回想 第五章 209
第209回
雨雲は両翼を伸ばした巨大な鳥のように、施設を包み込むようにして広がってきていた。そしてそれにともなう黒い影と一緒に、湿った冷たい風が建物前を散歩している住人たちに向かって吹いてきた。冷たい風に恐怖をあおられた聴衆は、新たな不安がわきおこってきた。普段、施設に住む住人に死の予兆を伝える雨雲は、太陽の沈みかけた夕刻、もしくは夜中にしかなかったことで、昼前に来ることは極めて異例のできごとだったのだ。これをどう解釈すべきなのか?うそつきも含め、すべての聴衆がとっさにこの