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最初は大きく

四十歳よりうちは、知恵分別をけ、強み過ぐる程がよし。人により、身の程により、四十過ぎても強みなければ響きなきものなり。

葉隠 聞書第一 一八六

 尺八という楽器は音が出るようになると、「大きく吹け。竹を吹き割るようなつもりで吹け。」と、気迫を込めた吹奏が求められる。なぜなら、さまざまなテクニックを駆使して演奏できるようになったとき、この大きく音を出すという基本をおろそかにしていると、微妙な音色も出せないし、琴や三味線しゃみせんとの合奏の際、尺八の音色を際立たせなければならないところでかき消されてしまい、持ち味が発揮できないのである。したがって、初心者がきれいに吹こうとすると、「座敷吹き」といって厳しく戒められるものだ。狭い座敷では反響できれいに聞こえても、広い会場や野外では音色が通らないからである。

 日本刀の操法もまた同様で、当初、刀を振り下ろすときは力を抜いて、刀を前方にほうり投げるような気持ちで大きくを描くように振れとしきりに言われる。この練習をり返すうちに、力が刃先に凝集ぎょうしゅうされ、刀身が垂直に振り下されるいわゆる「刃筋はすじが通る」ようになり、見事な切れ味となるのである。

 人もまた若いうちは無器用なくらいの木訥ぼくとつな仕事ぶりで結構である。若いうちはテクニックよりもバイタリティーに富むように気力を充実させてやることが大切である。そのためには、あまりにも枝葉末節にこだわったアドバイスは控えるべきである。
つのめて牛を殺す」ことになりかねないからである。

 大きく見守り、基本的なことだけはしっかりと指導しておけば、臆することなく存分に持ち味も力量も発揮するようになるのである。


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