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老いの繰り言侮れず


 功者こうしゃはなし等聞く時、たとへ我が知りたる事にても、深く信仰して聞くべきなり。同じ事を十度も二十度も聞くに、不図ふと胸にけ取る時節あり。その時は格別のものになるなり。おい繰言くりごとと云ふも功者なる事なりと。

葉隠 聞書二 一三四

 戦闘で戦死する率は古兵よりも新兵の方がはるかに多いという。それは実戦経験の豊富な古兵ほど何度となく死地を脱して生き残っているうちに、危険に対する本能がぎ澄まされ、身を守る咄嗟とっさの行動が機敏になるが、初めて実戦に臨む新兵の場合は、恐怖と戸惑いから判断力を失い、突発的な行動に走る結果、いたずらに命を落とすことになるものらしい。

 何事につけても言えることだが、頭で理解している知識だけではうまく事を運ぶこ
とはできないものである。その意味において、経験豊富な人の体験談は侮れない。すでに聞いたことであっても、知識として知っていることであっても、謙虚に耳を傾けているうちに、貴重なヒントを得ることがあるからである。老人の繰り言にしても同様で、軽くあしらったり無視してしまうことなく、人生の先達としての示唆に富む言葉として拝聴するならば、その中に真理を発見できることもあるはずである。

 じっくりと先達の話に耳を傾けることは、他人の経験を間接的に自ら体験することにもなるのである。人生は限られているだけに自分で体験できることはわずかである。したがって積極的に体験談やアドバイスに耳を傾けていくことで、自分の人生経験が広がり深まることになっていくということを心にめておくべきである。


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