『TRIGGER 2 -調伏-』(中)
病院に着くとポツリポツリと雨が降り始めた。
真崎は相賀小鉄から事前に聞いていた番号に電話をする。時刻は17時半を過ぎていた。
「もしもし、柏木です」
若い男が出た。
「真崎です。柏木君の携帯でよかったよね。何だか微妙な時間になって申し訳ない」
「いえ、いいんです。今日はもう仕事も終わりですから。それより真崎さん……」
声から慌てた様子が伺える。
「その紋峰さんですが、さっき例の二人組が来て連れていってしまったんです。今日はそんな予定、聞いてなかったんですが、本当にすみません」
「いや、そうか。まあ仕方がない。君が謝る必要なんかないよ。それに君に聞きたい話もある。この時間だ。どこかで食事でもしながらどうだろうか。夕食まだだろ?」
紋峰忍に面会出来ないのは痛いが、それを悔やんでいる暇はない。
「ええ、構いません。じゃあ、ファミレスでどうですか?病院のすぐ近くですし」
「わかった、そうしよう。駐車場で待っているよ。白いミニバンだ」
*
柏木はいかにも好青年といった風体の人物だった。同じ大学の後輩だと小鉄から聞いていたが、真崎に面識はなかった。柏木からは誰かに話をしたくて仕方がない、といった感じが伝わってくる。
ファミレスに着くと、三人はメニューから適当に夕食になりそうなものを注文し、本題に入った。
こちらから尋ねるのを待たずに、柏木は話をはじめた。
「僕がこの病院に来て二日目でした。僕は心療内科の研修でここに来たんです。実家が近いのと、心療内科医が父の友人でもあったので。まあそれは置いておいて、その患者さんはご両親に連れて来られたように見えました。彼女自身もそう呼んでましたしね。
相賀先輩にも電話で話したんですが、後で書類を見たらご両親は既に他界しているのか判りませんが、居ないようでした。彼女の病状としては、記憶障害と記載されてて、他は特に症状の記載は見当たりませんでした。
そこでまず、あれっ?と思ったんですよ。この病院は心療内科すら新設なんです。それもあって手伝いがてらこの病院に来たんですけどね。あっ、一方的に話してしまってすみません」
「いいんだ、続けてくれ」
それじゃあ、と柏木は話を再開した。
「心療内科って主に心理的、社会的要因で身体に症状が出る心身症を治療するというのが、まあ一般的な理解だと思うんですよね。でも、彼女の症状は記憶障害なんです。それって、本来、脳外科とか、神経内科の領分だと思うんです。でも…」
「でも?」
「でも、この病院には無いんですよ。その脳外科も神経内科も。田舎の病院ですし。見れば治療費用はすべて会社が負担するようでしたし、都市部の大学付属の総合病院とかの方が治療するには絶対いいと思うんですよね、僕は」
そこまで一気に話すとようやく柏木は飲み物に手をつけた。
「よく調べたね。ところで、その患者、紋峰忍さんの様子はどうだった?」
真崎が聞いた。
「医師が知り合いというのもあって、こっそりと見たんです。本当はいけないんですけどね。
それで患者の紋峰さんですが、穏やかな感じに見えました。普段は別段問題は無さそうでしたよ。自分を連れて来た二人をお父さん、お母さんと呼んでいた以外は。他にはよく悪夢を見ると。とても恐ろしい夢だと言ってました。人を"ひたすら呪い殺す"という夢だそうです。それはちょっと異常というか、素直に怖いといった印象です。あ、僕のね。だから治療といっても、寝つきが悪い夜に睡眠導入剤を処方するくらいなんですよ」
「ありがとう、柏木君。だいぶ状況がわかったよ。よく小鉄、いや相賀に連絡してくれたね」
「いいえ。ちょっと気になって。これは相賀先輩案件かなと。真崎さん…これってやっぱり何かの事件と関係があるんですか?」
柏木は好奇心で目を輝かせて言った。
