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【乙】あずかりやさん/大山淳子
最初の語り手は「のれん」だった。店先に下がっているあの「のれん」だ。次の章の語り手は「自転車」。目の見えない店主の代弁するかのように特殊な語り手から語られる世界は、文章を読んでいてもありありと伝わってきた。
最後の章の語り手は白猫。人が「ねこ」と呼んでいる招き猫と自分のフォルムが違いすぎることに違和感を覚えているあたり、本当に猫から見た世界、といった感じだ。
商店街の端に位置する「あずかり
【乙】星がひとつほしいとの祈り/原田マハ
女性作家による、女性たちが織りなす短編集。
実はあまり馴染みがなかった。
生きる場所も年代も違う女性たちが登場し、彼女たちは皆、自分や身近な人物の幸福を祈り、希望をもって人生を進める。
自分を投影するほど似た境遇のキャラクターはいなくとも、「女性」が中心となっているだけで読みやすく、内容はスムーズに入ってきた。
登場人物たちのそれぞれの「祈り」はどれも厚かましくなくささやかで、そんな無欲さ
【甲】星がひとつほしいとの祈り/原田マハ
何を書こうにも、書き出しが一切思いつかない。
どうやっても陳腐な表現にしかならなくて困り果てている。ただの感想文なので別にかっこつける必要はないんだけど。
本を読んだ、というよりも映画を見たような感覚だからかもしれない。
ひとつひとつの情景や人物像がありありと思い浮かぶような文章だった。これは作者である原田マハさん自身の豊富な経験と、解説の言葉を借りるなら、「すべてをいちどに身体に取り込み自分の言
【乙】僕のなかの壊れていない部分/白石一文
この物語を自分からは程遠い高慢な男の話、という感想を持てる人は、ある意味とても健康で幸せな人だろうと思う
という一文が窪美澄氏による解説の中にある。
なんだかんだ、私はこういうざらついた、”他人には理解しがたいもの”に対するうっすらとした憧れがあるだけの健康で幸せな、「普通の人間」だ。
主人公である「僕」の考え方に共感をすることは非常に難しく、男性が主人公の本だからだろうか、私よりはるかに賢い人
【乙】スタンフォードの自分を変える教室/ケリー・マクゴニガル
「両極端だが両方間違っているとは言い切れない」情報がインターネット上にはたくさん転がっている。
「できる人の10か条」「賢い時間の使い方」といった、頑張ることがよしとされるものがあれば、「生きてるだけで偉い」「とにかくあったかくして寝な」といった頑張りすぎないことがよしとされるものもある。あながちどちらも嘘ではなく、私自身は自分のコンディションに合わせて都合よく両方の説を支持させてもらっている。
【甲】僕のなかの壊れていない部分/白石一文
長かったような短かったような。半分くらいを夜中に一気読みしたこともあって、釈然としない奇妙な読後感が残った。
昔の男が住む京都で、美しい恋人はどんな反応をするのだろうか。悪意のサプライズ旅行を企画した29歳出版社勤務の「僕」は、関係を持つ三人の女性の誰とも深く繋がろうとはしない。理屈っぽく嫌味な言動、驚異の記憶力の奥にあるのは、絶望か渇望か。切実な言葉たちが読者の胸を貫いてロングセラーとなった傑
むかしのはなし/三浦しをん
「死ぬことは生まれた時から決まってたじゃないか。」
そんなことを、言われましても。
頭では理解しているつもりでも、突然「3ヶ月後に確実に死ぬ」と告げられたら逃げたくはなるだろう。
本書は、7編にわたる短編集であり、それぞれの物語には一貫して「3か月後に隕石が衝突して地球が滅亡する」「宇宙に脱出できるのは抽選で選ばれたわずか1000万人の人類のみ」という設定がある。描かれているのは、その重大発表
【甲】むかしのはなし/三浦しをん
この本は、今「昔話」が生まれるとしたら、をコンセプトに7つの短編が収録されたもので、その名の通り、7編には「かぐや姫」や「桃太郎」といった昔話がそれぞれ割り当てられている。(以下参照)
「ラブレス」……かぐや姫
「ロケットの思い出」……花咲か爺
「ディスタンス」……天女の羽衣
「入江は緑」……浦島太郎
「たどりつくまで」……鉢かづき
「花」……猿婿入り
「懐かしき川べりの町の物語せよ」……桃太