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扉の向こうからやってきたオハナシたち

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記事一覧

【短編】海を見に

【短編】海を見に

海を見に行こう
と思った
なぜ、そう思ったのかと言うと
海を見たい
と言う自分の心の奥の声が聞こえた気がしたからだ
そんな感じがしたからだ
と、誰かに言ったら 
多分、変なやつだとか、疲れてるんだよ
なんて言われてしまうだろう
と思った
でも幸い私は一人暮らしで、どこに行くのか なぜ、そこに行くのかを誰かに説明したり、聞かれたりすることはない
気楽だけど、少し寂しい感じもする
と、支度を終えた自分

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【短編】男の子の救急車

【短編】男の子の救急車

消防車、救急車、タクシー、トラック、バス
たくさんの働く車が並んでいるのが見える
とは言っても、これらの車は全部ミニカーだ
ここは、とある男の子の部屋だった
ブーブーと車の音を真似て、ミニカーを机の上で
走らせている男の子の声が聞こえる
男の子は、車が好きだったが、そのなかでも働く車たちがお気に入りだった
そして、男の子は、誰の視線も気にせずに大好きな働く車たちと遊べる時間を一番好きだと感じていた

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【短編】ガラス瓶

【短編】ガラス瓶

透明なガラス瓶が窓辺に 飾ってあるのが見える
ガラス瓶は、窓から差し込む光を反射してキラキラと光を無数に放っている
キラキラという音が聞こえてきそうなくらいガラス瓶を通して光が踊っている
それを私は、ぼーっと眺めながら、綺麗だなと 感じていた
そのガラス瓶を私はいつ手に入れたのか
そして、いつから窓辺に飾ってあるのか
誰が窓辺に飾ったのか
全く思い出すことができない
そんなことを考えながら、キラキ

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【短編】そうめんの上のさくらんぼ

【短編】そうめんの上のさくらんぼ

なんでそうめんの上にさくらんぼを載せるんだろう?
と不思議に思いながら、白いそうめんの上からつまみ上げたさくらんぼを眺めた
営業先からの帰り遅い昼ごはんを食べようと入った和風の喫茶店は、静かにクラッシックが流れていた
店の中はお昼時を過ぎて客もまばらだった
店員さんもランチどきをすぎて、まったりとカウンターの向こうで何を話しているのかわからないが、おしゃべりをしている声がかすかに聞こえている
仕事

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【短編】雨を待つ

【短編】雨を待つ

女の子は、水玉模様の傘を眺めていた
こないだお母さんに新しいこの傘を買ってもらったのだ
しかし、買ってもらった日から、ずっーと雨が降ることはなかった
だから女の子は、お気に入りの新しい傘をさして 外を歩くことができないことをつまらないと感じていた
女の子は、毎日、お母さんにこう聞いた
「お母さん、明日は、雨が降る?」
すると、お母さんは、天気予報をみて
「明日は、降らないみたいね。残念ね」
と言っ

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【短編】鍵

【短編】鍵

引き出しを開けると一本の鍵を見つけた 
結構、頻繁に開けている引き出しなのに、この鍵を目にしたのは初めてだった
いつから、この鍵は入っているのだろう?
というよりもこの鍵は、どこのなんの鍵だろう
と、私は頭を捻った
しかし、いくら考えてもどこの鍵だかは思い出せない
鍵は、どこにでもあるなんの変哲もないものだった
どこかの家の合鍵かな?
と、私は、鍵を眺めながら思った
私は、何度か引っ越しをしていた

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【短編】少年と卵

【短編】少年と卵

少年は、鶏小屋の藁の中をごそごそとかき分ける
藁のかさかさ言う音が少年の耳にかすかに響く
その音を少年は、こそばゆいと感じていた
そうしていると少年の手に生暖かいようなそして 少しひんやりしているような滑らかな手触りの感触が伝わってくる
少年がそれを掴むと藁の中から少年の手に包まれた真っ白い卵が現れた
毎朝、ニワトリ小屋のうみたての卵を集めるのが 少年の仕事だった
少年は一つの卵も見逃さないように