「いや、どうだろうねえ。もう少し詳しく調べてみないと何とも言えないよ。今夜は奢るから沢山食べていってくれよ」
真崎は答えを濁した。
「すみません。ありがとうございます。では遠慮なく頂きます」
柏木はボタンで店員を呼んで追加注文をした。話し終わって気がすんだのか、彼は若者らしい食欲を見せた。
*
高戸光佑は柏木が話している間、ひたすら食べ続けていた。腹が減っていたのもあるが、その耳は柏木の言葉の一言一句を注意深く聞いていた。話の内容にはいろいろと気になる点もあったが、柏木自身に不信感は抱かなかった。
強いて言えばよく喋るといった印象ぐらいだった。
一通り食事を済ませ、三人は外へ出た。
雨が本降りの気配をみせていた。
「ご馳走さまでした。今夜はどこかにお泊まりなんでしょ。明日も僕は病院にいますんで、何かあったら電話してください。もし、出られなくても折り返しますから」
柏木はそう言うと病院へ車を取りに行く、と走って帰って行った。
「じゃ、俺たちも行こうか」
二人は今夜の宿泊場所であるビジネスホテルへと向かった。
*
チェックインを済ませ、部屋に入った。
光佑は運転の疲れもあって、すっかり寛いでいたが、真崎は何とか寛ごうと努力をしていた。頭の中をいろいろな事柄が交錯している。断片的な情報と記憶を繋ぎ合わせようとしていた。
「俺、ちょっと風呂行ってくるわ。お前はどうする?」
真崎がそう言うと、光佑はもう少し休んでから行く、という返答だった。やはり慣れない車に疲れているのだろうか。幸いにもこのホテルには大浴場があり、そのお湯は温泉だった。といっても源泉が湧き出ているわけではなく、近くの温泉地からお湯を運んで来ているようだった。
お湯に浸かりながら、真崎は今日の柏木の話を、そして過去に調べあげた事象を牛のごとく反芻していた。
──紋峰忍に会えたところで、柏木の話から察するに詳しい状況を聞き出すのには無理があるか。今の状況ではやはり弱い。これからどうする。
しかし、一体どこへ連れ出してるっていうんだ。IT企業と重機メーカーか。いっそのこと本社に乗り込みたいところだが、手持ちの駒が足りない。小鉄にも派手に動くな、と釘を刺されてるし、あまり迷惑もかけられん。本当に手詰まりなのか。
纏まらない、焦りがつのる。
湯船に浸かってぼうっとしてはみたが、特に良い考えは浮かばなかった。
少しのぼせてきたので、真崎は風呂から上がることにした。
*
部屋に戻ると寛いでいたはずの光佑が、何やら真剣な面持ちでスマホをしきりにスワイプしている。
様子がおかしい。
「おい、光佑?」
振り向いた光佑は、青い顔をして半泣きになっていた。
「お前、大丈夫か?どうした?推しのアイドルグループが突然解散の発表でもしたか?」
冗談半分でそう言ったが、言われた光佑の方は半裸の真崎に突然抱きついてきた。
「やめろよ!光佑、どうしたんだ?」
光佑は泣きながら「見てくださいよ」とスマホを差し出してきた。
画面を見て絶句した。
「な、なんだこれは!」
見ると光佑のSNSのアカウントに夥しい数の誹謗中傷メールが届いていた。なかには目を背けたくなるような画像が添付されているものまであった。
即刻死ねって言ったよねw
ブロックしても無駄だからな!!!
自分で出来なきゃオレが殺ってやるよwww
・
・
・
完全に通報レベルだ。
複数のアカウントからほぼ同時刻に発信されていた。
「どういう訳だ、これは?お前、炎上するような投稿でもしたのか?」
「してませんよ!このアカウントだって、ただの趣味垢ですよ。それにね、僕はこれでも推しを推す時は、細心の注意を払ってるんです。『私の推しは誰かの地雷、私の地雷は誰かの推し』ってやつですよ」
光佑は中々に気遣いの男だ。こいつに限って炎上を招くような投稿はしないだろう。ならば事故的な何かか?
