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【短編】たぬきの子供と泥団子

石の上に泥団子が、たくさん並んでいるのが見える
どうやら子供たちがお店屋さんごっこでもしたあとの名残りらしい
しかし、その遊んでいたであろう子供たちの姿は どこにも見えない
ふいに午後5時のチャイムが耳に飛び込んできた
もう夕方だから子供たちは帰ったんだな
と僕は思った
さて、僕も会社に戻って報告書を書かなければ
と、泥団子をぼんやり眺めながら思った
それにしても子供の頃は、よかったなと思った
僕も子供の頃は泥団子を作った
それを時には団子として、葉っぱのお金と交換した
時に泥団子の塊は、チョコレートに見立てられて
葉っぱのお金と交換された
泥団子は、いくらでも作れたし
葉っぱのお金は、いくらでも拾ってくることが できた
今の僕は、月に手取り20万円の給料をもらうのに
一日、営業先を靴の底をすり減らして歩き回って
嫌なやつにも愛想笑いをして悪くもないのに頭をさげたりもしている
そんなことを思ったら、少しだけ寂しさを 感じた
「おじさん」
感傷に浸っている僕の背後で声が聞こえて僕は
どきりとして振り向いた
そこには、一人の小さな男の子が立っていた
「おじさんに、お願いがあるんだけど」
と、男の子が僕の顔を見上げて真剣な顔で言った
僕は、まだ 28才で、おじさんじゃない
と、少しムッとした感覚を感じながら
「どうしたの?」
と、僕は、男の子に問いかけた
「僕、実は、たぬきなんだ
子供たちと遊びたくて人間の子供に化けて遊んでたんだけど、みんなが帰ってしまって、僕も家に帰ろうと思って、たぬきの姿に戻ろうと思ったんだけど、元に戻るためには落ち葉が必要なのにお店屋さんごっこで落ち葉を使い切ってしまって、一枚も落ち葉が見つからないんだ」
と、本当はたぬきらしい男の子が泣きそうな顔で
僕に訴えた
たぬきが、本当に化けることができるのかとか色々と受け入れ難い状況は別にすれば事情は飲み込めた
「要するに、落ち葉が一枚あればいいんだよね?」
と、僕がいうと泣きそうだった男の子の顔が、ぱあっとはれた
すぐに見つかるだろうと思って、僕は、安請け合いをしてしまったことをすぐに後悔することになった
どうしたわけか、落ち葉は、どこにも一枚も見つからなかった
本当にどこにも見つからないので、僕は、だんだんと焦ってきた
たぬきだという男の子も、ほっとけないし、会社にも戻らないといけない
だんだんとあたりも暗くなってきた
これでは、落ち葉があっても見つけることもできなくなる
困った僕は 
神様、お願いします
一枚でいいので落ち葉をください
と、柄にもなく心の中でつぶやいた
それからしばらくすると、僕の頭上で
カアカア
というカラスの鳴き声が聞こえた
ふと、僕が、上を見上げると
何羽かカラスが、電線の上に止まっていた
その中の一羽のカラスが、くわえていた落ち葉を はらりと落とした
僕は、急いで、その落ち葉を拾った
すると、カラスたちは、一斉に電線から飛び立った
アホー アホー
というカラスたちの鳴き声が、遠くなりながら 聞こえてた
アホでもなんでもいい
神様、ありがとう
と、僕は、生まれて初めて神様に感謝した
そして、手にした一枚の落ち葉を男の子に渡した
男の子は、ホッとしたような嬉しそうな笑顔を見せた
そして
「ありがとう、おじさん
これは、落ち葉を見つけてくれたお礼だよ」
と、青い大きな葉っぱにくるまれたものを僕の手のひらにのせた
そして、男の子は
落ち葉をあたまの上に乗せた
すると、あっという間に僕の視界から男の子は 消えて、目の前に小さなたぬきが現れた
やっぱり、男の子の言ってたことは、本当だったんだ
と僕は思った 
たぬきは、何度も何度も頭をペコペコ下げて、そして暗闇の中に消えていった
僕は、それから会社に戻り、報告書を書いた
その夜、寝る前にふと思い出して、たぬきから もらった青い葉っぱでつつんである包みをあけた
男の子が、たぬきに戻る前に包みをあけて、窓辺において月の光に一晩当てておくようにと僕に 言っていたからだ
包みをあけてみると、そこには一個の泥団子が あった
なんだ、泥団子か
と、僕は、少々ガッカリした
でも、なんとなく男の子が言った通りに包みごと 泥団子を窓辺に持っていき、一晩月の光が当たるように置いた
次の朝、僕が目覚めると、窓辺の泥団子は消えていた
泥団子は消えていて、泥団子が置いてあった場所には、一枚の紙切れが置いてあった
僕は、それを手に取って眺めた
その紙切れは、一枚の宝くじだった
たぬきに化かされたかな?
と、僕は思った
しかし、なんとなく気になってスマホを取り出して、その宝くじを調べた
すると、なんと10万円が当たっていた
宝くじは本物だった
それから、休日や仕事帰りに子供たちが遊んでいる楽しげな姿を見たり、声を聞いたりすると
もしかして、あの中にたぬきの子供が紛れているのかもしれない
と、僕は思うようになった
うっかりして元に戻れなくならないように、いつでもポケットに落ち葉を忘れずに入れておけよ
と、思いながら楽しそうに遊ぶ子供たちの脇を通り過ぎるようになった

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