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直感勝負

 古人のことばに、七息なないき思案と云ふことあり。隆信たかのぶ公は、「分別ふんべつも久しくすればねまる。」と仰せられ候。直茂なおしげ公は、「万事しだるきこと十に七つわるし。武士は物毎ものごと手取てとりばやにするものぞ。」と仰せられ候由。心気しんきうろうろとしたるときは、分別もらち明かず。なづみなく、さわやかに、りんとしたる気にては、七息に分別すむものなり。胸すわりて、突っ切れたる気の位なり。

  葉隠 聞書第一 一二二  

 物事には勝負所というものがあり、「ここぞ」というタイミングを瞬時に判断し、最大限に生かしきったときに勝ちに結びつく。したがって、勝負に出るときには一瞬のためらいも許されないのである。さもなくば、龍造寺隆信の言う「分別も久しくすればねまる。」ことになり、せっかくのタイミングも逸してしまうことにもなりかない。「万事しだるきこと十に七つ悪し。」と言っているように、下手へたな考え休むに似たりである。あれこれと思案に時間をかけ過ぎたところで、良い結果には結びつかないことが多く、「心気うろうろとしたるときは、分別もらち明かず。」ということになってしまうのである。
 だからといって、「七息思案」などというのはにわかにできるものではなく、日頃から物事を大所高所から観るように心がけるとともに、さわやかにりんとした気を養っておくことが大切である。

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