マガジンのカバー画像

10分でわかる知財最新事情

131
弁理士で翻訳家である奥田百子氏による知財最新事情のコラム。2024年は「英語で語る日本の特許出願実務」から内容を変更し、特許、商標、著作権など知財にまつわるトピックスをお届けいた…
運営しているクリエイター

記事一覧

「ひこにゃん」商標の無償使用許諾

「ひこにゃん」商標の無償使用許諾

「ひこにゃん」の商標を10月から無償で使用できることになりました。
「ひこにゃん」は、滋賀県彦根市のご当地キャラクターです。図形や写真の商標として、以下を商標登録しています。

今回無償で利用できるようになるのは、この図形や写真の様々なポーズです。以下をご覧下さい。

例えば、こんなポーズにも無償使用が認められます。

これまで、「ひこにゃん」の使用については、「売上見込み額の3%」の使用許諾料が

もっとみる
ツイキャスがコメント表示機能を削除

ツイキャスがコメント表示機能を削除

サイバー攻撃によりサービスを停止したことが話題になったニコニコ動画ですが、ライブ配信サービス「ツイキャス」が「動画配信に流れるコメントを表示する機能」を実装したことをSNS上で発表しました。

動画再生中にコメントを流すとは、つぎのようなものです。

動画再生中にコメントを流す技術については、(株)ドワンゴが特許を有しています(6526304号)。
この特許は以前にも話題になりました。FC2動画を

もっとみる
「早バレ」の問題点

「早バレ」の問題点

漫画を発売日前にインターネットで公開するいわゆる「早バレ」により、外国籍の2人が逮捕され、執行猶予(3年)の懲役刑(1年6月)と罰金刑(50万円)が言い渡されました。

「週刊少年ジャンプ」を正規ルートで入手し、これをスマホで撮影することで複製して、発売日より5日前に公開した疑いが持たれています。さらに、この漫画を英語やアラビア語に翻訳し、海外にも公開した疑いが持たれています。

「早バレ」は何が

もっとみる
生成AIコンテンツ創作のためのガイドブック

生成AIコンテンツ創作のためのガイドブック

生成AIによる創作が盛んですが、これが知的財産権侵害を引き起こすことがないように、各社は対策を講じています。
「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」(経済産業省)が公表されました。

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/ai_guidebook_set.pdf

生成AIブームにより、業務の効率化や新たな創

もっとみる
デジタル万引きは著作権侵害か?

デジタル万引きは著作権侵害か?

書店で本のページを自分用の記録に残すために、スマホで撮影する行為は違法でしょうか?

ルール違反とか道義的責任は抜きにして、著作権の問題を考えると、これは幸か不幸か写真を撮るだけでは著作権侵害ではありません。
自分のためだけに写真を撮るのであれば、「私的使用」になるからです。
 
著作権法30条1項1号
「著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)

もっとみる
花王の目元温熱シートの意匠をアイリスオーヤマが侵害しているとして、仮処分の申し立て

花王の目元温熱シートの意匠をアイリスオーヤマが侵害しているとして、仮処分の申し立て

花王(株)がアイリスオーヤマ(株)に対して、花王の「目元温熱シート」(1330629号)の意匠権をアイリスオーヤマ社の4製品が侵害しているとして、販売等の差し止めを求める仮処分の申し立てを東京地裁に行いました。

花王の製品は2007年に「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」という製品名で、約40度の蒸気で目を包み込むというコンセプトで販売されました。
この花王の商品は筆者も使っており、製品は次の

もっとみる
ファミマと日清のコラボ投稿に問題

ファミマと日清のコラボ投稿に問題

コンビニ大手のファミリーマートが日清とコラボする告知をXに投稿しましたが、両者が握手しているイラストに、Adobe Stockのウォーターマーク(透かし)が入っていると、SNS上で物議を醸しています。

つまり、ライセンスを受けずにこの画像を使用したか、あるいはライセンスは受けたが見本の画像を使ったという疑惑が持たれています。
これを「カンプライセンス」といい、ウォーターマーク入りの画像を自由に利

