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【短編】夏の終わり

銀色のスクーターが走り抜けて行くのが見えた
もう夏も終わるんだな
と、ふいに思った
銀色のスクーターが連れてきた風が、爽やかな 涼しげな風だったからかもしれない
俺は、今出てきたコンビニのレジ袋を持って、緑市役所と車体に書いてある車に乗り込んだ
エンジンをかけるとカーオーディオからFMラジオの放送が聞こえてくる
今日は洗濯日和で、さらに遊びに行くには絶好の天気らしい
でも俺には関係なかった
なぜなら俺は仕事中だったからだ
俺は、緑市役所の職員で、こないだの台風で海岸の遊泳禁止の看板やらがなくなったり、色々と海岸沿いに被害が出ているという話だったので現地調査に向かう途中だった
だから雨は困るが、仕事をする気を奪うような 絶好の天気は、特別歓迎はしていない
夏の終わりの海岸沿いは、車や人も少なくて夏が終わっていくという名残惜しさと寂しさをなんとなく感じる
ハンドルを右に切る
カチカチとウインカーの音が聞こえる
俺は、駐車場に車を止めた
車から降りると、俺が止めた車の横に銀色のスクーターが止まっているのが目に止まった
あれ?
さっきコンビニの前ですれ違ったスクーターじゃないか?
と俺は思った
と言っても確証もないし、確かめようもないし それ以上、格別、知りたい理由があるわけでもないので、俺は、すぐにそのことを忘れた
そして、通報のあった被害箇所を一つ一つチェックして回った
波の音が静かに聞こえて、これで仕事でなければ どんなにいいだろうと俺は 感じていた
そして一通り被害状況をチェックし終わった俺は 
特に急ぐ理由もないので、少しだけ夏の名残りを 満喫しようと砂浜を散歩することにした
ザクザクと靴が砂をかき分ける音が 聞こえる
海水浴客はいないが、遠くの方でサーファーたちが波間にあらわれたり消えたりするのが見える
そんな夏の終わりを感じながら、砂浜を歩いていると向かう先に人影が見えた
夏の終わりを惜しんで海を見にきたのか
失恋でもしたのか
と思いながら、引き返すのも変だし、俺は、そのまま真っ直ぐに歩いていった
そして、近づくにつれて人影がはっきりしてきて 俺は 
あっと声をあげた
それは向こうも同じだった
こんなところで再会するとは奇跡的なタイミングだと俺は感じだ
その女性と会うのは今日が三回目だった
一度目は教会の見える丘に行った時、木の上で 降りれなくなってる子猫を助けようとして木から落ちた時に救急車を呼んでくれた時
そして、入院した病院で検査待ちをしていた時に 
偶然、再会したのが二回目
彼女の名前は、確か綿谷琴音だ
二回目の時、検査技師が彼女のことをそう呼んでいた
俺の顔を見た彼女は 
「もう足はいいんですか?」
と聞いてきた
どうやら、彼女も俺のことは覚えているようだった
「この通りですよ」
と、俺は、おどけて治った足を叩いて見せた
その拍子に足元の砂にバランスを崩して危うく 転びそうになった
そして、そのあと話の流れで、俺は、緑市役所のなんでもやる課に勤めていることなどを話した
彼女は、緑市立図書館に勤めていて驚くことに 俺の職場と目と鼻の先で働いてた
三度目の偶然の再会もすごいが、実はもっと前から知らない間にすれ違っていたりしてたのかもしれない
と思うと、それはそれで、なんだか不思議な感じがした
そして、俺は、ふと彼女が持っている空き瓶に 目を止めた
なんで空き瓶なんか持っているのかと聴くと
この砂浜で拾ったという
そして、その空き瓶の中には手紙が入っていたのだという
それを聞いた俺は、俺の面白センサーが反応するのを感じだ
そして、彼女にその空き瓶に俺たちも手紙をそれぞれ書いて改めて海に流さないかと提案した
彼女は、一瞬、びっくりした表情を見せたが俺の提案に乗ってくれた
俺は、鞄から手帳を取り出して一ページ破ってボールペンと一緒に彼女に渡した
そして、俺と彼女は砂浜に座って、波の音を聴きながら手紙を書いた
そして、それを空き瓶につめた
そして、二人で堤防まで行って、その手紙入りの 空き瓶を海に流した
そのタイミングで俺の作業着の胸ポケットに入っていた携帯が鳴った
スマホの画面を見ると上司の名前が表示されていた
それをきっかけに簡単に挨拶をして、俺は彼女と 別れた
俺は上司からの電話を終えると、そのまま駐車場に向かった
車に乗り込む時に隣に止まっている銀色のスクーターが目に入った
もしかして、あの銀色のスクーターは彼女のものかもしれない
と、確証はないがなんとなく、俺はそう感じだ
そういえば、彼女は空き瓶にいれた手紙に何を書いたんだろう?
と思いながら、俺は市役所に戻るために車を発進させた

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