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【短編】男の子の救急車

消防車、救急車、タクシー、トラック、バス
たくさんの働く車が並んでいるのが見える
とは言っても、これらの車は全部ミニカーだ
ここは、とある男の子の部屋だった
ブーブーと車の音を真似て、ミニカーを机の上で
走らせている男の子の声が聞こえる
男の子は、車が好きだったが、そのなかでも働く車たちがお気に入りだった
そして、男の子は、誰の視線も気にせずに大好きな働く車たちと遊べる時間を一番好きだと感じていた
男の子は、働く車たちをみんな好きだったが、特にお気に入りは赤いボディの消防車だった
今も男の子は、消防車を片手に夢中で遊んでいる
男の子が、最近、消防車に夢中なので他のミニカーたちは出番がなく、少し寂しさを感じていた
その中でも救急車のミニカーは一番出番が少なくて孤独感を感じずにはいられなかった
そんなある日、男の子のお母さんが、部屋を掃除にきた
男の子が、遊んで散らかしたおもちゃを片付けたり、床を掃除機をかけたり、忙しそうに動いていた
その時に男の子のお母さんの体が、男の子が大切にしているミニカーが並んでいる棚に軽く当たった
ガチャンという音がして棚の端っこに置かれていた救急車のミニカーが棚から落ちた
でも掃除機の音がうるさくて、男の子のお母さんは、救急車のミニカーが棚の後ろに落ちた事に 気づかなかった
救急車のミニカーは、棚の後ろに落ちてしまって
自分ではどうすることもできずにただ掃除機の音を虚しい気持ちで聞いていた
救急車は、虚しさを感じてはいたが、希望は失っていなかった
男の子のお母さんは、自分が棚の裏に落ちたことに気づかなかったけれど、自分の持ち主の男の子は、救急車が棚から居なくなっていることをすぐに気づいてくれるに違いないと思っていたからだ
棚の後ろには、たくさんのほこりやゴミが落ちているのが見える
いつも綺麗にされている棚が定位置の救急車は、ほこりやゴミにまみれている事を不快に感じた
上の方から棚に並んでいる他の車たちが、救急車の事を心配している声が聞こえてくる
でも、救急車は、自分では、どうする事もできなかった
とりあえず、ここから抜け出すには男の子に気づいてもらわないといけない
そして、男の子に気づいてもらうには、男の子が 帰ってこないといけないと救急車は感じていた
救急車は、男の子が帰ってくるまでジッとほこりやゴミたちを見つめて耐えた
夕方になって、やっと男の子が帰ってきた
男の子が、お母さんと話す声が聞こえる
そして、バタバタという足音が聞こえて男の子の部屋のドアが開く音が聞こえると男の子が部屋に入ってくるのが見える
そして、男の子は、部屋にはいるやいなや働く車たちが並んでいる棚に直行し、そして今一番お気に入りの消防車に手を伸ばした
しかし、救急車の思惑はハズレて男の子は、棚の上から救急車がなくなっている事に気づかなかった
そんな様子をみて、他の車たちも絶望感をかんじた
男の子は、夕飯の時間がくるまでたっぷりと消防車で遊んだ
そして、棚に消防車を片付けた時にも棚から救急車がなくなっている事には気づかなった
男の子が、夕飯を食べに部屋から出て行くと棚の上の車たちが救急車を心配し、そして男の子が救急車の不在に気づかなかった事を話し、明日は我が身かもしれないと不安に思う気持ちを口々に
話しているのが救急車にもきこえてきた
救急車は、絶望感を感じつつも
明日には男の子が、自分の不在に気づいてくれるだろう
と、少しだけ希望をつないだ
そして、ほこりとゴミを眺めながら暗い夜を耐えた
しかし、次の日になっても、その次の日になっても、男の子は、救急車の不在に気づかなかった
救急車は、どんどん不安を増していった
このまま自分は、この暗い汚い棚の裏で永遠に過ごさなければいけないのかと悲しくなった
そんな希望と失望の夜を何度も越えたある夜
突然、ガサガサという音が救急車に聞こえてきた
今まで聞いたことのない音だったので、救急車は とても不安に感じた
次の瞬間、救急車は、ネズミの姿を見つけた
だからといって救急車は、自分から動くこともできないので、ネズミの姿を見ても自ら何をすることもできなかった
そして、一方のネズミの方は、救急車の姿など 全く目に入っていないようだった
そして、何か目当てのものでも見つけたのか、突然、ネズミは走り出した
その時にネズミは、救急車を跳ね飛ばした
ガチャンという音がして、救急車は棚の裏から男の子部屋のベットの脇に着地した
救急車は、ほこりまみれの棚の裏から思いがけずに脱出できて、少しだけ ほっとした気持ちを感じていた
そして朝が来た
元気よく目覚めた男の子は、ベットの脇の床に
救急車が落ちている事に気がついた
「あれ? なんでこんなところにいるんだろう?
昨日 知らないうちに地震でもあったのかな?」
と不思議そうに男の子がつぶやいているのが聞こえる
そして、男の子は、救急車をいつもの定位置の棚の上にそっと戻した
いつもの場所に無事に戻れた救急車は、この上もない嬉しさを感じた
そして、他の車たちも救急車の帰還を喜びとともに迎えた
そして、今は、男の子はタクシーに夢中だ

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