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【短編】魔法使いの弟子

森の木々をかき分けて、奥へ奥へと進んでいくと
森のうっそうとした木々の間から細い紫色の煙がみえてくる
その煙を追って更に森の奥へと進んでいく
バサバサと森の木々の間を獣が移動する音が聞こえる
奥に進めば進むほど太陽の光が弱くなっていくのを感じる
更に奥に進んでいくと、何か苦いような甘いような匂いも感じるようになった
そして 
「何か間違えたかもしれない」
という声も聞こえてきた
すると、ふいに視界が開けて小さな丸太小屋が 見えてきた
そしてその脇で大きな釜を長い棒でかき混ぜている三角のとんがり棒を被った一人の男の子が見える
どうやら先ほど聞こえてきた声は、この男の子の ものだったようだ
この丸太小屋は、森の魔法使いの家だった
そして、大きな釜をかき混ぜていたのは、その魔法使いの弟子だったのだ
魔法使いのもとで修行中の魔法使いの弟子は、魔法使いが調合した薬草やら焼いたイモリなんかの入った液体を焦がさないように長い棒でかき混ぜるのが今のところの1番の仕事だった
もうこんな生活を5年以上続けている
最近は、魔法使いに言いつけられた仕事が終わった自由時間には、お師匠さんの魔法使いのそばで 見ながら覚えた色んな秘薬の調合を再現できるか 試してみる事を許してもらえるようになったのだ
ちょうど今、魔法使いの弟子は、嫌いな相手をカエルに変える秘薬の調合に挑戦しているところだった
そして
何か間違えたかもしれない
という声が聞こえたようにその挑戦は失敗したようだった
「ちゃんとお師匠さんのやるようにやったのにな」
と、魔法使いの弟子は、釜の中の黒い液体の中に
虹色のマーブル模様が浮いているのを見ながらつぶやき、釜の中を混ぜていた長い棒を所在なげに 釜の中で三回ほど大きく回した
大きなため息が聞こえた後、魔法使いの弟子は その長い棒を釜から引き抜くと丸太小屋に立てかけて釜の中の液体をきれいに捨てた
チョロチョロと釜から流れ出る液体の音が、静かな森の中に静かに吸い込まれていくのが聞こえる
そして、失望の色を感じながら釜と長い棒を背中を丸めて洗う魔法使いの弟子を梢の上からリスたちが見ている
魔法使いの弟子は、きれいに洗った釜をしまい 長い棒を手に取った
この長い棒は、魔法使いの弟子になった日にお師匠さんである魔法使いからプレゼントされたものだった
魔法使いの弟子は、すっかり自分の手になじんだ
棒を眺めた
5年以上の歳月が白かった棒の色を飴色に変えていた
僕には、才能がないみたいだ
お師匠さんも毎日1日中、釜の中をかき混ぜる仕事しかさせてくれないし
もう やめてしまおうか
と魔法使いの弟子が失望と悲しみを含んだ声で呟くのが聞こえる
そして、その瞬間に、ふるふると魔法使いの弟子が持っている
長い棒が震えたのが見えた
魔法使いの弟子も長い棒が自分の手の中で、ふるふると震えた感触を確かに感じていた
ビックリした顔で魔法使いの弟子は棒を見つめた
気のせいじゃないよ
という声が魔法使いの弟子の耳に聞こえた
どこから聞こえたんだろうと不思議そうにキョロキョロと周りを見回す魔法使いの弟子の耳に

俺だよ、俺

と、また声が聞こえた
そして同時にまた棒がふるふると震える感触が 魔法使いの弟子の手に伝わった
やっと魔法使いの弟子は、棒が喋っていることに
気がついた

何が起こったんだろう

と、魔法使いの弟子が思っていると
今度は、弟子の背後から声が聞こえた
お師匠さんである魔法使いが、いつのまにか弟子の背後に立っていたのだ
「お前は5年以上、毎日文句もいわずに釜の中を かき混ぜ続けたな
この5年以上の繰り返しの作業は、お前の棒を育てるための大事な時間で作業だったのだよ
そして今日、お前の棒に命が宿った
これからは、この棒がお前の相棒として秘薬の作り方や魔法の使い方をサポートしてくれるだろう」

というお師匠さんの言葉を魔法使いの弟子はあっけにとられながら、そして、胸が熱くなるのを感じながら聞いていた
魔法使いの弟子は、相棒を手に入れた事で魔法使いの見習いを卒業した
そして、新米魔法使いとして魔法使いの住む丸太小屋から出て自分の丸太小屋を作った
初めて魔法の呪文を唱えてあの相棒である長い棒の助けはあったものの魔法で立てた丸太小屋だった
そして、それは、とてもうまくいった
それから、この魔法使いの弟子は、偉大なる大魔法使いになっていくのだが
また それは 別の話である

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