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江楠くれこ
2023年7月2日 07:14
そこにカフェがあることに気付いたのはつい先週の事だ。これまでにも何度か来たことがある場所のはずなのに、今の今までその小ぢんまりとした家屋がカフェであることに気付かなかった。小窓から店の中を覗くと、壁面を覆うように書棚が並んでおり、壁には古びたレコードや写真がセンス良く飾られている。いわゆる隠れ家的な店と言ったところだろうか。趣のある木の扉を押し開け足を踏み入れると、常連客と思しき客がマスターと
2023年7月9日 21:37
あらすじ女子高生霊能者・神崎怜は、SNS経由で高橋裕太から除霊を頼まれる。胸騒ぎを感じつつ依頼を受けるが、霊視の結果裕太を悩ませる女の霊がある地方にのみ伝わる呪詛に関わっている事を知る。彼女の正体は?彼女は何故裕太を呪うのか?どうやって裕太に降りかかる呪いを防げばよいのか?怜を襲う怪異から垣間見える情報を繋ぎ合わせるうちに、女の正体が明らかになっていく。果たして怜と裕太は彼女の呪い
2023年7月10日 10:09
一日目一M市に向かう特急列車に揺られながら、怜は祖父の事を思い出していた。祖父は怜が小学四年生の頃に他界した。無口で気難しい人だったが、怜の能力に気付くと沢山の事を教えてくれた。霊にもあまり害のない霊とそうでない霊が居ること、生前の未練が強いほどなかなか成仏できずに現世に縛り付けられてしまうこと。そういった霊たちを仏尊の力を借りて祓う真言や、その言葉の持つ意味などだ。その祖父が
2023年7月11日 08:45
二日目一とはいえ、一度引き受けた仕事を途中で放り出すわけにもいかない。昨夜の霊障は結局あれきりだったが、まんじりともせずに一夜を明かした。ともすれば眠りに落ちそうな自分に喝を入れ、怜は再び霊視を試みることにした。裕太の家に意識を集中させると、ベッドの横に佇む女の姿が視えた。肩まで伸びた髪は、どことなくレトロなパーマがかかっている。服装は昭和初期を思わせるワンピースだ。──あな
2023年7月13日 22:17
三日目一タケシタサン。彼女はあの男性をそう呼んでいた。昨夜の金縛りを思い出しながら、怜はひとまず情報整理を試みることにした。昭和21年から31年までの間に、K県の水田新地であの女性と何らかの接触があったタケシタという人物が、裕太の縁者に居るはずだ。彼が何らかの恨みを買い、彼女に呪詛をかけられた……と考えるのが妥当な線だろうか。しかし、仮に呪詛をかけられて死んだのだとすれば、その霊魂が
2023年7月15日 11:48
四日目三アパートに着くなり、裕太は部屋の隅に雑然と置かれた段ボールを漁り始めた。引っ越してこの方連日の霊障に悩まされ続けたため、荷解きもそこそこに放置したままになっていたのだ。女は先日視た時と変わらずベッドの脇に俯いている。今のところ大きな動きを見せることもなさそうだ。女の放つ妖気に鳥肌を立てながら、怜も裕太とともに壷を探す。程なく「あった、これじゃないですか?」という裕太の声
2023年7月15日 13:00
四日目四ひとまず裕太から壷を預かり受けると、怜はホテルに戻った。あのまま裕太が持っているよりは怜の手元にある方がまだ安全だろうという判断だ。再び呪詛を封印するための新しい札を用意しなければならない。怜はバッグから和紙と筆を取り出し、高校生らしからぬ達筆な文字で呪文を綴った。続いて「高橋 裕太」の名を記した人形を作り、裕太の髪を包む。竹下の人形で爪を包み、ともに壷に入れる。この呪符で壷
2023年7月15日 16:03
エピローグ風呂から上がり、スキンケアを終えてベッドサイドに腰を下ろすと、スマホの通知音が鳴った。Twitterを確認すると裕太からダイレクトメールが届いていた。怜はTwitterを閉じるとベッドに潜り込んだ。──ハッピーエンドとは言い難い結末ではあったけれど、彼女の望みは叶ったのかもしれないな……。彼女の犯した罪は決して許される事ではない。けれど、世の中には白と黒では割り切れない事が