かいよ

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短編小説などを書いてます。お暇なときに読んでいただけると、よろこびます。 https://twitter.com/kaiyo0102

マガジン

  • 『鼻毛和牛暴れ祭』

  • 『斬刀姫』

    不定期更新中

  • シリーズ『四軒長屋』

    四軒長屋に住む、伊織と舞の姉妹。そして友人の荒川和三による、不可思議でちょっぴり怖い一話完結の短編小説シリーズ。

  • シリーズ『TRIGGER』

    本編4作品、スピンオフ2作品からなる怪奇短編小説シリーズ

  • ショートショート

    超短編小説 隙間時間にちょっと一息

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『屍と語る男』

『傘を持たない女』の第二部です。  よろしければ、あわせてどうぞ。    ◼️◼️◼️    雨は降り続き3日目の夜を迎えていた。  多分それとは何の関係もないのだが、午後9時辺りから放映されるアニメーション映画の代わりに、半ば無理矢理その海外ドラマを見せたせいだろう、俺はそう思っている。  妹は既にそれを10回近くも見ていた。だから、今更テレビで復習する必要もないのでは──身勝手な話であることは今なら判る。だが、その夜は何故かその思考が働かなかった。  大学の同期が

    • 『ZeroTwo-Dance(完全版)』

      その日、夕食は鍋にしようということになり、僕と僕の彼女は食材を買いにスーパーに出掛けていた。 二人で野菜売り場で手頃な白ネギを物色していると、隣でひとりの少女が白ネギを高々と掲げ、少女の母親らしき人物に何かをしきりに懇願している。 「ねえ、お母さん、やって、やってよ~」 少女はネギを握りしめ、前後に突きだす仕草をしながら、その腰は微妙に左右に揺れていた。 「え、ネギで何するの?」 少女の母親はやさしい口調でそう問いかけるも、その表情には明らかに困惑の色が見てとれる。

      • 『ナフダ』

        一番大きな駅から南に一つ、ただそれだけで黄昏のホームに吹く風が頬に心地いい。 人肌を恋しくさせる秋風というものは、現実の人間関係に対してどのくらい危うく働きかけるのだろうか。 そんなくだらない妄想を風に吹かれながらした。 少し貧相な身体つきをしている私は重ね着ができるこの季節が好きだ。 あれこれと組み合わせを考えるのも楽しいし、何よりふっくらとした見た目になれる。 帰りにセレクトショップに寄って、秋冬物を幾つか買った。 流行りではないスタンダードな色とデザインだけれ

        • 『冷めたら半分』

          「うちわってのはこう、てめえの可愛いのを扇ぐように使いやがれ」 女好きの大将は若いのを叱るにも色気がある。 そこへ「おまちど。冷めたら半分よ」と女将。 焼きたてを八つに落として持ってきた。 焼きに煩いこの店で私は専ら白焼きを頂く。 蒲焼きの方は女将が代わる度にタレの味が変わっていけない。

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        『屍と語る男』

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        • 『鼻毛和牛暴れ祭』
          4本
        • 『斬刀姫』
          2本
        • シリーズ『四軒長屋』
          3本
        • シリーズ『TRIGGER』
          6本
        • ショートショート
          2本
        • 食材あれやこれや
          6本

        記事

          『若鮎』

          私は少年の 「カトリック系の神学校に通う生徒なのです」 という唐突な告白を以て その清々しさの由縁とした 人の名すら覚えることを苦手とした私が 老いて尚 少年の細くしなやかなその指で示された 若鮎の群れを 郷里の水面に写すことが出来るのは あの夏 少年の名を尋かなかったからに他ならない 〈了〉

          『若鮎』

          『梅雨明け』

          誰もが皆西日の当たる狭い部屋に 住んでいる訳でもないだろうに 夕涼みがてら町へ繰り出すと 何時もより人の往来が多い そのまま川原まで行こうと決めて 着いた頃にはもう陽が沈みかけていた 河鹿のやけに涼しげな声が 纏わりついた熱気を払い落とす 雨の日の香を聞き忘れていたのを ふと思い出す 〈了〉

          『梅雨明け』

          『虎魚』

          「あら、今朝は早いのね」 「今朝は仕事が少なくて。まあ、といっても魚屋は朝が勝負なんで」 「ごくろうさまだこと」  店の若い女将である。  知り合いの板前が所帯を持って、居抜きで新しく小料理屋を始めたのは、今から半年くらい前のことである。  水洗いした魚と鮪などの太物、栄螺や浅利、それに若布の入った発泡スチロールを幾つか調理場入り口の所定の場所に置き、明日の予約状況が書かれたホワイトボードをそれとなく確認していると、今度は大将が浮かない顔をしてやって来た。 「なあ、

          『虎魚』

          『紙を捲りつ』

           断っておくがこれは嘘である。記憶を辿って書いているのだが、虚構と現実の区別がもはやつかない。そう云う話である。  小学生の頃、私は最愛の祖父を病気で亡くした。大好きではなく最愛と私が云えるは、歳を重ねた自分にあの様な真似は到底出来ないと思うからである。そして祖父の想いに少しでも応えたいと願うからである。  死因などはどうでもよい。ただ、それまで元気に見えた祖父はある日病院の個室に入院し、幾らも経たない内に逝ってしまった。  それまでも何度か入退院を繰り返していた様だっ

