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【甲】星がひとつほしいとの祈り/原田マハ

何を書こうにも、書き出しが一切思いつかない。
どうやっても陳腐な表現にしかならなくて困り果てている。ただの感想文なので別にかっこつける必要はないんだけど。
本を読んだ、というよりも映画を見たような感覚だからかもしれない。
ひとつひとつの情景や人物像がありありと思い浮かぶような文章だった。これは作者である原田マハさん自身の豊富な経験と、解説の言葉を借りるなら、「すべてをいちどに身体に取り込み自分の言葉に置き換えて、一文字ずつ文字を紡ぎ、読者に伝える力」のおかげに他ならないように思う。

椿姫/夜明けまで/星がひとつほしいとの祈り/寄り道/斉唱/長良川/沈下橋
時代がどんなに困難でもあなたという星は輝き続ける。
表題作ほか、娘として妻として母として、20代から50代まで各世代女性の希望と祈りを見つめ続けた物語の数々。


一番気に入った話は「夜明けまで」、泣いたのは「星がひとつほしいとの祈り」と「長良川」。
でも読んだ感触が好きなのは「椿姫」かもしれない。

母の遺言に従い、遺骨をひとかけら持って「夜明」という町を訪れたひかるは、そこで母の過去をたどり自分の出生の秘密を知る。母ひとり、子ひとり、互いに自分の人生を切りひらいてきた二人は、母の最期の願いを通じてようやく通じ合う。

離れてからわかること、会えなくなってからわかること、失って気づくこと、世の中にありすぎるんじゃないかと思う。
私はひかるのように親を忌避する理由があったわけではないが、幸い(?)親元を離れたのが早かったので、親になる以前のことや自分に費やされたものについて考える時間が有り余り、なくす前に「自分は親のために何一つしてやれていない」という気持ちを強く持てている。(持っているだけ)
まあ「娘」という立場的に自分と重ねやすかったのもあるが、普通にお話として切なさとあたたかさを持ち合わせたきれいさが気に入っている。

同じように「星がひとつほしいとの祈り」、「長良川」、そのほかの短編もそれぞれが「星」を探していて、あるいは持っていて、現実味とフィクションのバランスがよくとれたきれいなお話だった。
そんななか、「椿姫」は希望に満ち溢れている、という感じすぎないのが好きだった。

身ごもった子を掻把し、壊れかけていた香澄の心は純朴な少年の言動により幾分戻ったようにも見えるが、美しい椿やはしゃぐ女子高生とは裏腹に、戯曲にある”椿姫”は悲劇だし、椿自体にもその散り様から不吉なイメージがついている。
ともに電車に揺られる二人は、降りてしまえば別々に人生を歩むことだろう。その行く末には不幸も希望も入り混じって広がっているように感じられる。そんな不安定さが良かった。


原田マハさんの経歴を見たところ、本作は彼女の激動の人生が生み出した一部でしかないような気がする。ほかの著作も読んでみたいな。


2020/03

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