しかし、もしもそうでないのだとしたら……。
「光佑、ちょっとスマホを見せてくれ!」
真崎は光佑の過去の投稿にざっと目を通した。炎上につながるような投稿は何一つ見当たらなかった。誹謗中傷メールの文脈は投稿内容とかなりずれている気がした。有り体に言ってしまえば「雑」な文章だった。
だとしたら、だとしたら、何だこれは?
「まさか!」
真崎は自分のスマホを手に取った。
ロックを解除し、アプリケーションを立ち上げる。
「やはり、これは、」
「先輩、どうしたんすか?」
「見ろ、光佑」
SNSのタイムラインを見せた。
「ああっ!先輩にも!これは酷い!!」
「よく見てみろ、お前のところに来ていたものとほとんど同じ内容だし、同じアカウントからのメールも多い。」
「ホントだ!こんなことってあるんすか?壊れてるんじゃ?」
「いや、多分壊れてはいないだろう」
「じゃあ、通報して、発信元に対して何か対策を取ってもらいましょうよ!」
「そんな時間はない」
「光佑、試しに幾つかのアカウントをブロックしてみろ」
はい、と言って光佑は数個のアカウントをブロックした。
「どうだ?」
「えーっと、あっ!また違う所から嫌なメールが来ました!」
「分かった、とりあえず誹謗中傷メールを出来るだけ削除してスマホを閉じろ」
「はい、、、」
しばらくして真崎は光佑に聞いた。
「今の気分はどうだ?」
「めちゃくちゃ悪いっす。って言うか、最悪っすね」
「だろ?メールを消しても、例え相手のアカウントをブロックしても、その時生じた感情はそうそう簡単に消えはしない」
「それはおそらく呪術、いや呪いだろう」
「そして、その呪いは今の光佑の状態を見る限り成立している、ということだ。でも心配するな、その程度の呪い、多少のダメージは残るが認識してしまえば大したことはない」
なかば気休めの言葉を真崎は発した。
「えっ?呪い?今先輩、呪いって言いました?」
「ああ、言ったよ」
「こんな投稿が、誹謗中傷メールが呪いなんですか?こんなこと誰だって出来るじゃないですか?」
「そうだ、誰にでも出来るんだよ。詳しい理由はまた話してやる」
「とりあえず、この誹謗中傷メールが呪いだとして、これはずいぶんと雑な術式だ。術師の行いとはとても思えんな。というか人間の仕業というより、ロボットか?」
「向こうは相当慌てているのかもしれない。俺たちの行動が予想よりもきっと早いんだ」
「先輩、僕たちの行動がどこからか、"先方"へもれていると?」
「そういうことになる。これで重装建機、いやその内部の何かが、この件が関わっていることが濃厚になった」
「でも、どこからもれてるんすかね?」
「おそらく、柏木か相賀、もしくはその両方の身辺だろうな」
「じゃあ、あの二人にも危険が迫ってる、何てこともあり得るんじゃ!」
「無いな」
真崎は即答した。
──相手は呪術を使うような連中だ。
呪詛の肯定派の多くは呪う対象に呪っていることが知れると呪詛の効力が無くなると"通常なら"考える。すぐに手荒な真似はしないだろう。
仮に荒事を得意としているなら、俺たちがまずやられている筈だ。
現段階で軽く呪われてはいるが、この程度の呪いならば気が付いてしまえば、なんとか封じることは可能だ。
光佑の方を見た。未だに顔色か悪い。
真崎が風呂に入っている間、きっとスマホを見ては暗澹たる気持ちになっていたのだろう。かなりのダメージを受けているようだった。
「先輩、じゃあ早速ホテルを出て、とりあえず戻りましょうよ」
「と、普通は考える。まったく光佑は絵に描いたような思考をするなあ。だからだよ。逆手に取ってやるんだ。お前は柏木にこのことを伝えて、身に危険が迫っている可能性があるから明日は病院へは行くな、と伝えるんだ。俺は小鉄に連絡を入れる。向こうに俺たちの情報が漏れ伝われば、こちらの思う壺だ。相手が誰だか判らないんなら、向こうから出てきてもらえばいいだけのことだ」
