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【短編】少年と卵

少年は、鶏小屋の藁の中をごそごそとかき分ける
藁のかさかさ言う音が少年の耳にかすかに響く
その音を少年は、こそばゆいと感じていた
そうしていると少年の手に生暖かいようなそして 少しひんやりしているような滑らかな手触りの感触が伝わってくる
少年がそれを掴むと藁の中から少年の手に包まれた真っ白い卵が現れた
毎朝、ニワトリ小屋のうみたての卵を集めるのが 少年の仕事だった
少年は一つの卵も見逃さないように丁寧に丹念に
藁の中を覗いては卵を集めていった
少年の持つとうで編まれたカゴの中に一つまた一つと真っ白い綺麗な卵が増えていく
そして、卵がカゴ一杯になると少年は、そのカゴに入った卵を持って町の商店に売りに行くのだ
卵をわらないように、でもなるべく早く新鮮な卵を届けに行く
ガタゴトと音を立てて、荷馬車が少年の脇を通り過ぎていく
荷馬車に積まれたたくさんのカボチャのオレンジ色が少年の目には眩しく感じた
そろそろハロウィンの季節だな
と少年は思った
ハロウィンの日にはどんな仮装をしようか
と、少年は想像しながら道を急いだ
しばらくすると大きなカシの木がある家が見えてきた
少年は、少し自分の体が緊張するのがわかった
その家のカシの木にはハロウィンの日にお化けが 出るという噂を友達から聞いたばかりだったからだ
あの話は友達の作り話なんだ
と、少年はカシの木を見上げながら自分に言い聞かせた
実際に昼間の太陽に照らされ、晴れた秋の空に そびえ立つカシの木には、そんなおどろおどろしい雰囲気を感じることはできなかった
ふと、少年は卵を売りにいく途中だと思い出して 少し早足で歩き出した
しばらくすると、行き交う馬車が増えてきた
町が近くなってきた証拠だ
馬車が 行き交うたびにガタゴトとという馬車が揺れる音と馬車の振動が地面から少年の足に伝わってくるのを感じながら歩いていると前方に町が見えてきた
少年が卵を売りにいく商店は町の真ん中にあった
少年が商店の少し重いドアを体を使って開けると
カランコロンと客が来たことを告げる鐘が鳴って 店の店主が出てきた
店主は少年の顔を見ると
「おはよう」
と笑顔を見せた
少年は卵を落とさないように割らないように慎重に台の上に置いた
店主は、少年の持ってきたカゴの中の卵を一つ一つ丁寧に吟味していった
そして少年に卵の代金を渡した
少年は、店主から受け取ったコインをデニムのポケットにいれると、店主に挨拶をして店を出た
少年は、片手をデニムのポケットに突っ込みポケットの中のコインの感触を感じながら歩いた
帰りは卵がないので、卵を割らないように気をつけなくていいので、少年は、いつも少し早足に歩いた
特に急ぐ必要はなかったが、なぜか、いつも足に 羽が生えたような感覚になり早足になるのだった
しばらくいくと少年は
のどが乾いたな
と思った
そこで、少し寄り道をすることにした
少年は、脇道にはいると小川に向かった
サラサラと音を立てて水が流れる音が少年の耳に心地よく感じる
秋が深まり冷たさを増した小川の水を少年は、両手ですくいあげて口に運んだ
冷たい小川の水がコクンと少年の喉を通り抜けていく感触を感じながら、少年は喉の渇きを満たした
ふと目をあげると少し先の方に野ぶどうが実っているのを見つけた
少年は、そのぶどうをお土産にしたらみんなが喜ぶだろうと思ったら嬉しくなって野ぶどうのところまで走って行った
そして、卵を入れていたカゴに夢中で野ぶどうを 摘んではいれた
カゴ一杯の野ぶどうを摘むと少年の心も嬉しさと ワクワクで一杯になるのを感じた
カゴ一杯の野ぶどうを持って、少年は家に帰った
少年の予想通り、少年の小さな弟たちや両親は少年の持ち帰ったカゴ一杯の野ぶどうのお土産をたいそう喜んだ
そして、その野ぶどうを少年のお母さんは、少年の大好きな美味しいジャムにしてくれた
パンにジャムを塗って食べながら家族が美味しそうに食べる笑顔をみて、少年は美味しさと喜びを 噛みしめたのだった

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