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【ショートショート】一人焼肉

大沢謙二は、少し厚くきられたタンをほんのり炙り、レモンを絞りネギを巻き頬張った、二度三度噛みしめ溢れる唾液と共にビールで流し込んだ。肉の余韻を残しながら大きく息を吐き出した。
以前、業務用スーパーで加工前のタンを見かけたが意外に大きくグロテスクだった。これが家畜の物でなく、自分のだったらと考えるだけでゾッとする。そう思いながら、カルビを裏返した。

すぐ横を通った店員を呼び止め追加注文をした。
「生ビールのおかわりとレバーにシマチョウ、ご飯の大、いや、小を、以上で」
店員は「畏まりました」と言い手持ちの機械で注文を送信した。

まだ少し赤いカルビを口へ運ぶ、サシのたっぷり含んだ肉が好まれる傾向があるが、私は赤身で噛みごたえのある肉がすきだ。だから敢えて上カルビを注文しないのだ。口に僅かに脂を残したまま、さらに一枚カルビを頬張った。

結局、ビールを四杯、ハイボール二杯、カルビを追加注文し、最後にアイスですっきりさせて私は満足した。
これで明日から始まる退屈なデスクワークを乗りきれるだろう。
支払いに使ったクレジットカードを受け取りながら、アルバイトであろう、毛並みの黒い同族のミノタウロスに「ご馳走さま」と伝え、ちょっぴり高級な焼肉チェーン"人間亭"を後にした。

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