木鳥 建欠 (キドリ タテカツ)
長編小説。悲喜劇。1章から5章。 あらすじ:ある介護施設の一室で、駅長が縊死しようとすると、闇の中から現れた「影」に、残り数日しかない寿命をまっとうするよう説得される。そして翌日、施設に連れてこられたうそつきと出会う。うそつきは、神と会ったことがあると告白する。
「欧州御巡業随行記」 「欧州御巡業随行記」は李王のヨーロッパ外遊に随行した篠田博士により、1928年刊行されました。 李王含める外遊団は、1927年(昭和二年)、横浜よ…
「Peace in Their Times」 この本は1964年に刊行されています。 このKelenというハンガリー出身の風刺画家は、1920年代から30年代にかけて3度ムッソリーニと会っています…
最近読んだ二冊の本の著者が、偶然第二次大戦中のイタリア独裁者であるムッソリーニと会っていたという共通点がありました。そしてそれぞれの本でそれぞれのムッソリーニに…
第214回 駅長は、何が良かったのか、上手くは説明できない、と返事した。 「でも確かに良かったのですね?」 駅長は、うなずいた。 「そうですか。それは止めた…
第213回 駅長は少し考えてから、死ぬとどうなるのか影に尋ねた。 影は、クスクス小さく笑いながら言った。 「こわいのですか?」 駅長はなんと答えたらよいかわ…
第212回 それは二日ほど前に聞いた、よく通る太い声だった。振り返ると以前と同じ場所に影が立っていた。身体はやはり黒いマントで覆われており、細い杖を持つ両手は…
第211回 焦る聴衆の怒号と罵声が飛び交う中、雨が降り出した。しかし誰ひとりとしてその場から去ろうとする者はいなかった。皆夢中になってうそつきを木の上から飛び…
第210回 聴衆から罵声がうそつきに向かって投げつけられた。雨雲の接近に焦った聴衆は、早く何とかしてうそつきを木の上から飛び降りさせて、この決着をつけなくては…
第209回 雨雲は両翼を伸ばした巨大な鳥のように、施設を包み込むようにして広がってきていた。そしてそれにともなう黒い影と一緒に、湿った冷たい風が建物前を散歩し…
第208回 「大丈夫かな?」裏切られたくない期待を守るように、ある小心な老人がつぶやいた。 「ただではすまんだろうな。」責任の所在を自分からはずすように、無責…
第207回 「どうせこんな事だろうとわかっていたよ!」瓜実顔の老婆が残念そうに言った。「やけに威勢がよかったからもしや、と思ったんだけど。」 するとこのとき聴…
第206回 「まったく子供じみた話だな。」あきれた坊主はつぶやいた。 「さあ、早く飛び降りてみろ!」聴衆のひとりがせかした。 「いつまでそんなとこにいるつも…
第205回 「あんなところであいつ何をしてるんだ?」驚いた坊主がすぐ隣にいた老人に尋ねた。 「飛び降りるんだって!」白いひげを伸ばした、杖を突いた老人が興奮気…
第204回 二人はのそりのそりといつもの散歩道を歩いていた。太陽はやさしくその陽光をふりそそぎ、温かい風が触れるものすべてをなでるように吹き抜けていった。いつ…
第203回 「わしは神に自分の願いを聞いてもらったことがたくさんあるぞ。」うそつきが得意げに言った。 「どんな?」 「息子の病気を治してくれて、わしを真人間…
第202回 「かわいそうに、かわいそうに。」眼鏡をかけた小さな老婆は何度も繰り返した。 「そりゃあ無駄ってもんだろう。」白髪の男が気の毒そうにつぶやいた。「ど…
2022年3月8日 02:21
「欧州御巡業随行記」「欧州御巡業随行記」は李王のヨーロッパ外遊に随行した篠田博士により、1928年刊行されました。李王含める外遊団は、1927年(昭和二年)、横浜より1万トンの旅客蒸気船(箱根丸)に乗って出発し、マラッカ海峡、インド洋、スエズ運河を通り、いくつかの港に寄港しながら、目的地であるフランスのマルセーユには、出発から43日後の同年7月4日に到着しました。一行はフランス、スイス、
