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「介護books セレクト」⑥『大人のトラウマを診るということ』 青木省三・村上伸治・鷲田健二

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護books」

 以前は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、書籍を毎回、複数冊、紹介させていただいていました。

 このシリーズは7回続けたのですが、自分の能力や情報力の不足を感じ、これ以上は紹介できないのではないか、と思い、いったんは「介護books」を終了します、とお伝えしました。

 その後、それでも、紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活することにしました。

 いったん終了します、とお伝えしておきながら、後になっていろいろと変更することになり申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします。

 今回も、1冊を紹介したいと思います。

「大人のトラウマを診るということ― こころの病の背景にある傷みに気づく」 青木省三・村上伸治・鷲田健二 

「トラウマ」という言葉は、一般的になったと思います。

 最初は、「精神分析学」の中の「専門用語」で、その使い方も厳密だったはずです。それは、ごく短く言えば、死を意識するような状況によって、心に傷がついて、それが長引くことによって、様々な不適応を引き起こしてしまうような経験が「トラウマ経験」と言われていたと思います(精神分析を専門とする方から見れば、不正確な部分も多いと思います。すみません)。

 今でいえば、PTSDという診断名まで、だんだん一般的に使われるようになってきていると思います。これも、厳密に言えば、そして診断名がつく場合には、当然ですが、正確な診断と判断が必要になりますし、この症状名をつけられるのは医師だけですが、それでも、今後、もっと広くカジュアルに使われるようになると思います。

 そうなると、そうしたカジュアルな使い方に対して、特に専門家の視点から、ある意味で、クレームがつく、というか、もっと厳密な時だけに使ったほうがいい、という言われ方をされる可能性も高くなります。


 ただ、ある人が困難な状況を抱えている人に対して、『「命に関わるような出来事」でないから、トラウマとは無縁ではないか』と限定して考えすぎると、その人の現状を見失いがちではないか、と、この本を読んで、思うようになりました。

 直接、この本が役立つ場合は、本当に医療の専門家以外の方には、もしかしたら少ないのかもしれないのですが、「トラウマかもしれない」と考えると、困っている状況にある人に対して、助けになるかもしれません。さらには、介護者にも「トラウマ」かもしれない、と思って支援したほうが、より効果的な場合があるのではないか、とも思いました。

いじめでも起きるフラッシュバック

 筆者は、精神科医であり、長い経験を積んでいます。

 患者さんの症状によって、統合失調症や、うつ病と診断をするのですが、それだけでは、症状も良くならず、さらに話を聞き続けて、時間がたちます。

 その中で、患者さんの過去のいじめられた経験が「トラウマ」になり、だから、何かの拍子にフラッシュバックが起こってしまうのではないか、と気づいてから、その治療が進展していく事例も紹介されています。

 他にも、一見、現在の症状とは関係なさそうな過去の経験が「トラウマ」になり、その過去の経験に対して働きかけることによって、治療が進展する事例が、いくつもあげられています。

 著者である精神科医の細やかな観察や、仮説を立てては検証し、という繰り返しは、支援に関わっている方であれば、かなり参考にしたい姿勢ではないか、とも思いました。

 実際、本人は治療者・支援者の反応をよく見ており、「この治療者・支援者は、どのような人なのか、何をしてくれるのか」とチェックしている。そして、諦めの中に、微かではあるが「助けてほしい」という願いのようなものを感じる。だが、「何をどう助けることができるのか」、話を聞いていて途方に暮れてしまう。


介護に関する「トラウマ」



 命に関わるまでいかないとしても、「トラウマ体験」になるような出来事は、ご本人とって、とても辛い体験であるのは間違いないと思います。それによって、解離性障害と言われる状況になることもあります。

 介護の経験の後、解離性障害として、ある時期の記憶を失う、という経験をした家族介護者の事例もあります。(以前も紹介した内容ですが)。

 聡子さんから失われたのは、辛い介護の時期ではなく楽しかった結婚生活二五年分の記憶です。この点は普通の解離とは異なります。なぜ、このようなことが起きたのか考えてみたのですが、ご主人の認知症発症から死別に至るまでの時期は聡子さんの人生にとって辛い体験であり、この時期に幸せな時代を思い出すことは認知症の介護から死別に至る時期をますます辛いものにしてしまうと無意識のうちに考えたため、楽しい時代の記憶が意識から切り離されてしまったのではないかと考えています。

 

 家族介護者にとっては、長く続く介護の辛さだけでなく、要介護者が認知症の場合、介護中に自傷行為、もしくは暴力や暴言など、通常であれば、DVに当たるような場面に遭遇することもあり得ます。

 それは、誰も責められないこととはいえ、家族介護者にとっては、「トラウマ体験」でもあるわけですから、それが、トラウマとして、後に影響してくることもあり得ます。

 それだけ、過酷な場面があり得るのが、介護でもあると考えられます。


 もし、家族介護者が心身の不調を訴える場合、それはトラウマに関係しているのではないか、という視点を持てれば、クリニックや医療につなぐなど、より有効な支援を行える可能性が出てくるので、特に介護者の支援に関わる方には、できましたら、一読をオススメしたいと思っています。



(他にも、いろいろと介護について書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたく思います)。


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