光佑に柏木の番号を教えつつ、真崎は小鉄に電話をかけた。
「もしもし、小鉄。お前んとこの"キツネちゃん"は元気にしてるか?」
そう真崎は話を切り出した。そして小鉄にことの詳細を説明し、明日は重装建機の本社に行くつもりだと伝え電話を切った。
光佑はきょとんとしている。
「何してんだ。早く柏木に電話しろよ」
「だって先輩、キツネちゃんがどうとかって、」
「いいんだよ、俺たちのなかでの隠語だ。無線盗聴器発見にフォックスハンティングって技術使うだろ。だから、もしかしたらこの会話が盗聴されてるかもしれないから、そのつもりで話すぞ、ってことだ」
「カッケー、先輩!じゃ僕も」
「柏木君には通じないぞ」
真崎は笑ってそう言った。
窓の外を見た。
いつしか雨は、どしゃ降りになっている。
打ち付けられる雨粒で外は景色どころか町の明かりすら見えない。代わりに、窓にはスマホを片手に持った自分の姿が映っていた。
「ずいぶん不敵な顔をしてるじゃないか、なあ征也」
窓ガラスに映る自分にそう言うと、真崎はカーテンを勢いよく閉めた。
*
翌朝ホテルで朝食を取ってから、二人は重装建機本社へと車を走らせていた。今日は真崎の運転だ。
光佑は元気そうに振る舞ってはいたが、朝から食欲も無さそうだし、少し具合が悪そうだった。
──光佑のやつ、すっかり呪われちまってるじゃないか。まあ無理もないか。
呪いとはそういうものなのだ。それは泥水の如く心身の隙間に入り込み、ふとした瞬間に顔を出しては、じわりじわりと対象を蝕んでいく。
多くは親に付けられるであろう「名前」とて、そうなのかもしれない。それは「祈り」であると共に「呪い」でもあるからだ。
「ねえ、先輩」
「どうした光佑、気分でも悪いか?」
「いえ、夕べの件なんすけどね。先輩はどうしてあれを呪いだと言ったんすか?」
「ああ、そうだったな」
「昔、サークルで東北へ合宿に行ったの覚えているか?」
「ええ、覚えてますよ。先輩が東北にしようってきかなかったやつでしょ」
「そうだ。あの時、俺は古くから呪術師がいるというある村に興味があって、そしてたまたまその村に住む呪術師に話が聞けるという幸運に恵まれたんだ」
真崎は話しはじめた。
*
それは、オカルト研究会で所謂『事故物件』について調査していた時のことだった。俺は当時事故物件に住んでいた一人の女性に出会った。
「あなた達、オカルト研なんですって、じゃあ面白い話教えてあげるわよ」と女性は言った。なんでも実家がある村には、昔から呪術師がいるのと云うのだ。
村人達はことあるごとにその術師のもとを訪ねては様々な願いを託すのだそうだ。それこそ、失せ物関係から、安産、合格祈願、はたまた、お金持ちになりたいだとか、あの人と恋仲になりたいだとか、ありとあらゆる願いだ。よく願い事が叶うと評判で、近隣の集落だけでなく、遠方からも訪れる者が絶えなかったという。なかでも「呪い」が抜群に効くというのだ。
術師は大っぴらに呪いを請け負うとは謳っておらず、それは知る人ぞ知る事実であり、暗黙の了解だったようだ。その女性は「あなたも行ってみたらいいわ。めちゃくちゃ効くんだから!」とご丁寧に住所と電話番号まで渡してくれた。
俺は早速その術師の家に電話をしたんだ。俺は術師の人に失礼になるんじゃないかと思って、事前にこう言ったんだ。
自分は大学でオカルト研究会に入っている。だが、自ら進んで超常現象を信じるような質ではない。この世の中は神秘や超自然的なもので溢れているとは思うが、それは人間の認識や概念、そして独特な物の見方による所が大きいのではないかと。要は自分はただの物好きなのだが、良かったら話を聞かせてくれないか、そう言ったんだ。
答えは意外なものだった。
「是非、お越しくださいませ。あなた様にとっても大変興味深いお話をして差し上げることが出来るでしょう」とな。
それで合宿を利用して行ってきたんだ。