2022年3月1日 05:57
「Peace in Their Times」この本は1964年に刊行されています。このKelenというハンガリー出身の風刺画家は、1920年代から30年代にかけて3度ムッソリーニと会っています。もちろん個人としてではなく、ジャーナリストとしての取材対象としてで、面会というよりもムッソリーニの現れる場所にいた、という感じです。一度目は1923年、スイスのローザンヌでした。この時はムッソリー
2022年2月22日 05:29
最近読んだ二冊の本の著者が、偶然第二次大戦中のイタリア独裁者であるムッソリーニと会っていたという共通点がありました。そしてそれぞれの本でそれぞれのムッソリーニについての印象が書かれていました。これらの本は、ムッソリーニと会うことを目的とはしておらず、二人の著者も、ムッソリーニを主題においていません。ひとつはジャーナリストとしてムッソリーニと会い、もう一つは旅の途中の表敬訪問として会っていま
2021年11月30日 05:30
第214回 駅長は、何が良かったのか、上手くは説明できない、と返事した。 「でも確かに良かったのですね?」 駅長は、うなずいた。 「そうですか。それは止めた甲斐もあった、というものです。」影はうれしそうに言った。「それではそろそろ横になりますか?」駅長は同意して横になろうとしたが、少し思案してから、できればこの濡れた服を着替えさせてほしい、と要求した。 「もちろんです。着替え終わるまで
2021年11月29日 05:12
第213回 駅長は少し考えてから、死ぬとどうなるのか影に尋ねた。 影は、クスクス小さく笑いながら言った。 「こわいのですか?」 駅長はなんと答えたらよいかわからなかった。こわくない、と言えばウソになるが、気を失うほどこわくはなかった。駅長は、苦しくなければこわくはない、と答えた。 「苦しくはありません。ただほんの少し息苦しくなるだけです。それだけです。わたしが合図したら横になって目をつむ
2021年11月28日 06:46
第212回 それは二日ほど前に聞いた、よく通る太い声だった。振り返ると以前と同じ場所に影が立っていた。身体はやはり黒いマントで覆われており、細い杖を持つ両手は白かった。 「うそつきさんが青い顔をしながら飛び降りたんです。」影は説明した。「まったく愚かな男です。ああいうタイプの人間はすぐに調子に乗ってしまうんでしょうね。困ったものです。ク、ク、ク。でも心配しなくても大丈夫です。死んでやしませんか
2021年11月27日 05:49
第211回 焦る聴衆の怒号と罵声が飛び交う中、雨が降り出した。しかし誰ひとりとしてその場から去ろうとする者はいなかった。皆夢中になってうそつきを木の上から飛び降りさせようとがんばっていた。反対にうそつきは言葉をつくして聴衆の説得を試みたが、効果はまったくなかった。聴衆はうそつきが話そうとするたびに、あおられた炎のようにさらに激しく、枝の上になすすべもなく立ち尽くすうそつきを追求した。 雨の中ひ
2021年11月26日 05:16
第210回 聴衆から罵声がうそつきに向かって投げつけられた。雨雲の接近に焦った聴衆は、早く何とかしてうそつきを木の上から飛び降りさせて、この決着をつけなくてはならない、とやっきになっていた。もしうそつきが死ななかったら、ほかの誰かが変わりに死ななければならないのである。聴衆はさっきまでの、奇跡に対する期待も忘れて焦っていた。うそつきは聴衆からの敵意を一身に受けながら、彼らを説得し始めた。 「わ
2021年11月25日 05:59
