見出し画像

MOTHERの作り方①「だから写真はやめられない」

拙作写真集「MOTHER」が赤々舎さんより、ついに一般発売です!

製造業(製鉄所と町工場)の技能継承から高度経済成長期と現代のギャップをみつめるドキュメント。8月9日にキヤノンギャラリー銀座での写真展を終え、10月24日〜30日にはキヤノンギャラリー大阪に巡回します。

展示も出版も、ご想像の通り多くの方々の力添えによって形になるものです。それをわかっていながらも私は、写真はひとりで完結するのがベストな表現手段と考えていました。写真集を作るようになってその思いが変わってきた次第です。

■手作りの写真集がブーム

世界では作家本人によるハンドメイド写真集の価値がどんどん高まっています。「ダミーブック」と呼ばれるこだわりの結晶のような手製本を海外のコンペティションに応募し、商業出版にこぎつける方法が目立っています。その一方で、手作り感がありつつも、より早くより多くの人に本を届けるべく、最初から出版社で編集者やデザイナーと一緒に形にしていく方法もあります。その願いを叶えてくれたのが、出版社「赤々舎」の姫野希美さんでした。こちらのフワッとしたアイデアを優しくうなづいて聞いてもらったり、「こんな見せ方をやってもいいかもしれない」とアドバイスをいただいたり。1年以上じっくりと進めて、ここまで来ました。

写真集「MOTHER」には、写真そのものに留まらないこだわりがいっぱいあります。後ほど紹介しますが、金属光沢を放つケースや手貼りで施した仕掛けなど「本でないとできないこと」を散りばめています。実は2017年に発売した前作の「Touch the forest, touched by the forest.」も同社より刊行され、手間ひまかけた本で大変お世話になりました。

協業による写真集の制作は、独りで当初考えていた構成を上回る瞬間が随所で起こり、ワクワクさせてくれます。そして、数千部を量産するような本はハンドメイドとは言わないのかもしれませんが、実際の現場を覗くと、実に人の手による温もりあふれる工程が多いことか。そこで「MOTHERの作り方」と題して、この本作りに関わっていただいた方々を順にご紹介しようと思いました。

初回はもちろん、赤々舎代表の姫野希美さんです。

写真集「Touch the forest, touched by the forest」(赤々舎刊)

■当初の構想を変えた「気づき」

「MOTHER」の撮影が本格化した当時は、製鉄所で働く技術者のプライベートを含めたドキュメンタリーで完結させるつもりでした。製鉄の現場一ケ所で技能継承の難しさを伝えようという考えだったのです。

「鉄は生きものだ」と技術者たちは口をそろえます。それほど扱いが難しく、想定外の挙動が起こることに備え、日頃から細かいことに目配せが必要な現場です。積極的にベテラン技術者が若手育成の指導に関与しなければ技能が引き継がれません。数年前に学生時代の友人がそんな取り組みに力を入れている工場を紹介してくれました。高度成長期に瀬戸内海に建設された日本鋼管福山製鉄所(現・JFEスチールの西日本製鉄所)。鉄は写真をなりわいにしてから15年近くずっと取り組みたかったテーマですが、ようやくたどりつくことができました。

製鉄所の撮影をある程度済ませたある日、姫野さんとの打ち合わせ(というかイベントの打ち上げ?)で、そもそもなぜこれをテーマにしたか、きっかけの話になりました。鉄鋼業の現状の説明に始まり、自分自身が大学時代に鉄を専攻していたものの挫折したという話に至りつつ、話題は次第に私の生い立ちに移っていきました。金型(金属部品の大量生産を行う装置)を製作する町工場に勤める父の背中を見て育ったこと、そして父から高度成長の自慢話を散々聞かされたことなど、話せば話すほど父が作品制作の動機になっていたことに気づかされたのです。

製鉄所の高炉で作業する技術者

■引き出される感覚

姫野さんは、そんな私が父を撮っているか尋ねます。実は10年以上前に職人としての父を撮影していたのですが、それを見てみたいと言うんです。正直なところ単なる個人的な写真だったので抵抗がありましたが、自分の中にあった何かが引き出されていくのを、じわっと感じました。

私は写真の道を歩み始めた当初、黙々と独りで休日出勤や残業をする父の姿を記録していました。後に還暦を迎え、その祝いに工場で記念のポートレートを撮影しました。そうして撮りためていた写真を改めて整理すると、確かにそこには(姫野さんの言葉を借りると)「内奥をうかがわせる」部分があったのです。

もともとそれほどコミュニケーションをとることが少なかった父と私ですが、これをきっかけに撮影を再開し、思いがけず、父と金型業界、高度経済成長への理解が深まりました。そのおかげで、高度成長期を代表する巨大な製鉄所と小さな町工場という、共通点を持ちつつも異なるふたつの現場が抱える課題と取り組みを見出し、ひとつの本に収めることができました。どんな課題や取り組みなのか、それはまたこれからお伝えしていきます。

自分ではたどりつけない解を導き出してくれる人に出会える。

だから写真はやめられません。

町工場で働く父(左)

▼予告
次回は「装丁」についてお伝えします。投稿は9月13日(金)の予定です。
あわせまして、本づくりについてご質問をお受けします。こんなことを知りたいなどありましたら、ぜひコメント欄に書き込みをお願い致します!

写真集「MOTHER」は全国書店の他、以下のサイトでもお求めになれます。
赤々舎
アマゾン
作家ホームページの問い合わせ窓口(サイン入り)

写真展「MOTHER」がキヤノンギャラリー大阪で開催されます。
2019/10/24〜30(土曜13:00にトークイベント開催、日曜は休館)
詳細はこちらです。会場でお待ちしております。

関連の作品「Hands to a Mass」がニコンプラザ銀座のフォト・プロムナードで開催中です。
2019/8/31~10/31(日曜は休館)
詳細はこちらです。ぜひお越しください。

#写真 #写真家 #写真集 #写真展 #仕事 #作家 #本 #アート #学び #人生 #コラム #photo #紀成道 #赤々舎 #姫野希美