【甲】スタンフォードの自分を変える教室/ケリー・マクゴニガル

“自分を変える”

劇的で魅力的なフレーズだと思う。ただ、私はこの手の自己啓発本に対してはかなり懐疑的な態度をとっていて、自己改革の方法は自分で模索し実行しないと意味がないようにも考えていた。が、結論から言ってめちゃくちゃためになった。
この本では一貫して“意志力”について様々な実例や科学的見解をもとに、講義をそのまま文章にしたようなかたちで書かれている。実際にスタンフォードでこの講義を受けて、意志力の実践に成功したり失敗したりした生徒たちがいるのだ。成功した人がいるならわざわざ自分で悩んだり挫折しまくったりせずに、そういう人に方法を教えてもらったほうが手っ取り早いに決まっている。なんとなくで本に縋るのを躊躇っていたのが馬鹿らしく思えた。

"意志力"、できた人間になるために根本的に必要な力No.1じゃないだろうか。作中にも「出世も勉強も寿命も“意志力”が決める」という見出しの節があったが、読む前から、大成している人は強い意志を持っている、というイメージはあった。
まあ私が変わりたい、と思っているのはそんなたいそうなことでなく、普通に早寝早起きしたいとか、待ち合わせに遅刻しないようにしたいとか、部屋をきれいに保ちたいとか、全体的に丁寧に暮らしたいみたいなことだが、そういうのって「習慣」なのでなんだかんだ一番意志力を必要とすることな気もする。

参考になった箇所を挙げるとキリがないほどどこを見ても心当たりがありすぎたが、読後も何度か頭をよぎり、悪習の見直しに役立ったのは、まず多くの章で提案されていた「自分を客観的に見つめること」だった。まじの薄っぺらい自己啓発みたいなまとめだが、自分がよくない判断をした瞬間を見極める、将来の自分と今の自分を結びつける、これらは意識におくだけでかなり効果的だと思う。
実際、今服を脱ぎ捨てたままにしておけば、明日の自分はそれをしまうどころか、またその上に脱いだ服を積み重ねてしまうこと、いずれそれらをまとめて片付ける羽目になるだろう自分のことを考えると、床やベッドに投げる前にそのままクローゼットにしまったほうがいいことは明確だった。

それから「ドーパミンは幸福感をもたらさない」というのも電気網を往復するラットの話と合わせて、衝撃的だった。私はわりとスマホ依存症気味な自覚があるが、最近は特に見るものもないのにスマホを手にしてしまう瞬間が多い。そんなとき、自分は幸福の予感を得ているだけで、その先には何も待ち受けていないことを考えるとスマホを放り出すのに幾分役に立った。

こんな感じで、たまーにこの本の内容を思い出しては考え直す瞬間がある。いまだに思ったように勉強に取り掛かれていないし、早寝早起きは課題だし、一時の欲求で食べすぎたり眠りすぎたりするが、意志力は鍛えられるらしいのでちょっとずつでも進歩したい。本当に。あわよくば他人に良い影響を与えられる人間になりたいが、正しさを求めすぎると反動で落ちぶれそうなので高望みはやめておこう。

2020/02


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