マガジンのカバー画像

ショートショート

2
超短編小説 隙間時間にちょっと一息
運営しているクリエイター

記事一覧

『蜜時』

『蜜時』

ふたりは合コンで初めて出逢った。
隣り合う席で男が女に話かける。

──僕さあ、時々夢を見るんだ。会ったこともない、名前も知らない女性を抱きしめて「少しやせたね」って言うんだ。

女は言った。

──あら、奇遇ね。わたしも似たような夢をたまに見るわ。「あなた、ずいぶん痩せたけれど、ちゃんとご飯たべてる?」って見たこともない男の人と抱きあいながらそういうの。

ふたりは幾つかの席をまわった後、御手洗

もっとみる
『夜爪』

『夜爪』

夜中に爪を切りたくなった私は迷わず爪を切り始めた。

──パチ、パチ、パチ

夜に爪を切るのは縁起が悪いと云う。

しかし、私は知っている。

それは、昔、電気の明かりがまだ暗かったころ、よく見えない暗がりで爪を切ると、つい手元がくるって深爪をしてしまうのだと。

それを戒めるためだと。

──パチ、パチ、パチ

音を聞きつけた姉が部屋にやって来た。

「あなた、爪を切るの、おやめなさい。親の死に

もっとみる