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くずのびんづめ

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旅行記。
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#エッセイ

Eternal Travel ~ロシア人の巣窟にて~

Eternal Travel ~ロシア人の巣窟にて~

「ウクライナ軍がロシア軍の侵攻阻止、戦車〇両撃破~」「ウ軍反転攻勢で拠点奪還成功~」このような報道を目にする度に、僕は心のどこかにざらつきを感じていた。この戦争のロシア=加害者、ウクライナ=被害者という世界の共通認識に異を唱えるつもりはないが、ロシア軍の戦車が撃破されたということは、ロシア人が確かに死んでいるのだ。マクロ視点では当然喜ばしいことなのだろうが、少なくとも当事者ではない国の人間が「やり

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「優しさのベクトル」

「優しさのベクトル」

「なんでこいつらこんな自己中なのだろう。」
海外で何度この負の感情を抱いたことか。例えば飛行機内でひじ掛けは間違いなく占拠されるし、ホステルの室内では夜中であろうとイヤホンも使わずに動画を大音量で見ていたりする。日本人であればまずしないことばかりだ。
その度に「なんて嫌な奴だ」と表に出さずとも敵愾心を抱くのだが、その火がなかなかどうして続かない。というのも、「嫌な奴」のはずの彼らは、僕の気も知らず

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第2話『聖戦』#タイ2

第2話『聖戦』#タイ2

バンコクでの宿はカオサン通りのホステルを取っていた。カオサン通りはバックパッカーの聖地と呼ばれ、旅の始まりにはうってつけだろう。

ホステルといえば、単身バックパッカーが多く、そこで交流が生まれるのも楽しみの一つである。しかし、結局は身軽を好む人間たち同士なので、深く干渉し過ぎることもなく、一期一会の邂逅を楽しむ。どこか新宿のゴールデン街に似たところがある。

僕の宿泊するホステルは欧米人9割、ア

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28話『旅の恥を搔き集め』

28話『旅の恥を搔き集め』

バラナシで有名な和食屋「MEGU CAFÉ」は残念ながらコロナで閉店したようなので(26話参照)、別の和食屋「BUNNY CAFÉ」へ訪れてみることにした。日本だったら間違いなくガールズバーかその類のこの店名、今回はGoogleの最新口コミが2週間前ということも確認済みなので、閉店ということはないだろう。

GoogleMapもあてにならないとにかく複雑なバラナシの路地を右往左往しながらやっと店を

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第27話『散髪』

第27話『散髪』

髪を切った。理由は主に3つ。

1つ。
特にやることもなく、朝晩はガンガーを眺め、暑すぎる昼はカフェで過ごす日々が続き、何かイベントが欲しくなる。
海外で、しかもインドで髪を切るなんて話のネタには充分だろう。

2つ。
僕が滞在しているホステルはいわゆるヒッピー宿で、共有テラスでは昼夜問わず宿泊客がガンジャを吸っている。というのも、バナラシは大麻の神でもあるシヴァ信仰が強い。伝統的な大麻入りラッシ

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第26話『振り返れば奴がいる』

第26話『振り返れば奴がいる』

今夜は日本食を食べに行こう。胃袋山根君。油ものもスパイスも苦手な僕にインド料理のハードルは高く、とにかく薄い味の優しいものを求めていた。

調べると、MEGU CAFÉという和食屋が有名なようだ。宿から徒歩40分程下流のところにあるようなので、ディナーをいただいた後で別のガートのプージャを味わおうと算段し、16時過ぎに宿を出た。

いつも通り最寄りのアッシーガートからガンガーに降り、河沿いを歩き始

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第25話『Leave me alone』

第25話『Leave me alone』

ガンガーの朝は早い。日の出とともに朝のプージャ(ヒンドゥーの礼拝儀式)が行われるからだ。昨晩のプージャで隣に座り色々と教えてくれたサーシ君が朝も一緒に行こうと誘ってくれたので、朝5時にアッシーガート(ガートとは河辺に設置された拠点広場で、ガンガーには84存在する。僕の宿にほど近いアッシーは上流の端に位置する)で待ち合わせをした。

ガンガーに朝日が昇る様は筆舌に難く、荘厳と言う他ない。朝のプージャ

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第0話『憂鬱』#日本

第0話『憂鬱』#日本

言葉とは不思議なもので、類似した意味を重ねた熟語である「憂鬱」の方が一文字の「鬱」よりいささかマイルドな印象を抱かせる。

ともかく、出国より4.5日程前から僕は恐ろしく憂鬱だった。昔から好んでいる表現を使えば「得体の知れない不吉な塊」に始終圧さえつけられていたと言ってもいい。

旅程はおろか、宿泊先の確保やパッキングすら手につかない。当初の出国予定がインフルエンザに罹って延期となり、出鼻を挫かれ

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