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【短編】鍵

引き出しを開けると一本の鍵を見つけた 
結構、頻繁に開けている引き出しなのに、この鍵を目にしたのは初めてだった
いつから、この鍵は入っているのだろう?
というよりもこの鍵は、どこのなんの鍵だろう
と、私は頭を捻った
しかし、いくら考えてもどこの鍵だかは思い出せない
鍵は、どこにでもあるなんの変哲もないものだった
どこかの家の合鍵かな?
と、私は、鍵を眺めながら思った
私は、何度か引っ越しをしていたので、それはあり得ることだった
でも家の鍵にしては、少し小さいような気がする
と、今の家の鍵と見比べながら思った
その時、携帯電話が鳴った
私は、手にしていた鍵をテーブルの上に置いた
携帯電話を見ると、LINEが着信したという表示が
目に飛び込んできた
大学時代の友達のゆうこからだった
そこで、私はふと思いついて、ゆうこに返信するついでにその鍵の画像を送って聞いてみた
ゆうこからは、
私はわからないけど他の人にも聞いてみたら?
グループLINEにこの鍵の画像送ってみるね
と返信が返ってきた
しばらくするとスマホから着信音が聞こえて、ゆうこがグループLINEに送った鍵の画像とメッセージが私のところにも届いた
ゆうこがグループLINEにメッセージを送ってから 30分ぐらい経った頃
スマホからまた着信音が聞こえた
スマホを手に取り画面を見ると、グループLINEに 
大学時代のサークル仲間の高橋からメッセージが入っていた
それ、もしかしたら、大学のロッカーの鍵じゃないかな?
と、高橋は送ってきた
そういわれれば、そんな気がする
そもそも家の鍵にしては変だし
と、改めて鍵を手に取り眺めながら私は思った
そんなことを考えていると、またLINEが着信した音がスマホから聞こえた
見ると
来週の日曜日にその鍵で3年ぶりにロッカーをあける儀式をするから大学に午後1時に集合
という半ば強引な召集のメッセージが高橋から届いていた
私は手帳を開いてスケジュールを確認した
そうこうしているとそのメッセージにパラパラと かつての映像研究会のメンバーから出欠の返事が 返ってきて、スマホからはポコポコと少し魔が抜けた着信音が聞こえ続けた
そして、次の週の日曜日、私は、3年ぶりに母校の門の前に立った
どうやら私が一番乗りだったようだった
それからすぐに言い出しっぺの高橋がやってきた
そして集合時間には、今日のイベントに参加するメンバーが揃った
結局、集まったのは五人だけだった
「鍵持ってきてるよな?」
という高橋の言葉に私は、ポケットから例の鍵を 出して見せた
既に大学には許可はとってあるようで、高橋が 守衛さんに声をかけると守衛さんが鍵の束を持って、私たちのかつて溜まり場にしていた部屋に案内してくれた
そして、守衛さんと映像研究会のメンバーが見守る中、私はポケットから鍵を取り出した
もし、ここのロッカーの鍵じゃなかったらどうしよう
と、なんだか急に不安を感じた
一番奥のロッカーから試してみることにした
鍵穴に鍵を差し込むと金属がこすれあう感触があり
ガチャっ
と音が聞こえて、鍵があいた感触が伝わってきた
開いた!
と、息を呑んで見守っていた仲間から声が漏れたのが聞こえた
そして、私は、ロッカーの扉を静かに開いた
恐る恐るロッカーの中を見てみる
何かごちやごちゃとした布の塊が見える
取り出してみると、それは、たぬきの着ぐるみ とうさぎの着ぐるみだった
それを見て、守衛さんは首をかしげ、そして私たちは 
あー!
と声をあげた
最後の学園祭で私たち映像研究会は高橋の提案で
ドッキリカメラ映像を撮ることになったのだ
その時に使ったたぬきとうさぎの着ぐるみがロッカーから出てきたのだ
懐かしさがこみあげてきたと同時に 
さて、これをどうしたものかと思った
そして、他のメンバーの顔を見たら、みんな同じことを考えていることがわかった
しばしの沈黙の後、守衛さんの声が聞こえてきた
「あの、もしそれいらないんだったら、今、焼却炉で先生方に頼まれた書類とか燃やしてるから一緒に燃やしてもいいですよ?」
一斉に守衛さんの顔を見た私たちの顔には
あなたは 神ですか?
と書いてあった
そして、私たちは、その守衛さんの言葉に甘えることにした
守衛さんにロッカーの鍵を返して、たぬきとうさぎの着ぐるみを持って焼却炉に向かった
茶色に錆びた焼却炉の重い鉄の扉を開けると炎の熱が顔に伝わってきた
そして、私たちは、少し神妙な顔でたぬきとうさぎの着ぐるみを炎の中に放り込んだ
にっこりと笑った顔のたぬきとうさぎの顔が炎に包まれていく
そんな様子を私たちは、なんとなく無言で見守った
パチパチと炎がはぜる音だけが聞こえていた
そして、炎につつまれて、だんだんとたぬきとうさぎの姿は見えなくなっていった
ふーっ
と、高橋が、一つ大きくため息をついた
そして
「さあ、やり残したことも終わったな
これで本当に俺たちの学園祭は終わった
決着がついたってことだな
よし、精進落としに飲みにいくぞ!
だるまは、まだやってんのかなー」
と高橋が言った
精進落としってこういう時に使う言葉だっけ?
と、高橋の言葉を聴きながら私は思った
「だるま、懐かしい
やってるのかな?
とりあえず、行ってみようよ!」
と、ゆうこが弾んだ声でいうとみんなの顔が大学時代の顔に戻った
そして、私たちは、焼却炉の重い扉を閉めて、私たちが大学時代に溜まり場にしていた居酒屋に
向かって歩き出した

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