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【ショートショート】録家

 数年ぶりに地元に帰省し、実家に立ち寄った。
玄関を開けると、廊下の奥の居間から笑い声が聞こえる。父、母そして妹。玄関に立ちつくしたままでいると、居間の襖が開き柔らかな灯りと共に母が現れた。こちらに向かって歩いてくる母の顔がみるみる真っ青になって「アンタ、さっき帰ってきたがな」と言って震えている。確かに居間から聞こえる笑い声には俺の物らしき声が交ざっている。

俺はため息交じりに「母さん達は、もうとっくに死んでるだろ?」そう尋ねた瞬間、母と笑い声は煙の様に消えた。俺だけは消えずに、暗く冷たい廃屋に独り立ち尽くしていた。


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