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【短編】キャンディ

財布をしまおうとする僕の目の前にいきなり、三つのキャンディが現れた
「よろしければ、どうぞ」
と、運転席から運転手の声がキャンディを差し出した手の後から追いかけてくる
「はあ、ありがとうございます」
と、僕はいうと、キャンディを受け取って、タクシーを降りた
タクシーの運転手がくれたのは、赤と白のシマシマな包み紙に包まれたキャンディだった
あんまりキャンディは好きじゃないんだけどな
と、僕は思いながら、スーツのポケットに無造作にもらったばかりのキャンディを放り込んだ
タクシーを降りた僕の目の前にどーんと大学病院の大きな建物が見えてきた
せわしなく車や 人が行き交う喧騒の中から病院に入ると急に音がなくなる
平日の病院、特に入院病棟は静かだった
時々、遠慮がちにヒソヒソと誰かが話す声が聞こえてくるだけだった
僕は、子供の頃からの友達が骨折して入院したと聞いて、仕事の合間に見舞いにきたのだった
高橋一也
と書いてあるネームプレートを確認すると僕は、部屋に入って行った
高橋は、大部屋の一番奥の窓際のベットにいた
高橋は、僕を見つけると、嬉しそうにニヤニヤと 笑った
案外、元気そうだな
と、僕は思った
「どう?」
と、差し入れの高橋が好きなスナック菓子とドリンク、そして、暇つぶしのための今週発売の漫画雑誌をおきながら聴くと
「どうも、こうもねーよ
暇で、暇でさあ」
と、高橋は、ギブスをペチペチ叩きながら言った
「安達からは、高橋が木から落ちて骨折して入院した、しか聞いてないんだけど、何があったんだよ」
と、高橋のギブスで固められた足を見ながら言った
「先週の日曜に教会の見える丘に行ったんだよ
ほら、こないだのバーベキューで、鉄男の言ってた 都市伝説の検証をしようって話になっただろう
それで、なんていうの?
下見っていうの?
まあ、そんな感じで、ぶらりと行ってみたわけよ
そしたら、例の大きな木の上でさ
ニャーニャー、猫の鳴き声が聞こえるわけさ
で、上を見たら子猫がいるのよ
多分、登ったはいいけど、降りれなくなってたんだな
それで助けてやろうと思って、木に登ったんだけど
子猫のやつ、助けてやろうってのに俺が近づいくとジリジリと逃げるのよ、枝の先の方にさ
あぶねーから早く捕まえようと思って、手を伸ばしたら、バランス崩してさ
そのまま落ちたら、こーなったってわけ
しかもさ、子猫のやつ、俺が落ちた衝撃でさ、びっくりして一緒に落ちたのな
でもさ、あいつ 猫じゃん?
落ちても怪我一つなくてさ
さっさと逃げて行きやがった
つめてーよなあ」
と、高橋は一気に喋った
そして、コンコンと咳をした
「病院ってとこは、乾燥してていけねーよな」
と、高橋が苦笑いしながら言った
「それなら、のど飴も買ってくればよかったな」
と、僕は言って、スーツのポケット中にタクシーの運転手から貰ったキャンディがある事を思い出した
僕が、コートのポケットからキャンディを取り出すと、高橋は、それを見て、嬉しそうに笑った
高橋が、せわしなくガサガサと音を立てて、赤と白のシマシマのキャンディの包みをあける音を聴きながら、
あの時はいらないと思ったけどキャンディをもらってよかったな
と、思った
高橋が飴を全て食べ終わる頃、ひとしきり話をした僕は、次の仕事の予定があるので、病院を後にした
病院の建物を 出て、ふと空を 見上げると、黄色い風船がふわりと飛んでるのが見えた

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