第209回 雨雲は両翼を伸ばした巨大な鳥のように、施設を包み込むようにして広がってきていた。そしてそれにともなう黒い影と一緒に、湿った冷たい風が建物前を散歩している住人たちに向かって吹いてきた。冷たい風に恐怖をあおられた聴衆は、新たな不安がわきおこってきた。普段、施設に住む住人に死の予兆を伝える雨雲は、太陽の沈みかけた夕刻、もしくは夜中にしかなかったことで、昼前に来ることは極めて異例のできごとだ
2021年11月24日 06:21
第208回 「大丈夫かな?」裏切られたくない期待を守るように、ある小心な老人がつぶやいた。 「ただではすまんだろうな。」責任の所在を自分からはずすように、無責任な老人が他人事のように言った。 「もしかすると、もしかするかもしれんぞ。」これから起こる惨事を確信しながら、おもしろがるようにまわりをながめていた、慎重な老人が言った。 この聴衆の外側にいた駅長と坊主も、はじめこそ冷やかすようになが
2021年11月23日 05:50
第207回 「どうせこんな事だろうとわかっていたよ!」瓜実顔の老婆が残念そうに言った。「やけに威勢がよかったからもしや、と思ったんだけど。」 するとこのとき聴衆の数人が驚きの声をあげた。枝の上にいるうそつきが幹を両手でつたいながら、そろそろとバランスをとって枝の上に立ち上がり始めたのだ。聴衆は息をのんでこの光景を見守った。初めて立ち上がった赤子のように、うそつきの少し曲げられた両足は震え、上半
2021年11月22日 06:39
第206回 「まったく子供じみた話だな。」あきれた坊主はつぶやいた。 「さあ、早く飛び降りてみろ!」聴衆のひとりがせかした。 「いつまでそんなとこにいるつもりなんだ?あんたの祈りはあんたを守ってはくれんのかね?どうなんだ?」 「でもこわいのならこわいってさっさと言えばいいじゃないか。そんなら降りるの手伝ってやってもいいぞ。」 「静かにしてくれ、静かにしてくれ!」うそつきは両腕で大切そうに
2021年11月21日 06:01
第205回 「あんなところであいつ何をしてるんだ?」驚いた坊主がすぐ隣にいた老人に尋ねた。 「飛び降りるんだって!」白いひげを伸ばした、杖を突いた老人が興奮気味に言った。 「なんだって?」坊主が問い返した。 「飛び降りるんだって!」杖をついた老人が繰り返した。 「どうして?」 「なんでもあそこから飛び降りて、奇跡を起こそうとしてるらしいよ。」近くにいた瓜実顔の老婆が説明してくれた。
2021年11月20日 08:29
第204回 二人はのそりのそりといつもの散歩道を歩いていた。太陽はやさしくその陽光をふりそそぎ、温かい風が触れるものすべてをなでるように吹き抜けていった。いつもと同じように、建物の前の広場では住人がいくつかのグループを作ってのんびりと動きそして話し合っていた。老犬は今日も老人に投げられた枝切れをうらめしそうに追いかけて舌を出しているし、家畜のようにただよう老人も同じ場所で同じ会話にいそしんでいる
2021年11月19日 05:00
第203回 「わしは神に自分の願いを聞いてもらったことがたくさんあるぞ。」うそつきが得意げに言った。 「どんな?」 「息子の病気を治してくれて、わしを真人間にしてくれた。」 「願いはかなってないと思うがね。」白髪の男がくすくすしのび笑いながら声をひそめて言った。 「でもあんたはその息子に医者からの薬を飲ましたりしたんだろう?」坊主が問いかけた。「もしそうなら神のおかげじゃなくて、薬が効い
2021年11月18日 05:18
第202回 「かわいそうに、かわいそうに。」眼鏡をかけた小さな老婆は何度も繰り返した。 「そりゃあ無駄ってもんだろう。」白髪の男が気の毒そうにつぶやいた。「どうせ神なんかいやしないんだし、祈るだけでいいんなら今頃おれはこんなとこにいないだろうしね。」 「じゃあこの子の願いはかなえてもらえないのかい?」眼鏡をかけた小さな老婆はおろおろしながら尋ねた。 「無理だろうねえ。げんにまだ帰ってきてい