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vol.16 森鴎外「山椒大夫」を読んで

この作品、以前は中学校の国語教科書に掲載されていたとのこと。人身売買の話だけど。

原話は、悲劇的な運命にもてあそばれる姉と弟を描いた説教節「安寿と厨子王」で、かなり残虐な内容を鴎外が柔らかく脚色して大正4年に出したもの。説教節とは、今のストリートミュージシャンのように人の集まる場所で説教師が声と身振りによって物語を再現するものらしい。

舞台は平安時代末期。帰ってこなくなった父親に会うために、その妻と安寿(姉)と厨子王(弟)と女中の4人で旅の途中、人買いに騙され、離れ離れになってしまう。安寿と厨子王は奴隷としてこき使われる。やがて脱走を考え、厨子王だけが都に上洛を果たす。姉は弟のことを思い入水してしまう。そして安寿は不思議な縁で出世し、奴隷解放や労働者の救援をする。やがて母が佐渡国にいると聞きつけた厨子王は佐渡に向かい盲目となった母親と再開する。

鴎外はこの原話を小説化するにあたり、残酷な場面はほとんど切り捨てたらしい。

物語は悪人と善人が出てくる。善人は一家離散の目にあったり自ら入水したり、盲目になってしまったりするが、悪人は結局救われている。また、不思議な仏像が出てくる。身代わりになったとされる仏像の額に焼印の跡が現れる。盲目となった母は仏像の前で開眼する。この仏像がほっと息をつかせてくれる。この物語、とても仏教的な色合いが強く、浄土真宗っぽい。

たしか中学生ぐらいで習った、親鸞の歎異鈔に「善人なおも往生をとぐ、いはんや悪人をや」があった。詳しくはわからないけど「救われなければならないのはむしろ悪人なんだ」という教えだったか。

鴎外の脚色で、人身売買の大ボス「山椒大夫」もその息子「三郎」も容赦無く悪人だけど、厨子王が偉くなっても、重く罰することはなく、むしろ一層富み栄えたとなっている。

再読だけど、まだまだ、この小説の良さがわからない。

この「山椒大夫」やっぱりなんだか不思議な内容の小説。鴎外作品は他に「雁」や「舞姫」「高瀬舟」「ヰタ・セクスアリス」などを読んだがどれも文章は面白く楽しく洗練されていると感じた。それでも鴎外は当時陸軍省医局長だったらしいけど、小説はどの程度力を入れて書いていたのだろうか。一方、同じ時代の夏目漱石は職業小説家とし生業としていたらしいけど、どちらも興味深い作家。

これ、映画化もされているようで、海外でも高く評価されているらしい。1954年公開の大映で溝口健二監督。見てみたい。

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