マガジンのカバー画像

シリーズ『TRIGGER』

6
本編4作品、スピンオフ2作品からなる怪奇短編小説シリーズ
運営しているクリエイター

記事一覧

『続 水占 -人形- 』

『続 水占 -人形- 』

僕は真っ暗な部屋で天井を見上げていた。
どれくらいこうしているのだろう。
目を開けているのか、それとも閉じているのか分からなくなっていた。
ベッドの上で繰り返し見る「あの夢」のことを考える。

そもそも夢とは何なのだろう。
あたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心象、また睡眠中にもつ幻覚と云うことらしい。

幻覚と想像の産物は、似ているようで随分とその本質は異なっているように思えた

もっとみる
『水占 -みなうら-』

『水占 -みなうら-』

日影は木々の間を抜け深緑色の淵の水面を照らしている。少年はその淵から流れ出るせせらぎにそっと両手を沈めていた。

流れてくるのは水の声。
そして草木の、そこに棲む生き物の声だった。
総じて山の声とでも云うのだろうか。

時には、そのどれとも違う声までもが流れてくる。それらを何と呼ぶのか、少年には分からなかった。

〈…アノコ、マタキテルヨ…〉

〈ウンウン、マタキテルネ…フフフ〉

少年は水のせん

もっとみる
『TRIGGER 2 -調伏-』(下)

『TRIGGER 2 -調伏-』(下)

──そろそろ起きてくれないか?

その声で私は目を覚ましたが、今一つ自分が何処に居るのか判らない。体は宙に浮いているようだし、皮膚の感覚もほとんど無い。

そもそも肉体の存在自体がかなりあやふやだ。

怖くなって少し手を動かしてみるとヌルリとしたものが纏わりついて来る。それは温かくも冷たくもない、体温と同じ温度の液体のようだ。

漸くそこで自分の肉体が存在しているのを確認できたが、ここがアイソレー

もっとみる
『TRIGGER 2 -調伏-』(中)

『TRIGGER 2 -調伏-』(中)

病院に着くとポツリポツリと雨が降り始めた。

真崎は相賀小鉄から事前に聞いていた番号に電話をする。時刻は17時半を過ぎていた。

「もしもし、柏木です」

若い男が出た。

「真崎です。柏木君の携帯でよかったよね。何だか微妙な時間になって申し訳ない」

「いえ、いいんです。今日はもう仕事も終わりですから。それより真崎さん……」

声から慌てた様子が伺える。

「その紋峰さんですが、さっき例の二人組

もっとみる
『TRIGGER 2 -調伏-』(上)

『TRIGGER 2 -調伏-』(上)

「それでは次のニュースです──」

「今日の午後、加良市の芹野川で、女性が浮かんでいるのが発見され、その後、死亡が確認されました。警察は、身元の特定を急いでいます。

今日の午後5時すぎ、川に人が浮かんでいる、と近くを散歩中の人から消防に通報がありました。現場は加良市内を流れる芹野川、大橋付近の右岸で……」

真崎 征也は照明を消したアパートの一室でテレビの明かりを頼りに、夕食のカップ麺を口へと運

もっとみる
『TRIGGER - 引き金 - 』

『TRIGGER - 引き金 - 』

紋峰 忍はコーヒーを飲みながらラップトップを開いた。

「確か、日本ではノートPCというのだったかしら」まあ、どちらでも構いはしない。

二年間のシンガポール勤務を終え、本社勤めに戻った忍はどうにも本社の近代的なオフィスに馴染めず、今日も社員食堂の窓辺の席にいた。

「重装建機株式会社」それが彼女の勤める会社の名だった。土木や建築工事作業に使われる大型建設機械を取り扱っていた。いわゆる重機とか建機

もっとみる