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【ショートショート】ステキなトラウマ
「また、宿題をしてないの?それじゃ、お仕置きね」
夢から覚めると全身が汗で濡れていた。
「よかった…俺は大人…宿題なんて……無い……!」
俺は、社会人になった今でも夢に見るほど宿題がトラウマだ。俺はよく宿題をせずに登校しては先生にお仕置きされていた。先生のお仕置きは小便ちびるほど怖かった。
今日も宿題の夢で飛び起きた。それと同時に股間に湿った生暖かい感覚が広がった。
「まぁ、宿題
【ショートショート】一人焼肉
大沢謙二は、少し厚くきられたタンをほんのり炙り、レモンを絞りネギを巻き頬張った、二度三度噛みしめ溢れる唾液と共にビールで流し込んだ。肉の余韻を残しながら大きく息を吐き出した。
以前、業務用スーパーで加工前のタンを見かけたが意外に大きくグロテスクだった。これが家畜の物でなく、自分のだったらと考えるだけでゾッとする。そう思いながら、カルビを裏返した。
すぐ横を通った店員を呼び止め追加注文をした。
「
【短編小説】白銀の背中を
白い轟音の中。皮膚はもはや痛みを感じること無く鋭く突き刺さるような吹雪の振動だけを伝える。まつ毛は凍りつき辛うじて目を開けることができる。僅かな視界の先に薄い人影を捉えながら、見失わないように必死で歩を進める。人影の正体は俺の相棒だ。しかし、アイツは俺を案内している訳ではない。俺はアイツを追い越さなければならない。さもなくば、俺は間違いなく死ぬだろう。三年前に俺が殺したアイツと同じように。
三年
【ショートショート】ハザード
豪華客船が漂流し数十日、十分にあった食料も尽き、体力のないものから死者がで始めた。
食料は無く救助がいつくるかも分からない海の上、それは暗黙の了解である。
料理人が《ウミガメのスープ》だと言って、細かい肉の入ったスープを振る舞った。肉が細かく切り刻まれているのは、せめてもの配慮だろうか。出汁をが出やすくなるための工夫だろうか。やたらと塩味が強かったが、飢餓状態の人間にとっては堪らなく美味で、毎回貪
【ショートショート】祖母・ボソボソ
もともと商売人ではきはきとして元気だった私の祖母は祖父が亡くなって以来、歩く姿もふらふらと危うく、目に見えて気力を落としボソボソとしか喋らなくなった。
祖父は酔うと決まって話すことがある。祖母との馴れ初めだ。
「婆さんが結婚しなきゃ死ぬって言うからなぁ。橋から飛び降りてやるぅ、って言うもんだから仕方ななく…たなぁ」そう言って強くもない酒を煽る。祖母はその話が始まると照れくさそうにモジモジする。
【ショートショート】狼少年Zero
「狼がでるぞ〜!」少年は必死に声をあげる。
姿すら見えない狼の襲撃を吹聴する少年はいつしか《狼少年》と揶揄されるようになった。そんな彼を村人達は「可哀想に……気を引きたいんだわ」と哀れみ。「嘘つきめ」と嘲笑う。
一月前、村人達は行き倒れていたのを保護して仕事まで与えてやったのだ。彼はその頃から、狼が出ると言っていた。
最近は狼の毛皮が高く売れるので、多くのハンターが森に入り狼を狩る。そう遠くない
【ショートショート】攻略法
「おいっ、ミワコ、ミワコ、起きろよ」
「んっ、いたたたた、何、えっ、いやぁ」
二人は下界が見えないほどの遥か上空で、透明な立方体に閉じ込められていた。
「どうゆうことなの、ねえヨシオ!どこなの、ここは!」
「落ち着け、深呼吸だ。俺も最初はパニクッたよ、でもな多分これはゲームだ。ARだかVRだか知らんが、映画とかアニメで見たことあるんだよ、ゴーグルかけたり首にプラグ突っ込んだりさ。
「何?そ
【短編小説】ジュース
ぶぅーん。という冷蔵庫の音が聞こえるほど静かだった。4LDKの部屋の中には俺と友人の2人だけ。いつもは明るく美人の友人の奥さんが手料理を振る舞ってくれるのだが、今日は彼だけだ。
「聞いてほしいことがあるから」と連絡があり、昼過ぎに彼の家を訪れた時は明かりも点けずに、寝起きのスウェット姿の彼だけが出迎えた。
さすがにリビングは照明がついているので暗くはなかったが、カーテンは全て神経質なまでに閉
【ショートショート】ウルトラサイズの恋
涼平は文通相手に「会いたい」という内容の手紙を送ることは禁じ手だし、マナー違反だと思っていた。だが、彼女の美しい文字を目にする度に思いは再現なく膨らむ。
「私、涼平さんは素敵だと思います」と書かれていたりもした。涼平は大変興奮した。
もちろん「会いたい」と手紙に書くまで躊躇いはあった。文通相手である弥生の中で亮平は随分と聖人君子の好青年に仕上がっているに違いない。やれ老人の荷物を持って助けただ
【ショートショート】感謝
ある探検家がジャングルで熱病に罹り死にかけているところを、とある部族に助けられた。お互い様だが、全く言葉は通じない外国人である探検家を彼らは手厚く看病してくれた。そのおかげもあって探検家は回復し彼らと同じ物をたべ、やせ細っていた体は肉と活気を取り戻した。
言葉は分からないままだが、探検家は心から感謝を込めて「ありがとう、ありがとう」と日本語で礼を言った。すると彼らは喜び踊り、大きな火の前に連れ
【ショートショート】殺人的傑作
一週間近く連絡が取れなくなっていた同僚の家を訪ねると彼は死んでいた。死因はおそらく餓死だろうと思えるほど、見る影もなく痩せていた。やせ細り、殆ど皮と骨だけになった手には表紙カバーも無ければ作者名も記されていない真黒でボロボロの本が握られていた。
私は彼の指を一本ずつ解き、その本を手にり開く。それは小説だった。私は、それを流れるように読み終わる。また始めから読む。何度読んでも新しい発見と面白さ
【ショートショート】録家
数年ぶりに地元に帰省し、実家に立ち寄った。
玄関を開けると、廊下の奥の居間から笑い声が聞こえる。父、母そして妹。玄関に立ちつくしたままでいると、居間の襖が開き柔らかな灯りと共に母が現れた。こちらに向かって歩いてくる母の顔がみるみる真っ青になって「アンタ、さっき帰ってきたがな」と言って震えている。確かに居間から聞こえる笑い声には俺の物らしき声が交ざっている。
俺はため息交じりに「母さん達は、もう
【ショートショート】珈琲問答
俺の向かいに座っていた友人は、湯気が上がる珈琲に口をつけることなく席を立ち去った。
この喫茶店は妙だ。いくら注文しても商品は出てこない。友人と俺に珈琲が一杯ずつ出されただけだ。彼はそんな店に腹を立てて席を立ったのだろうか。
彼が残した珈琲がやたらうまそうに見えた。少し飲んでみようか。いや、彼は帰ってくるかもしれないし、他人の物を盗むのと同じではないか……。
しかし、空っぽになった自分