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「介護について、思ったこと」㉑「介護離職」への別の視点。

 いつも読んでくださる方は、ありがとうございます。
 そのおかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて、読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

介護について、思ったこと

 このnoteは、家族介護者に向けて、もしくは介護の専門家に対して、少しでも役に立つようにと考えて、始めました。

 もし、よろしければ、他の記事にも目を通していただければ、ありがたいのですが、基本的には、現在、話題になっていることよりも、もう少し一般的な内容を伝えたいと思って、書いてきました。

 ただ、その時々で、改めて気になることがあると、もしかしたら差し出がましいことかもしれませんが、それについて考えたことを、お伝えしようと思いました。

 よろしかったら、読んでいただければ、幸いです。

 今回は、「介護離職」について、実は見落としていた点があるのではないか、と改めて思いましたので、そのことについて紹介させてもらいたいと考えました。

介護離職

 2015年に、政策として掲げられた「介護離職ゼロ」という目標が、どれだけ実現したかというと、その目標は「はるか彼方のまま」なのは変わらないようです。

(2021年)個人的理由で離職した人のうち「介護・看護」を理由とする人は約9.5万人です。
 男性は約2.4万人、女性は約7.1万人と女性のほうが多くなっています。
 性・年代別に「介護・看護離職」の割合をみると、男性・女性ともに「55~59歳」で最も高くなっています。

 この介護離職を防ぐために、「介護休業制度」も制定され、それは進歩だと思いますが、介護休業は「93日」しかありません。

 厚生労働省の資料では、「介護に直面しても仕事を続ける」意識が重要としています。

 誰にも相談せずに介護離職してしまい、経済的、精神的、肉体的により追い込まれてしまうこともあります。
 介護休業は通算で93日ですが、「自分が介護を行う期間」というよりは、「今後、仕事と介護を両立するために体制を整えるための期間」です。
 地域包括支援センター(高齢者の生活を支えるための総合機関として各市町村が設置)や、ケアマネジャー(介護支援専門員)などと相談し、上記の制度や介護保険のサービスを上手に利用しましょう。

 まず「介護に直面しても仕事を続ける」意識が重要、という精神論から語られていることに、ちょっとした驚きもあるのですが、介護休業も「今後、仕事と介護を両立するために体制を整えるための期間」ですから、この間に施設に入所してもらうか。デイサービスや、ヘルパーや、それも、仕事と両立するためでしたら、夕方に終了する通常のデイサービスでは不可能でしょうし、さらに延長して利用するとなると、かなりの資金が必要になります。

 これらが可能になれば、家族介護者としてかなり無理をしながらでも「仕事との両立」はできますが、資金が用意できないなど、条件が整わなければ無理。ということを示すように、介護離職が大幅に減ることはありませんでした。

方針の変更

 在宅介護と施設への入居を比べた際に介護離職につながりやすいのは圧倒的に在宅介護です。施設に入居してしまえば、毎日の介護はすべて施設職員がやってくれます。しかし在宅介護となると、毎日朝から晩まで自分でケアをしなければいけません。そこで政府ははじめ、介護施設への入居を促すような取り組みをはじめました。

 2015年にまず乗り出したのが特別養護老人ホーム、通称・特養の増加施策です。特別養護老人ホームは行政が主導で運営する公的施設であり、入居者は介護保険を使えます。自己負担額は最大でも3割なので、リーズナブルに入居できるのが魅力です。特別養護老人ホームを増やすことで「お金の負担」というハードルを下げることが政府の狙いでした。

  その方針が変わったのは2019年でした。

 介護人材不足に加えて施設介護費の増大もあり、2019年からは一転、在宅介護者を増やす政策を始めました。しかし在宅介護と介護離職とは親和性が高いのは確かです。
 在宅介護の場合は自分と外部の介護保険サービスだけで要介護の家族をフォローしなければいけません。より長い間、要介護者の側にいる必要があります。すると会社に勤務することが難しくなるのです。
 確かに医療費の増大などの問題は高齢者以外の世代の負担を増やしてしまうことになりますので、非常に大きな課題であるのは確かです。しかし介護離職ゼロと矛盾しているのも事実です。

