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「介護books セレクト」⑧『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』 松本俊彦

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 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


「介護books セレクト」

 当初は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、「介護books」として、毎回、書籍を複数冊、紹介させていただいていました。その後、自分の能力や情報力の不足を感じ、毎回、複数冊の紹介できないのではないか、と思い、いったんは終了しました。


 その後、それでも、紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活し、継続することにしました。

 今回も1冊を紹介したいと思います。

「自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント」 松本俊彦

 もしかしたら、自分には「自傷は関係ない」といった方も、多いのかもしれません。私も昔は、そんなようなことを思っていたのですが、いろいろなことを知るたびに、自分自身は、育つまでに恵まれていたのかもしれない、と思うようになりました。

 さらに、精神科医が著者である、この書籍を読んだときに、介護中の、自分自身の行為も、「自傷行為」だったのかもしれないと思いました。

 とても追い詰められた頃、どうしようもなく、ドアなどを拳で叩き、穴が開いてしまったことがありました。それは、恥ずかしいことだという自覚もありましたが、その時、それで、もっとひどいことになるのを避けたような気はありました。

 そうした行為が、もしかしたら、「自傷行為」に該当するかもしれないと、この書籍を読んで、気がつきました。

 それは、とても個人的な経験に過ぎませんが、それだけ追い込まれていたかもしれない、と思い、だから、もしかしたら、この書籍の内容が、今、介護で辛い方にも、少しでも役に立つかもしれないと思いました。


自分で、自分を傷つけてしまうこと

 自傷行為を行なってしまうのは、女性の方が多いという統計も出ていますが、それは、必ずしも男性が少ない、ということではないようです。

 男性が自傷する場合には、「皮膚を切る」よりも、「こぶしで壁を殴る」とか、「固い家具に身体をぶつける」、「壁に頭をぶつける」といった方法を好む傾向があるからです。この方法だと、ちょっと自傷って気づきにくいですね。どちらかというと「自傷」よりも「自分に対する暴力」に近い行動という印象を持つ人もいるでしょう。
 いずれにしても、自傷は比較的ありふれた行為です。でも、一般の人はあまりそのことを意識しないで生活しています。   

 手首を切ったりするような自傷行為は、介護者の場合は少ないのかもしれません。それは、自分自身のことへ注意を向ける余裕自体がない可能性もあります。

 それでも、家族介護者が、介護に集中せざるを得ない環境の中で、自分自身への体調などが「二の次」になってしまうこともあります。

 それは、感覚的にやむを得ないことだとは思いますが、同時に、もしかしたら「セルフネグレクト」というような部分もあるのかもしれない、と考えることはあります。

 「セルフネグレクト」にまでなってしまえば、それは、おそらくは「自傷行為」に限りなく近いのだと思います。

自分を傷つける関係性

 自傷をせざるを得ないような状況に追い込まれる関係性を、著者は「自分を傷つける関係性」と表現し、三つに分けています。

第一のタイプは「否定される関係性」です。

 これは、やや強引かもしれませんし、この書籍にあげられている例に比べれば、負担が軽い可能性もありますが、思い出したのが、認知症の初期症状のことです。

 認知症になり、記憶に障害があり、すぐに忘れてしまうことがあります。介護者が、要介護者に対して、何かを話す。その時は理解してもらえる。だけど、その会話が終わるか終わらないかのうちに、また同じことを聞かれる。それもさっきまでの会話がまるでなかったかのように聞かれ、また同じ答えを伝える。

 その繰り返しが続くと、いらだちだけでなく、怖さが混じることはないでしょうか。さらには、介護者が、自分の存在そのものを否定されたような気持ちになることもあり得ます。

 それは、認知症が招いた、誰も悪くない状況なのですが、これは、介護者にとっては「否定される関係性」に近いような気がします。そして、この時期の介護者の負担感については、それほど深刻に捉えられていないように思いますが、こうした日常は、実は、想像以上に介護者を疲れさせてしまうのではないでしょうか。

このような関係性はあなたの心のエネルギーを消耗させます。あなたは、「何か深刻な身体の病気ではないか?」と疑いたくなるほど、異様なまでに疲れやすくなります。 

支配される関係性

自分を傷つける第二の関係性は、「支配される関係性」です。

 これも、介護者のことと、一緒に並べることはできないかもしれませんが、特に支援者との関係において、やけに疲れるようなことがある時は、もしかしたら、こういう「関係性」が知らないうちに潜んでいる可能性もあるかもしれません。

 本来、あなたを助けてくれる人たちが、熱心さのあまり、あなた自身の気持ちを飛び越えた支援を行ってしまうこともあります。たとえば、あなたの行動を変えようと躍起になるあまり、あなたへの助言が、「あなたのありのまま」を無視した、まるで命令のようなニュアンスを帯びてしまうことがあるのです。 

   さらに言えば、認知症の場合、介護をしていくのは、「認知症に支配されている毎日」と言っていいのかもしれません。

 こうして、強引に介護に引き寄せすぎるのは、介護者にも、「自分を傷つけずにいられない人」にも、どちらにも失礼かもしれませんが、それでも、こうした要素を並べると、私自身の、介護中の行為も、一種の「自傷行為」だったのかもしれない、という思いは、少し強くなりました。

本当のことを言えない関係性

 著者が「自分を傷つける関係性」として三つ目にあげたのが「本当のことを言えない関係性」ですが、これは、もしかしたら、日本の社会に生きている限り、誰にでも思い当たるような関係性かもしれません。

 これは、もちろん、家族介護者にも当てはまり、例えば、病院や施設に、要介護者を預けざるを得ないような状況の時に、介護者の間では「人質をとられているようもの」という表現をすることがあります。誰が悪いというわけではないのですが、病院や施設のスタッフには、「本当のことを言えない」ことも少なくありません。

最初の一冊

 この書籍では、「自分を傷つけずにはいられない」行為として、摂食障害もあげられています。

 私は決して「だから、まずはとにかく拒食や過食をやめるべきなんだ」などというつもりはありません。「自分はいま何かがつらいんだな」と、自分の状況を認めてあげること、そして、もし余裕があれば、「何がつらいのか」を考えてみる。まずはそこからはじめてみましょう。

 

「自傷からの回復」に興味がある方が、もしいらっしゃれば、様々な書籍やインターネット上の膨大な情報に、すでに接していられるかもしれません。

 そんな方でも、できたら、この本は、改めて手に取って欲しい本だと思いましたし、さらには、これから知りたいと思う方がいらっしゃれば、ぜひ「最初の一冊」として、読んでもらえたら、と思う本でした。

 今回は、介護ではなく、自傷に関してのことですから、ここで紹介したり、私が話題にすべきことでないのかもしれません。それでも、自分の苦しさについて、どうしていいか分からない方にとっては、少しでも助けになるのではないかと思いましたので、紹介しようと思いました。




(他にもいろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。




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