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【短編】手紙

【短編】手紙

看護師さんから封筒を渡された
なんでもおじいちゃんの友達から僕にということらしい
看護師さんが、封筒を僕に差し出しながら短く 説明をした言葉を聴きながら僕は、不思議な感覚を感じていた
なぜなら僕のおじいちゃんは3年前に死んでいたからだ
そのおじいちゃんの友達という人が、なぜ僕に手紙をくれるのか
なぜ、その人は、僕がこの病院に入院していることを知っているのか
そんないくつもの疑問が僕の頭の中を駆け巡

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【短編】たぬきの子供と泥団子

【短編】たぬきの子供と泥団子

石の上に泥団子が、たくさん並んでいるのが見える
どうやら子供たちがお店屋さんごっこでもしたあとの名残りらしい
しかし、その遊んでいたであろう子供たちの姿は どこにも見えない
ふいに午後5時のチャイムが耳に飛び込んできた
もう夕方だから子供たちは帰ったんだな
と僕は思った
さて、僕も会社に戻って報告書を書かなければ
と、泥団子をぼんやり眺めながら思った
それにしても子供の頃は、よかったなと思った

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【短編】夏の終わり

【短編】夏の終わり

銀色のスクーターが走り抜けて行くのが見えた
もう夏も終わるんだな
と、ふいに思った
銀色のスクーターが連れてきた風が、爽やかな 涼しげな風だったからかもしれない
俺は、今出てきたコンビニのレジ袋を持って、緑市役所と車体に書いてある車に乗り込んだ
エンジンをかけるとカーオーディオからFMラジオの放送が聞こえてくる
今日は洗濯日和で、さらに遊びに行くには絶好の天気らしい
でも俺には関係なかった
なぜな

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【短編】お姫様と金色のマリ

【短編】お姫様と金色のマリ

とてもうららかな春の日の朝
とある国のお妃様がお姫様をおうみになりました
そのお姫様は、それはそれは美しく、誰もが一目見ると目が離せなくなるほど可愛らしいお姫様でした
窓の外では、小鳥たちもお姫様の誕生を祝福する歌を楽しげに歌うのが聞こえてきます
お姫様の誕生と同時に空には大きな虹がかかり
世界中の全ての存在がお姫様の誕生を心から喜んでいるように感じられました
そんなお姫様のベットの脇にはそれはそ

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【短編】砂場の男の子

【短編】砂場の男の子

砂場で黙々とトンネルを掘っている子供の姿が見える
俺は、ブランコに乗りながら熱心に砂の山にトンネルを掘っている男の子の姿を見ていた
平日の昼間から、いい大人がブランコに乗って遊んでいるわけではない
これでも仕事中だ 
俺は、市役所のなんでもやる課で働いている
公園のブランコの調子が悪い、変な音がする時があるという報告があったので現地調査に来ているのだ
ということで、ブランコに乗って、その変な音とや

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【短編】魔法使いの弟子

【短編】魔法使いの弟子

森の木々をかき分けて、奥へ奥へと進んでいくと
森のうっそうとした木々の間から細い紫色の煙がみえてくる
その煙を追って更に森の奥へと進んでいく
バサバサと森の木々の間を獣が移動する音が聞こえる
奥に進めば進むほど太陽の光が弱くなっていくのを感じる
更に奥に進んでいくと、何か苦いような甘いような匂いも感じるようになった
そして 
「何か間違えたかもしれない」
という声も聞こえてきた
すると、ふいに視界

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【短編】キャンディ

【短編】キャンディ

財布をしまおうとする僕の目の前にいきなり、三つのキャンディが現れた
「よろしければ、どうぞ」
と、運転席から運転手の声がキャンディを差し出した手の後から追いかけてくる
「はあ、ありがとうございます」
と、僕はいうと、キャンディを受け取って、タクシーを降りた
タクシーの運転手がくれたのは、赤と白のシマシマな包み紙に包まれたキャンディだった
あんまりキャンディは好きじゃないんだけどな
と、僕は思いなが

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