 そして、この「介護離職ゼロ」の目標も、それぞれの介護者が、ビジネスパーソンとしても、介護者としても、なるべく後悔のないように、といった方向ではなく、あくまでも「労働力」の側面からのアプローチのようです。

超高齢社会にあたって、介護離職はまさに国家的な問題になっています。前述したように、介護離職をするのは40代後半から50代の場合が多いこともあり、介護離職によって会社だけでなく日本全体の経済力が下がってしまう可能性もあります。

 介護で仕事をやめ、介護という「賃金は出ない労働」に専念したとしても、そのことが、まるで「労働」として価値がないかのように扱われることも、問題の一つだと思うのですが、そのことは、あまり問われていないようです。

 それ自体が、介護離職後、介護が終わって、復職をする際の障壁になっていると思うのですが。

介護離職をしない

 介護離職後の再就職が予想以上に厳しい 
 たとえば、ある人は面接で「介護をしている」と言ったことでどこからも採用されませんでした。また、ある人は介護に専念していた期間に関して、「このブランクに、あなたはなにを会得しましたか?」と面接官に尋ねられたそうです。
「介護をしていた。それだけで精いっぱいで他のことをする余裕などない」と介護者誰もが大声で言いたいところでしょうが、世間一般の介護に対する理解は、まだまだ進んでいません。「単なる休職中」の認識なのかもしれません。

 こうした状況は、私自身も専門家になっているので、微力ながら責任もあり申し訳ないのですが、今も、この見られ方は変わっていないようです。

 実は介護はいろいろな立場の人たちが否応なしに絡んでくるので、そうした人たちを調整するマネジメント能力が問われるし、養えます。また、接する人たちに要介護者に代わって説明するプレゼン能力も必要です。
 介護をするだけで立派なビジネススキルが身につくし、逆にそうしたスキルが介護に大いに生かされる。もっとこうした点にも注目してほしいし、介護をひとつの「キャリア」と評価してもいい気がします。

 こうした事↑は、とても賛同できる意見だと思います。

 家族として、介護という「実践」に24時間・365日体制で、何年関わったとしても、何らかの介護の専門家の「受験資格」にもなりません。
 
 個人的には妻と2人で、19年介護をしていましたから、半分で割ったとして、9年半の「介護経験」になるのですが、このことが、何の評価もされないことは、復職が難しい、といった経済的なことだけではなく、心理的な負担にも関わるのではないかと改めて思ったのは、最近、読んだ書籍の影響です。

アイディンティティの危機

 精神医療の現場では、こうした中年期のアイデンティティの危機がうつ病などの精神疾患へと発展してしまった患者さんをしばしば見かけます。
 よくあるパターンのひとつは、仕事や事業に時間や情熱を尽くしてきた人が、なんらかの理由で仕事や事業を続けられなくなってしまった場合です。この場合、収入や外聞といった世間的な問題に加えて、自分自身のアイデンティティの大部分を占めていたものを失ったあとでどうやってそれを再構築するかという、難しい問題に迫られます。  

「介護離職」とは、経済的に苦しくなった上に、介護負担がのしかかる。というだけではなく、それまで自分のアイディンティティであった「仕事」を失うことにより、精神的な危機を迎えやすい、ということもあるのだと思います。

中年期はもう、自分自身の構成要素を探し求める時期というより、すでに何者かになった・なってしまったあとの時期です。それだけに、せっかく手に入れ、十分に馴染んだアイデンティティの構成要素を失ってしまったときの再出発はなかなか大変です。

 しかも、一度、仕事を辞めてしまったあとは、介護をしている時期が、賃金が出ないとはいえ、「労働」として、あまりにも不当な評価をされていることもあり、アイデンティティでもあった仕事に「復帰」する、という「再出発」の希望すらないとすれば、より追い詰められやすくなるといえそうです。


 
 介護離職とは、アイデンティティの危機でもある、という視点を持つことによって、とにかく介護離職をさせない、といった(実質的には、そのための支援が不十分であれば、掛け声にすぎない)見方だけではなく、介護終了後に復職を希望する場合に、社会として、その復職について、どう考えていくか。
 
もしくは、介護離職した際の、様々な心理的な危険性の一つとして、アイデンティティの危機も視野に入れることによって、家族介護者の支援が、少しでも有効になるのではないかと思いますが、どうでしょうか。





(他にも、いろいろと介護について、書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。





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