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ことばのこと

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考えすぎと言われるわたしが、 言葉を使って日々思いめぐらせていること。
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火曜サスペンスで計る日常

火曜サスペンスで計る日常

なにが日常で、なにが非日常か。

簡単な言葉で言ってしまうと、いま、多くの人の価値観が揺り動かされているんだと思う。
以前の記事でわたしはこう書いた。

スーパーマーケットという場所は、
わたしの食や暮らしと直結している場所であり、
わたしの日常があり、
わたしの社会性があり、
わたしの物差しがある場所なのである。

今はそんな場所にも行きにくくなってしまった。
わたしにとってのスーパーマーケット

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メッセージの送信を取り消しました

メッセージの送信を取り消しました

画面にタイプされ、送信された言葉は、相手の目に触れるまえに簡単に取り消せる世の中になった。
何が言いたかったの?
何を考えていたの?
この一分一秒にどんな心の動きがあったんだろう。
もはや知る由もない。

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朝に目が覚めて、眺める携帯電話には通知バッヂが光っていた。
そこにはキミからの、切とした言葉。
深夜の不安や、戸惑いや、孤独が、
短く綴られている。

「急にこんな話ですみませ

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いつものスーパーマーケット

いつものスーパーマーケット

休日だというのに体力的にも精神的にもひどく憔悴しきった日があった。
さっさと家に帰ればいいのだけれど、それも違った。
家に帰って一人になったら、膝を抱えててそのまま暗闇に紛れ込み、二度と戻って来られなくなる気がした。
家はシェルターであり、家はひとりぼっちだ。

ふらふらと、ぼんやりと街を歩く。
頭が回らない、何も考えられない。
どこに行けばいいのだろう。

*-----*

するとどうだろう。

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隕石

隕石

7月最後の朝
”地球に隕石が衝突するとしたら”
朝のワイドショーではにぎやかにそんな話をしている
隕石は◯時間前に観測されて
◯時間後には日本の東京が落ちることが発覚して
途中から観たせいでわからないけどたぶんそんな話。

わたしはシリアルをほおばりながら考える
◯時間後に京都に隕石が落ちるとなったらわたしはどうするだろう
職場にいる確率が高いんじゃないかな
そしたらたぶん、東京の本社の指示を仰ぐ

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献花

献花

地下鉄に乗ってなんとなくぼんやりと座ってたら、
突然頭の真上に水がポツンと落ちてきた。
冷たかった。
何が起こったか一瞬わからなくて、服に飛び散った水滴を見て、瞬時に涙だと思った。
どこかの誰かの涙だ、と思って目を見張った。

今日も酷暑の京都では、
地下鉄はとても冷房が効いていて外とは大違いだし
結露した水滴がたまたま落ちてきただけなんだと思う。

偶然、いまこのタイミングで、そうなってしま

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今晩は
群青色の折り紙になって
几帳面な誰かに
きちんと
小さく小さく折り畳まれたい

角を合わせて真っすぐな線を引いて
指で何度も何度もなぞって

深い深い
昏い


悲しいほど真っすぐに線を引いて

ありふれた恋について

ありふれた恋について

南風が吹いた春の日に
まばゆいばかりの恋に落ちた
毎日が生まれたての光であふれて
やわくやさしいものにふれて
踊りだしたくなるような
歌いだしたくなるような

あらわしたいと思う
つたえたいと思う

でもその発露の仕方がわからない。
仕方がわからないのだもの、仕方がない。
どんな言葉が、どんな動きが、どんな旋律が、
このハートのかわりになるんだろう?
このハートを切りとって渡せたらいいのに。
色を

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ある女の部屋について

ある女の部屋について

Ⅰ、嘘つき女の部屋
ペティナイフ
使いかけのレモン
空瓶

小さく畳まれたハンカチ
花束の描かれた洗剤
漂白剤

ガラスの砂時計
透明なマニキュア
薄いレースのカーテン

中原中也の詩集
ペーパークリップ
ライター

Ⅱ、正直女の部屋
ホウロウのミルクパン
果実のかたちのお皿
イチヂクのジャム

新しいストッキング
乳白色の入浴剤
石鹸

待ち針
白粉


昔の恋人からの手紙
空っぽの箱
小石

忘却について

忘却について

忘却

奥の奥の暗い穴ぐら
風もなく音もなく雪だけが降る闇の色
眠れぬ目の奥で見つめ続ける黒い塊
流れを止めぬ水の模様
自分で見ることのない自分の顔
集団ヒステリー
円周率

飲みこまんとする巨大
今はただ、忘れることがこわい