          『紙を捲りつ』

          『シャボン玉』

           面倒くさがる娘を風呂へと誘うためだった。 とはいえ、嘘をつく訳にもいかないから、とりあえず風呂場にあった手桶と吹き棒を手に取ってみる。  予定では頭を洗い、体を洗い、そして湯船に浸かったその後で、ほんの少し遊んであげればよいと考えていた。  だが、それはやはり大人の都合というもので、子どもにとっては体を綺麗にすることよりもシャボン玉の方が一大事なのである。  まあ、私が子どもでも同じことを思うだろうから、怒ることなどしない。私はせがむ娘の言いなりになる他なかった。  

          『シャボン玉』

          『心霊授業』

           毎週金曜日の五時限目は学校の外から講師を招いての特別授業だ。中でも僕は第三週の講師である藤原神楽先生が大好きだった。  はっきり言って彼女は僕のタイプそのものだ。歳も僕らとあまり変わらないんじゃないかと思う。それくらい若く見えた。  他の週はおじいちゃんとか、おばあちゃんみたいな人だったので、僕は尚更この日の授業を楽しみにしていた。  それに彼女が教室に入るといつもすごくいい香りがした。なんというか花のような匂いがして、いつかどんな香水を使っているのか聞いてみたいと思っ

          『心霊授業』

          『白刃の月』

          山登りをしない私でさえ、今朝はその峰や尾根につけられた名を想像した。 それほどまでに雪山の稜線は堅く鋭く私の目に映った。 彼は誰の空に雲はひとつとしてなく、ただ白刃のように銀の月が浮かぶばかりである。 それは美しいと呼ぶにはあまりに峻厳で、身を刺す寒さとともに哀傷の如く私を襲う。

          『白刃の月』

          『天使と悪魔の宿るもの』

           しばらく前にわたしは酷い失恋をした。  ふたりで時を過ごした末の出来事だから、別にどちらが悪いだとか、そういうことを言うつもりはない。  わたしにいけないところがあって、それは彼にも多少あったりして、たぶん、それだけのことなんだと思う。  ただ「この役立たず」と言われたことだけはよく憶えている。でもその彼の言葉はちょっと使い方というか、文脈とずれていて、わたしは憤りだとか、或いは悲しみだとかそういった感情が湧いてこなかった。  代わりに、だったら愛してくれたらいいの

          『天使と悪魔の宿るもの』

          『いつもと違う』

           朝起きられないだとか、そもそも起きたくないと云う人の話をよく聞くが、私は朝起きるのが苦にならない。  携帯のバイブを目覚まし時計の代わりにしているのだが、その振動が開始されるより早く、数分前にはいつも目が覚めるのである。それでもアラームをセットするのは「その時間までは寝ていてもよい」と云う自己暗示をかけるためである。そうでもしなければ私は不必要に早起きをしてしまうに違いない。  アラームを解除してベッドに入った翌日、私は案の定、日曜で仕事も休みだと云うのにいつもより一時

          『いつもと違う』

          『正月気分』

           冬の玄関なんて普通に寒いものだけれど、今朝はとくに冷えた。冷気が鋭く床から突き上げてくるみたいだ。  ここ数日は家でだらだらしていたし、僕のブーツもそれなりに邪魔だったのか、僕から見て奥、つまり玄関の入り口付近に追いやられていた。僕は靴下のまま爪先立ちで降り、母さんに見つからないよう急いで足を突っ込んだ。 「冷たっ」  ブーツの中まで凍っているのかと思った。僕は予想以上の冷たさに身震いしながら、いつもよりちょっときつめに紐を締めた。  グレゴリオ暦で生活している人類

          『正月気分』

          『natalis』

           そこは『natalis』と云う名の店だった。  カフェほどの解放感はなく、と云って昭和レトロ風の喫茶店と云う訳でもない。  ここに来るのは何度目になるか。私は密かに常連となるべく足しげく通っている。マスターにそう認めてほしいと云う理由なき欲求があった。  街が赤と緑に彩られ、道行く人々の夜を想像してしまいそうなある日、私はいつものように店を訪れた。  私はこの店に郷愁めいたものを感じてならないのだが、記憶の欠片を拾い集めてみてもそんなものは何処にもありはしない。不思議

          『natalis』

          『素数曼陀羅』

           そこは『natalis』と云う名の店だった。  カフェほどの解放感はなく、と云って昭和レトロ風の喫茶店と云う訳でもないのだが、とにかく心身ともに落ち着く空間なのである。薄暗い照明も私の好みだ。親父臭いと云われようが気にすることはない。私は私の好きなものを大切に生きていたい。ただ、それだけのことだ。  ここに来るのは何度目になるか。私は密かに常連となるべく足しげく通っている。マスターにそう認めてほしいと云う理由なき欲求があった。  店内を満たすコーヒーの香りはさながらアロ

          『素数曼陀羅』