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余裕の差

徳ある人は、胸中にゆるりとしたる所がありて、物毎ものごといそがしきことなし。小人しょうじんは、静かなる所なくあたり合ひ候て、がたつきまわり候なり。

葉隠 聞書二 一〇四

刀を抜いて決着をつけるのではなく、抜かずして相手の闘争心をぎ、円満に事を収めることを「さやうちの勝負」という。

未熟な者に限って、少しばかりの力量を頼み、大見栄おおみえを切ったりするものだが、極力争いを避けようとする心と、相手を受け入れるだけの度量の大きさがあって、はじめて相手を制することができるのである。

「胸中にゆるりとしたる所」を備えた人というのは、常に他を受け入れるだけの度量の大きさを持っているために、無理のない雰囲気をかもし出し、相対あいたいする人から不必要な緊張感をたくまずして取り去るのかもしれない。

北風がさんざん吹きつけても脱がせることのできなかった旅人の外套がいとうも、太陽の暖かい陽光に旅人自らが脱ぎ捨てたという話と同様に、あまりにも「がたつき廻」られれば、かえって煩わしくなって意固地いこじになるのが人情である。

人間関係の疎遠そえんが憂慮される今日だけに、お互いに「ゆるりをした」気持ちを持ち合わせ、相手の気持ちをみとるように努めたいものである。


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