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MOTHERの作り方②「だから写真はやめられない」

先日発売となった拙作写真集「MOTHER」(赤々舎刊)。製造業の技能継承から高度経済成長期と現代のギャップをみつめるドキュメントです。このnoteでは「MOTHERの作り方」と題して、この本作りに関わっていただいた方々を順にご紹介すると同時に、メイキングストーリーを連載しています。第2回は装丁について。デザインしていただいたのはユータデザインスタジオの中島雄太さんです。

▼これまでの記事一覧
  第1回:構成(赤々舎・姫野希美さん)

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写真集「Touch the forest, touched by the forest.」(赤々舎刊)

■本のプレタポルテ

2年前、森にたたずむ精神科病院での四季を追った写真集「Touch the forest, touched by the forest.」を同じく赤々舎さんより発売しました。デザイナーの雄太さんとはこの時からのおつきあいです。

「個性として認め合うこと」「自然の持つ温もり」などをテーマに扱った作品で、雄太さんの考えで表紙に本物の木の葉を柔らかい布で包み込んで、内容を表した装丁を実現していただきました。文化服装学院出身のデザイナーなので布の扱いにとても長けています。透け具合や手触りなど絶妙なバランスの布をまとった写真集ができあがり、雄太さんの言葉でいう「本のプレタポルテ」となっています。

話はそれますが、この葉っぱを拾い集めるのは大変でした。作品と自分にゆかりのある土地で行ったのですが、まずは病院の敷地。退院された被写体の方に少し手伝っていただきながら、1000枚以上の葉を集めたはいいものの、空港から東京に運ぶのに空港で葉を広げて乾かしたところ、葉っぱの形が特定の植物に似ていたからか、かなり怪しまれました・・・。京都では、赤々舎の姫野さんとスタッフの宮本さんに一緒に拾っていただき、印刷部数に合わせた枚数をそろえることができました。そして葉を表紙に並べる作業。樹種や置き場所のバランスを考えながら、雄太さんと東京工芸大学の学生の方に手伝っていただき、朝から晩までまる2日間かかりました。

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雄太さん(奥)と学生さんとで表紙用の葉っぱを固定

■本だからこそできること

今の時代、本を世に出せることは貴重だと考えています。だからこそ手に取った時に、物としてそばに置いておきたいと感じてもらえるものを届けたい。今回の「MOTHER」もそれを念頭に装丁していただきました。

▼写真展「MOTHER」案内文より
  「鉄は生きものだ」と技術者は口をそろえる。しかし鋼の製品は命の痕跡を微塵も見せてはくれない。それほどまで無機的で均質な姿で眼前に現れる。製鉄所では中核設備の高炉がかつて母胎に例えられた。一日に幾度と出産される子どもの振る舞いは、いつも予想通りとは限らない。モノへの畏れともとれる謙虚な姿勢によって、柔軟な匠たちが鋼に育て上げる。非常に人間臭い現場でもある。

これを写真集のケースを使って表現しています。高度経済成長や製造業をテーマにしているため、一点もののオブジェというよりも、大量生産されたプロダクトのイメージ。ソリッドなステンレス板のようなデザインとして、形にしてもらいました。

身近にある金属をよく見ると、表面が鏡のように磨かれたものより、方向が整った線がたくさん入っているのがほとんどです。金属といえばツルツルのピカピカをイメージされる方が多いと思いますが、「ヘアライン」と呼ばれる仕上げの筋があることで、リアルの質感に近づけてくれます。これに見た目が近い「紙」を選ぶことにしました。世の中にはいろいろな紙が既製品としてあるのだと驚かされます。そして本を引き出すと、熱い製鉄の現場が見えてくるというわけです。

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写真集「MOTHER」をケースから取り出す

■試行錯誤、試行錯誤

ちなみに通常版では本物の鉄板を使いませんでしたが、鉄を用いた限定仕様ケースも取り扱います。実は他にもいくつか別の素材を使ったアイデアもありました。詳しくはお伝えできないのが残念ですが、何回かの打ち合わせと数ヶ月の試行錯誤を経て最終的にここに至っています。

この写真集では、文章でも内容を味わっていただきたかったので、長めのテキストを掲載しています。英文も併記しました。海外の読者も意識してのことです。「写真と言葉」の関係は日本と欧米とでは少し異なる印象があります。このあたりはまた後日のnoteで。この本で記したのは10000字。長文を扱いつつも写真集の体を保てるように、入れる位置や段組みなど細工がなされています。このあたり、自分だけではどうやってもたどり着けない領域です。

そしてこの本の中には、製鉄所のある町の風景を昔の写真とともに見せている部分があります。いま見える風景から想像がつかないほどその背景に開発の歴史があることを表現すべく、写真を「埋め込み」ました。その仕組みと工程については、また次回にお伝えします。

手に取る本だからこそできることがある。

だから写真はやめられません。

▼予告
次回の投稿は9月19日(木)を予定しています。テーマは「製本」です。
本づくりのこんなことを知りたいなどの質問をお受けしています。コメント欄への書き込みをお願い致します!

写真集「MOTHER」は全国書店のほかこちらでもお求めになれます。
赤々舎
アマゾン
著者ホームページ(サイン入り)

写真展「MOTHER」がキヤノンギャラリー大阪で開催されます。2019/10/24〜30 (土曜13:00にトークイベント、日曜は休館)
詳細はこちらです。

関連の作品「Hands to a Mass」がニコンプラザ銀座のフォト・プロムナードで開催中です。
2019/8/31~10/31(日曜は休館)
詳細はこちらです。ぜひお越しください。

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