店の他、以下のサイトでもお求めになれます。
赤々舎
アマゾン
著者ホームページ(サイン入り)

写真展「MOTHER」がキヤノンギャラリー大阪で開催されます。
2019/10/24〜30(土曜13:00にトークイベント開催、日曜は休館)
詳細はこちらです。

関連の作品「Hands to a Mass」がニコンプラザ銀座のフォト・プロムナードで開催中です。
2019/8/31~10/31(日曜は休館)
詳細はこちらです。ぜひお越しください。

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