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矍鑠(カクシャク)たる70代 銀子の一筆「望まれる仕事📚」

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ひどい暑さの中にも美点を発見しようとは思うが、本当は避けて暮らしたい。

木漏れ陽が心地よい高原の林道、足指の間を滑り流れる引き潮の感触を想って、ほんの少し不平をなだめよう。今年もまた寺の盆法要中止のはがきが届いて、汗を流しながらの掃苔もないのだから。

暑くもなく寒くもない、多くの人が温順な気候を好む。何かに夢中で寝食を忘れて熱くなるのも、何もしないでうずくまっているのも体に悪そうだ。人には程よい緊張と程よい休息があって、ベストではない環境でも健康と正気を保っていられるような気がする。しかし、過不足のない、よい塩梅というのは、意外に難しい。

望まれていない仕事

かつて私は、長くフリーランスで読み書きの仕事をしていて、さまざまな仕事・さまざまな人と会った。

プレゼンに、いつも規定数以上のデザイン案を提出するデザイナーを知っていた。良心的な作品・善良な人柄で、彼にしてみればサービス精神からかもしれないが、クライアントから見ればルールを守らない、または案をまとめきれない人に映っただろう。

業界新聞社に主婦の眼を求められて、好評だという自身のブログ日記を持ち込む人もいた。知的な主婦として家庭生活を面白可笑しく軽妙に語っていた。よくできた個人日記だが、新聞社の単行本には使えないと判断された。

個性的な履歴書をもってきた小説家志望の青年は、5W1H抜きの散文的な記事を書いた。感情があふれ過ぎて臨場感がなく、文法も語彙も非常に貧弱だったので出版社の試用期間中に職を失ったという。

職務の目的よりも「自分」を優先して理解してほしければ、独自の芸術に挑戦した方がいいのかもしれない。独自の世界をもつのは素敵だけれど、仕事としては望まれていないことが多い。

こうしたことを見聞きするたびに、私はぞっとした。(振り返って、私はどうだろう。自分本位で変な仕事をしていないか?)

隠しても隠しても、仕事には個性が出てしまう。目的を目指す間に、知らず知らず「自分」が入り込み過ぎてはいないか。誰でも他人のことはわかるが、自分のことは見えにくい。

望まれる仕事

労働の対価としての報酬を得る以上は、まず持つべき最低水準のスキルをクリアして、次に与えられたできることをよりよく果たし、最後に好きな仕事を選ぶのが筋だと思っている。そこまで行ける日が来ても来なくても、誰にとっても今望まれている目前の仕事を無視して報酬は得られない。

では望まれている仕事とは何だろう。

約半世紀、私は一人で、同じような職種の人たちと仕事をしてきた。守るべき約束・ルール内でマイペースに暮らしてきた。一人であることのメンタルの持ちようには慣れているが、組織勤務とは無縁だったため、正直なところ組織に対してなんだか窮屈で退屈そうな印象を持っていた。

ご縁があって組織内(=インソース)の仕事をするようになって、初めて組織のルールや、見えない約束事を知った。窮屈で退屈そうに見えた組織は、1つの目標に向かってたゆまず進む共同体だった。

誤解を恐れずに言えば、ここで求められるのは個人のスケジュールや個別の才能のバラ売りではなく、組織の発想・組織の個性・組織の力量を支える個々の力を集結することなんだと感じた。

よく「社員は組織の歯車に過ぎない」という消極的な言い方をされるが、断固「意思のある誇り高き歯車の何が悪い!」と今は言える。

ただいま修行中

であれば、個人が自分に嘘のない仕事をしているだけでは済まない。組織には組織の目標がある。今まであまり考えていなかったが、積極的歯車としては片隅ながら個人的に生産性の向上を心掛けることにした。

今ある課題を考えて工夫して軌道修正に努めている。今はそれが面白い。

が情けないことに、少し興に乗ると戻ってしまう。かくも丁度良い仕事は難しいと思う。当年になっても未だ、一進一退の日々を送れることに感謝して、成長を目指そう。

2021年7月28日 (水) 銀子

「矍鑠(カクシャク)たるライター 銀子の一筆」ご紹介

いかがでしたでしょうか。

本日は、インソースのWEB連載コラム「矍鑠(カクシャク)たるライター 銀子の一筆」より、最新話「望まれる仕事」をお届けしました。

本コラムの執筆者「銀子さん」は、なんと御年70代。50年以上も前から読み書きの仕事だけを続けられてきた、弊社の「シルバー世代のWEBライター」こと、人生の大先輩です。

そんな銀子さんの連載「銀子の一筆」には、彼女の濃密な人生体験をもとに、仕事にまつわるエピソードが毎月描かれています。

「50年のフリーランスを経て、70歳にして初めての就活をした」

「半世紀を一応プロとして暮らしてきたが、一度も『Best』の仕事はない」

「毎日の勤め人生活が、これまた面白い」

「最終学歴に、今日のこの時間まで入れたくなる」――

など、いつだって “銀子さん自身の言葉” で綴られているのが魅力です。(本日のコラムも、どこか冷静に、またどこか温かく、銀子さんからビジネスパーソンのあり方を諭されているような内容でしたね)

銀子さんのコラムは以下のページからご覧いただけます。素敵なコラムばかりですので、ぜひゆるりとご覧くださいませ🍵🍡


本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。銀子さんの文章を通じて、皆さまにも何かささやかな発見や前向きな気持ちが生まれましたら幸いです。

読み書きのプロこと銀子さんのコラムは、他にも沢山ございます(今後もゆるりとお届けしてまいります~)▼