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「チョムスキー死去」報道で大騒ぎ

きのうは、「チョムスキー死去」の情報に振り回された。

ノーム・チョムスキーは95歳。昨年、脳卒中で倒れ、妻の祖国であるブラジルで治療中だった。

20世紀科学に「チョムスキー革命」を起こしたアメリカの世界的知性は、政治的発言が多く、ドイツのハーバーマスとともに「最後の大物知識人」でもある。


「チョムスキー死す」の情報は、日本時間19日3:00(欧米は18日夜)くらいからXで世界に広がった。

「Noam Chomsky」がトレンドワードになり、「RIP Chomsky(チョムスキー追悼)」のポストがタイムラインに溢れた。



日本は早朝だったが、何人かの日本人がXでチョムスキーの死を伝えていた。

英語版Wikipediaのチョムスキーの項でも、一時、「2024年没」と書き加えられたようだ。


しかし、その2時間後には、それを否定する情報がAPなどから発信され、日本時間8:00ころには「誤報」で決着した。


「私はいまブラジルにいる。信頼できる情報筋が、いまチョムスキーの妻のヴァレリアに取材している。最初に誤報した『Jacobin』誌ふくめて。チョムスキーは生きている。たった一つの不確かなツイートで、インターネットは一人の人間をこんなに早く葬ることができる。驚くべきことだ」(パウエル・ワーゲン 日本時間19日5:10)

I am in Brazil, where several trusted sources have now spoken with Noam Chomsky’s wife Valeria, including the editor of Jacobin Brasil. Chomsky is very much alive. It is breathtaking how quickly the internet buried a man over a single unverified tweet.


「きょうのチョムスキーの死をめぐる報は事実からかけ離れている。わたしは彼の妻のヴァレリアに確かめた。彼は生きており、元気だ」(スティーヴン・ピンカー 日本時間19日5:35)

Reports today of Noam Chomsky's death (in Jacobin and New Statesman, since taken down) were greatly exaggerated. I have confirmation from Valeria, his wife, that he is alive and well.


「ノーム・チョムスキーの妻、ヴァレリア・ワッサーマン・チョムスキーは、この著名な言語学者・活動家が死んだというのは嘘だと語った」(AP 日本時間19日6:08)

Noam Chomsky’s wife, Valeria Wasserman Chomsky, says reports that the famed linguist and activist had died are untrue
ByHILLEL ITALIE AP national writer
June 19, 2024, 6:08 AM


彼の「訃報」は、個人のポストのレベルでは、数週間前から何度もネット上で流れていたらしい。


今回の騒動は、その嘘情報を信じたブラジルの政治誌「Jacobin」が誤報し、つづいてイギリスの政治誌「New Statesman」が、チョムスキーの「追悼記事」をネットで出したことから、大きくなった。

とくに「New Statesman」記事は、ギリシャの著名経済学者ヤニス・バルファキスによるものだったので、信憑性が増した。


「New Statesman」は、以下のとおり、謝罪のポストを出した。


「今晩、われわれはヤニス・バルファキスによるチョムスキー記事を出したが、あれは間違いだった。ヤニスとチョムスキーの親族に誤りを謝罪する。」(日本時間19日8:54)

This evening, we published an appreciation of Noam Chomsky by Yanis Varoufakis. This was done in error, and we'd like to apologise to Yanis and the Chomsky family for the mistake.



このヤニス・バルファキスの「追悼記事」は、チョムスキーの生死と関係なく書かれた原稿だった。


「1週間前、わたしはNew Statesmanから頼まれて『わたしが知るチョムスキー』という原稿を書いた。その2日後、Jacobinという別の雑誌が、誤ってチョムスキー死去を報じた。そうしたら、New Statesmanが、わたしの同意なく、わたしの原稿を追悼記事として編集し、発表した。それからすぐ、New Statesman編集長は、わたしとチョムスキーの家族に謝罪文を出した」(ヤニス・バルファキス 日本時間19日16:29)

A week ago, the New Statesman asked me to write a piece on “the Chomsky I have come to know”. Two days later, Jacobin, another magazine, wrongly reported that Noam had passed. Without my knowledge or consent, the New Statesman edited & published my piece as an obituary. Immediately, the editor of the New Statesman issued an apology to me and to Noam’s family.


マスコミは、死にそうな著名人の「追悼記事」を、予定稿としてたくさん作っている。

今回の教訓のひとつは、「それを慌てて出すな」ということだろう。


いっぽう、最初に誤報した「Jacobin」は、「追悼記事」をこっそり一般記事のように書き換えて、ごまかしたようだ。


「『Jacobin』は、ツイッターの嘘情報をもとにチョムスキー死去を先走って報じ、その後、記事を取り下げるのではなく、こっそり見出しを書き換えた」(日本時間19日6:13)

書き換える前の記事。チョムスキーを過去形で語っている


書き換えた後の記事。過去形を現在形に変えている


Leave it to @jacobin to preemptively publish an obit for Chomsky based on a false twitter rumor of his death, then rather than pull the piece, just quietly edit the headline. (The URL still says "obituary").


今回の騒動は、ひとつの間違った情報が、大きな世界的誤報につながることを示していた。

しかし、いわゆる「紙」のオールドメディアは、ひとつも誤報しなかった。これは、ネット依存の脆弱さととに、オールドメディアの信頼性を逆に証明したと言えるだろう。

ネットの情報は早いが、怪しい、ということだ。


オチとしては、以下のポストが気が利いていたと思う。


「チョムスキーは、最後の最後まで、マスメディアは信頼できないという自説を証明し続けている。さすが狡知にたけた言語学者だ!」

Even at the end, he's proving his thesis, showing the unreliability of mass media! A cunning linguist!



<参考>


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