そこは古民家といった感じだったが、まあ田舎じゃ普通に何処にでも在りそうな家だった。出迎えた主人は50代くらいか、意外と若い印象だった。
「ようこそ、おいでくださいました。
あなた様が此処に辿り着かれたのも、何かの縁でございましょう。ただ当家呪術、一子相伝なれば、詳しい呪法、術式について口外する事、掟により硬く禁じられております。
しかし、裏を返せばそれ以外はお話しても何ら差し障り無いと云うことでありましょうや」
主人は内へと案内してくれた。
そこで俺は単刀直入に「呪術」そして「呪い」について聞いてみたんだ。
「で、どうだったんすか?」
「まあ、ここからが今お前にかけられている呪いと関係があるんだが……」
呪術師は次のように云ったという。
*
「古来より、祈りとは神や仏また霊魂に自分または、それ以外の者の幸や不幸を願う行為であります。
そのうち呪いとは詰まるところ誰かの不幸を祈るという限定された「祈り」、不幸だけを願う偏ったひとつの「負の形」なのです。
私はそこに善悪の判断は致しません。それはご依頼された方の決めること。私に解ろうはずもございません。
なかでも「呪詛」とは人が人を呪うもの。
積極的に不幸を願う"生きている人間"の存在が不可欠なのです。
私の呪いはよく効くと皆様仰られますが、私は呪術を施しているに過ぎないのでございます。そこに目に見えない存在の力が及んでいるなどとは、知る術すら存じておりません。
それでも、効くと云うのであれば、それはまさしくご依頼された方々の深々とした願いの為せる技なのだと思うのです」
そして術師は続けてこうも云っていた。
「私の呪詛はある限定された状況においてでしか効力を発揮いたしません。言葉や文化、また風習などを同じくする共同体の中でしか効かないのでございます。つまりはこの村、地域、そして日本と云う国のなかでしか呪詛が成立しないのです。ここに神仏の力の介在があるとあなた様は思われますか?」
「自分に悪意や敵意、また憎しみや怨みといたった感情を持っている人間が同じ共同体の中に存在すると云う事実を呪詛された"本人が知る"という事が私の呪術には必要不可欠なのでございます」
「つまり、自分が呪詛されたことを知り、その事実より生じる様々な精神の緊張状態によって、心身が不調をきたす、こうして呪詛が成るのでございます」
最後に術師はこう言った。
「"言葉"は人を精神的にも物理的にも操作することが可能なのでございますよ」
*
光佑は黙っていた。
「先輩、これって」
「そうなんだよ」
「呪術が古来から存在するシステムだとして、現代ではどうだ。まさにネットやSNSだとは思わないか?」
「僕、怖くなってきました」
「ネットやSNSといった共同体のなかに攻撃する対象を見つけるとする。
そして相手を誹謗中傷する"言葉"を発する。
本人がそれを目にしてしまう。
誹謗中傷された本人はストレスにより不調をきたす。
まさに同じなんだよ。
むしろ現代の方がよほど効率がいい。システムは既に出来上がってしまってるんだ。俺たちは送信ボタン一つで祈ることも、呪うことも出来てしまうんだ。言葉という不完全な術式を用いてな」
「これに気付いている人間は勿論いるし、警鐘も鳴らしている。だが大多数の人間は、ほぼ無意識に祈り、そして呪いを繰り返しているんだ。それを完全に悪用し、呪詛として、人が人を呪う道具として利用している奴が何処かにいる気がしてならない」
「俺たちはきっとそこへ行こうとしているんだよ、光佑」
「うへえっ、マジっすか?」
「マジだ。ほら、見えてきたぞ。あれが重装建機株式会社の本社ビルだ」
真崎は思う。
──俺はあそこに行くしかないんだ。姉さんの死の真相を確かめるために、そして何より自分自身のために。
『魔障を打ち破り、成道に至るすべ、汝にあらんことを』
何故か真崎は古い教えを思い出していた。
つづく……
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