もっとみる
氷川きよしさんの芸名を事務所が出願

氷川きよしさんの芸名を事務所が出願

歌手の氷川きよしさんが芸能活動を再開するにあたり、彼の事務所((株)長良プロダクション)が「kiina」「KIINA」の商標登録出願をしました(商願2023-59092号、2023-59093号)。この名前は氷川さんの新しい芸名といわれています。

しかしこれは、彼の独立を阻止する意図で商標出願した、との特許庁の判断が下りました。
なぜ事務所がこれらの名前を商標登録することが、彼の「芸能活動阻止」

もっとみる
iPS細胞から網膜細胞を製造する特許、使用認められる

iPS細胞から網膜細胞を製造する特許、使用認められる

「網膜色素上皮細胞の製造方法」という特許(6518878号)を使用する権利を求めて、理化学研究所の元研究員らが国に裁定請求をしました。

簡単にいうと、iPS細胞から網膜細胞をつくる技術であり、加齢黄斑変性という眼の病気の治療に役立てることができます。この特許は理化学研究所、㈱ヘリオス、大阪大学の共有です。治療に有効であるため、使用させてほしいとの裁定請求を、理化学研究所の元研究員でビジョンケア

もっとみる
ラーメンチェーン店「AFURI」が吉川醸造を商標権侵害で提訴

ラーメンチェーン店「AFURI」が吉川醸造を商標権侵害で提訴

ラーメンチェーン店のAFURI(株)は、吉川醸造(株)に商標権侵害訴訟を提起しました。吉川醸造が日本酒に「AFURI」という表示をしているからです。

AFURI(株)のプレスリリースの赤枠で囲った部分のように、吉川醸造は「AFURI」を日本酒に使用しています。

AFURI(株)は、吉川醸造が「AFURI」の著名性にフリーライドしているため、吉川醸造の商品をすべて廃棄するように主張しているそうで

もっとみる
ラーメンチェーン店「AFURI」の登録商標

ラーメンチェーン店「AFURI」の登録商標

ラーメンチェーン店AFURI(株)は、自社の登録商標「AFURI」に、吉川醸造(株)の「雨降」が類似するとして、特許庁に無効審判を請求しましたが、無効であるとの判断は得られなかったため、さらに裁判所で争われました(令和5(行ケ)10122号、知財高裁)。

そして「AFURI」側が敗訴しました。つまり、吉川醸造の「雨降」の登録商標は無効ではない、との判断です。理由は、両商標が非類似だからです。

もっとみる
生成AIにより声の権利が浮上

生成AIにより声の権利が浮上

AIが声優の声を合成し、声質、喋りの癖、歌い方、話し方を再現できるようになっています。
これに伴い、声優の声を無断で使用されるという事件が多発しています。

ChatGPTの最新版には、女優のスカーレット・ヨハンソンさんの声に酷似した合成音声が搭載されていると思われ、ヨハンソンさんは怒りを覚え、ChatGPTのOpen AI社に抗議し、同社はこの声を一部、取り下げたそうです。

ヨハンソンさんには

もっとみる
博報堂がAIとの対話における仲介装置の特許取得

博報堂がAIとの対話における仲介装置の特許取得

(株)博報堂がAIに関する興味深い特許(7445108号)を取得しました。
人間とAIが会話する過程で、その仲介装置が人間(ユーザ)に対して広告を不自然でない形で提示するという技術です。

ここでいうAIの典型はChatGPT(OpenAI社)です。ユーザとChatGPTが対話する際に、ある広告を自然な流れで表示できるように、仲介装置がChatGPTに指示を出します。

この特許明細書に挙がってい

もっとみる
AIが発明者と認められないとの判決が出る

AIが発明者と認められないとの判決が出る

AI発明に関して画期的な判決が出されました(令和5年(行ウ)第5001号、東京地裁)。

AIを発明者とすることは認めないという裁判所の判断です。これは国際出願(PCT/IB2019/057809号)で日本に移行された特許出願(2020-543051号)です。

発明者の欄には、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されていました。特許庁は、この記載は認められないとして、「自然人の氏名

もっとみる