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【乙】星がひとつほしいとの祈り/原田マハ

女性作家による、女性たちが織りなす短編集。

実はあまり馴染みがなかった。

生きる場所も年代も違う女性たちが登場し、彼女たちは皆、自分や身近な人物の幸福を祈り、希望をもって人生を進める。

自分を投影するほど似た境遇のキャラクターはいなくとも、「女性」が中心となっているだけで読みやすく、内容はスムーズに入ってきた。

登場人物たちのそれぞれの「祈り」はどれも厚かましくなくささやかで、そんな無欲さに淡い憧れを持った。よくできた人間たちだ。

表題作「星がひとつほしいとの祈り」で、戦時中を生き抜いた盲目の老女は「星」をこう形容した。


星なんて、見たこともない。どんなものかもわからない。けれど何より美しく、強く、朽ちることのないもの。
(中略)
恋であったり、愛であったり。幸せ、平和のようなもの。あるいは、お仕事の成功とか。ささやかな言葉……であるかもしれませんね。


この話は、盲目の令嬢として戦時中を生き抜いた老女による、マッサージ客の女性に対する語りで物語が進む。

政治家の邸宅に生まれた彼女は、生まれた時から盲目だった。

彼女が3歳ほどの頃から側仕えの女中「ヨネ」が常に傍で彼女の世話をしている。

故郷で貧しく暮らす家族を助けるため東京に奉行にやってきたヨネは、目の見えない彼女に、詩的な表現で世界の様子を伝えた。

彼女が成人するころ、戦争が始まった。

空襲がひどくなってきた頃、ヨネは彼女を連れて都心にある邸宅を離れ、ヨネの実家のある田舎の農村に疎開する。彼女のことを守り続けることを誓ったヨネだったが、体調の芳しくない彼女のために街に薬を買いに行き、その途中で空襲に巻き込まれて亡くなった。

貧しく献身的なヨネが短い人生の中で幸せを手にしたとは到底思い難く、彼女を守って亡くなったことが不憫で仕方なかった。

しかし、すべてを失って一人生き残った老女の苦しみもまた計り知れない。

老女は、自身にとっての「星」は一篇の「詩」であると述べた。戦時中に彼女を守って亡くなった貧しい召使ヨネの詠む詩。そんな「星」があったから今まで生きながらえてきたのだ、と。


幸いなことに私はとても恵まれていて、家族や友人を含め、身近にたくさん「星」のように感じられる存在があり、だから生きていられる。

それらがすべてなくなったときにはただただ抜け殻のようになる図しか思い浮かばず、何を星として生きるんだろうかと想像もつかない。
だからこそ、この老女からは慎ましさと力強さを感じられ、マッサージ客の女性と(きっと)同様に、エネルギーを得ることができた。


当人の苦しみはどうしたって当人にしかわからないし、それと同様に他人の幸せを100%理解することもできない。と私は思っている。

だから、現実を受け入れながら慎ましく幸せを祈るような本は結局一番無責任さを感じず、優しくて、とても好みだ。

自分の中の欲深さだったり、卑屈さだったり、そういう部分も少し薄らいだかもしれない。

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