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【短編】手紙

看護師さんから封筒を渡された
なんでもおじいちゃんの友達から僕にということらしい
看護師さんが、封筒を僕に差し出しながら短く 説明をした言葉を聴きながら僕は、不思議な感覚を感じていた
なぜなら僕のおじいちゃんは3年前に死んでいたからだ
そのおじいちゃんの友達という人が、なぜ僕に手紙をくれるのか
なぜ、その人は、僕がこの病院に入院していることを知っているのか
そんないくつもの疑問が僕の頭の中を駆け巡った
なんだかよくわからなかったが受け取らないと看護師さんが困りそうだったので、封筒を受け取った
看護師さんは、少しホッとしたようで笑顔で去っていった
僕は、早速、封筒の中を見た
てっきり手紙が入っているのかと思ったら、違った
封筒の中には一個の黄色いゴム風船が入っているだけだった
意味がわからない
と僕は思った
昼間の平日の入院病棟は静かだ
昼ごはんの後、眠くなったのか向こうの方から寝息が聞こえてくるぐらいだ
そして、僕も今日は、だいぶ体調がいいので暇を持て余している
僕は、もう一年もこの病院に入院している
お医者さんのいうことには、僕は10万人に一人とかの珍しい病気らしい
一年も病院の外から出ていない
学校にもいけていない
勉強の方は院内学級に通っているから、そんなに 心配はしていないけど、院内学級には僕よりかなり小さい子ばかりで友達ができないのが悩みのタネだった
時々、同年代の子供が入院してくるけれど、その子たちと仲良くなっても、すぐにその子たちは退院して元気に日常へと戻ってしまって僕のことなんて多分、思い出すこともない
そんなわけで、僕は入院が長くなればなるほど
地球上には小学3年生は、僕しかいないのではないか?
みたいな気持ちを感じてしまう
そういう気持ちを孤独感って言うんだってことを こないだ読んだ本で僕は知った
僕は、黄色い風船を見つめながら、黄色い風船を 指先でつまんでプラプラとふりながら、そんなことをとりとめもなく考えていた
午後の面会時間が始まったみたいで、少し病棟から人の話し声が聞こえるようになった
そして、僕は、ふいにいいことを思いついた
僕は、国語のノートを取り出して何も書いていないページを一枚破った
そして、そのノートの切れ端に手紙を書いた
書いた手紙をこの黄色い風船に結んで飛ばそうと 思ったのだ
空には神様がいるみたいだから風船を飛ばせば 神様に願いが届くかもしれない
と思ったからだ
あとは、この手紙を風船につけて飛ばすだけだった
病院の外に出るわけにはいかないから看護師さんたちの目を盗んで病院の屋上に行って風船を飛ばすしかない
と僕は思った
けれど、次の日は急に熱が出て、僕は起き上がることもできなくなった
ただ恨めしそうにベットのサイドテーブルに置いてある黄色い風船を見つめるしかなかった
そして、三日後にやっと僕は熱が下がって、フラつかないで一人で歩けるようになった
気分もだいぶいい
そして、窓の外はすっきり晴れた秋の空が見えている
今日しかない
と僕は思った
そして、お昼ご飯が終わった後、面会時間が始まって病棟全体に騒がしい空気を感じると僕は、風船と手紙を持って屋上へと向かった
タンタンタンタンと屋上への鉄の階段を登る自分の足音を聴きながら、それと同じように僕の心臓も鳴っているのが聞こえた
そして、ガチャリと屋上への扉を開くと、僕の 目の前にどこまでも青い空が広がっていた
下の道路からは、車のクラクションや車がせわしなく走る音がかすかに聞こえてくる
そんな中、僕は、急いで黄色い風船をふくらました
そして、パンパンに膨らんだ風船の先に持ってきた糸を結んで、さらに反対側の糸の先に手紙を結んだ
準備は万端に整った
どうか、この手紙が神様に届きますように
そして、僕の願いが叶いますように
と、僕は心の中で強く思いながら黄色い風船の紐をゆっくりと離した
風船の糸が少しうねるような感覚を指先に感じたかと思うと、黄色い風船は雲ひとつない真っ青な空にフワリと浮いて、そして風に揺られて飛んでいった

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