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犬の遠吠え

 名利みょうり薄きは多分えせものになって人をのゝしり、高慢にしてやくにたゝず、名利深き者には劣るなり。今日の用にたゝざるなり。

葉隠 聞書第一 一五五

 世の中には「一言いちげん居士こじ」と言われて敬遠されがちなタイプの人がいるものだ。これは「一言こじる」を人名になぞらえたもので、「こじる」は鉄棒などで扉をこじって開けるといったときに使う言葉で、き間などに物を入れてねじるという意味で用いる。即ち、他人の意見に対して、何なりといちゃもんをつけて自分の意見を強引に主張して、その場をひっかき回してはえつに入るタイプである。

 このような人はとかく批判精神が旺盛で、他人のげ足を取ることに喜びを覚えるあまり、意見にしてもその場での思いつきが多いために説得力も弱く、それだけに信頼性に欠ける。したがって名誉や富とは縁遠くなりがちなため、名誉や富を手にした者を目のかたきのごとく罵倒ばとうし、ますます高慢でかたくなになり、いよいようとんじられる羽目におちいるのである。

 名誉や富に執着する者は、手段の善し悪しは別として、それなりの努力をするものだが、一言居士の場合は所詮しょせん犬の遠吠えとして世間から問題にされなくなるため、結局「名利深き者」に劣るつまらない役立たずの存在となってしまうのである。


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