マガジンのカバー画像

短編小説

31
運営しているクリエイター

#日記

小説:親友への手紙

小説:親友への手紙

拝啓 三瓶陸人様

 お久しぶりです。渡辺優成です。近頃はいかがお過ごしでしょうか。というのはいささか意地悪が過ぎましたね。ですが手紙というのは出したことがなかったもので、どのように文章を始めていいのやら、少しわからなくなってしまいました。だからこのような形で始めさせていただきます。

 あだ名も忘れたわけではないのですよ。ただ、やはりあだ名で宛先を書くというのは違うんじゃないかなと思ってしまうも

もっとみる
小説 出張先の街角にて

小説 出張先の街角にて

コンビニで弁当を買おうと買おうと外に出た。

駅前はどの地域もあまり変わらないものではある。やはりそれでもその土地独特の空気というのだろうか。そこに行くとなにかふわふわしたものを感じる。

いや、駅前だけではない。知らない土地に行くとどこでもふわふわを感じる。他に言い換えるとしたら縛られなさだろうか。自分はこの街にはただ訪れただけだという疎外感から来るものなのだと思う。でもそれはどこか蜃気楼めいて

もっとみる
電車に揺られて本を読む

電車に揺られて本を読む

 電車の中でスマートフォンを触るなんて私にはとてももったいなくてもうできないのです。ですがお気持ちはわかります。かつては私もそうだったのですから。

 朝、電車を乗る時というのは十中八九行きたくない場所に運ばれている時です。しかも、これが眠たい。本来その時間、人間というものは家から出ていたくはありません。いえ、布団からさえも出ていたくないのです。そうでなければ私は、スマートフォンのやかましく心臓を

もっとみる
夏は受験の天王山

夏は受験の天王山

「おい、ケン! 今日駄菓子屋行くぞ! リョウとハヤトも誘っといてくれ」

 俺はそうラインをうち、階段を駆け下りる。

「じゃあ、塾行ってきます!」

 靴を履きながら台所にいる母に向かって叫ぶと、「ちゃんと勉強してこやーよ!」と帰ってきた。俺は元気よく返事をする。しかし、カバンの中に勉強道具は入っていない。あるのはカードゲームのデッキだけだ。

 セミの合唱を聞きながら20分間自転車で走ったとこ

もっとみる
日曜日の夕焼け

日曜日の夕焼け

 布団の上は暖かく穏やかで気持ちがよかった。よく寝た。しかし、この虚無感は何だろう。時刻はもう15時過ぎである。日曜日も何もなく終わろうとしている。

 就業中はいつも眠い。特に昼頃になると耐え切れぬほど強力な睡魔が襲ってくる。何とかあくびをかみしめ仕事を行うのだ。その時にいつも思う。ああ、昼寝をしたい。こんな容器の中穏やかにゆっくり昼寝ができたらどれだけ幸せだろう。しかし、いざやってみるとこれで

もっとみる
逆襲の根明

逆襲の根明

「なぁ。俺達さ、もうどうせ生涯童貞なんだからさ、来年の三月風俗でも行こうぜ」

 信じられない。私の目の前で安くてまずい学食のラーメンをすする男は何を言っているのだ。こいつが童貞を守りながら学生生活を終えるというのは理解できる。もちろん生涯守り抜くことも。しかし、私ほどの男がそのような根暗な境遇にとらわれるなどありえない。

「何をバカなことを言っている。生涯童貞は貴様だけだろう」

 私の真の実

もっとみる
短編小説:橋の下の秘宝

短編小説:橋の下の秘宝

 どうしてもだめだ。今日ずっと、昨日見つけたお宝のことが頭から離れない。まだ、あるだろうか。すぐにでも見たい。こんな気持ちになってしまうならビビらず、昨日の夜家に持って帰ればよかったんだ。

 昨日の放課後はオレとリョウタとアユムの三人だけで河川敷のグランドでサッカーをした。ほんとは仲のいいヒロとか、ナカちゃんとか、モリリンとかも誘った。リョウタもアユムも友達をいっぱい誘ったんだ。でも、やっぱり昨

もっとみる