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Fictional Diary

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in企画、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!
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#fiction

fictional diary#10 赤い車のふしぎ

fictional diary#10 赤い車のふしぎ



その町で、車道のそばをずっと長いこと歩いていたときに、おかしなことに気がついた。赤い車がとても多いのだ。道を眺めていると、3台に1台くらいの割合で赤い車が通る。よその町にも赤い車がないわけじゃないけど、こんなにたくさん見たことは今までなかった。小さな駐車場の前を通ると、そこも不思議なほど赤い車ばかりが並んでいた。緑の草原と、煉瓦造りの家がほとんどを占めるこの町に、赤い車がそれほどよく似合うとい

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fictional diary#11 誕生日みたいな

fictional diary#11 誕生日みたいな



一見、どこの駅にもあるようなありふれた売店に見える。コーヒーや紅茶、ジュースやちょっとしたお菓子を駅のホームで売っている、そういう店。わたしがそこで初めて買い物をしたのは、偶然がきっかけだった。その日わたしは次の街に向かうために、長距離電車に乗ろうとしていた。でも昨夜からの大雨と風の影響で電車が止まってしまい、いつまた動き出すのかわからない電車を、駅でしばらく待たなくてはいけなくなってしまった

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fictional diary#12 水から生まれる

fictional diary#12 水から生まれる



牧草地や畑に囲まれた小さな町の、教会につづく道の途中でふしぎなものを見つけた。パン屋や雑貨屋、薬局など地元の店が軒を連ねるなかに、薄暗い古物屋があって、使い古しの家具や食器を売っていた。その店先に、灰色の石でできた大きめの水差し、のようなものが出ていて、なかには水がいっぱいに満たされているのだ。膝より少し高いくらいの大きさで、小ぶりだけれどずっしり重たそうだ。魚でも飼っているのだろうか、と覗き

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fictional diary#13  鈴の木

fictional diary#13  鈴の木



背の高い、わたしの国ではあまり見たことのない木がたくさん生えている、広い公園を散歩していた。町のいちばん真ん中にある公園なのに、驚くほど静かで、風が枯れ木や芝生を揺らすさわさわとした音がよく耳に入ってくる。誰かが手入れしているらしいきれいな芝生をじっと眺めながら歩いていたら、地面に木の実が落ちているのを見つけた。胡桃くらいのおおきさだけど、それよりもっと小ぶりで、色は黒に近いような濃い茶色。手

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fictional diary#14  想像上の象

fictional diary#14  想像上の象



バスを待っていた。季節にしては暑すぎるくらいのよく晴れた日で、わたしは着てきた上着を脱いだ。バス停には何人かほかの観光客も並んでいて、ガイドブックやカメラを手に楽しそうにおしゃべりをしていた。バスの行き先は有名な遺跡だった。草原の真ん中にそびえたつ、高さ25メートル、重さ5トン以上の、中途半端に巨大な象の像。象なんてまったくいないこの国に、なぜそんな遺跡があるのかは、世界七不思議に入るほどでは

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fictional diary#15 かわいい魔女

fictional diary#15 かわいい魔女



その家にはアロマセラピーの偉い先生が住んでいて、近所の子供たちからは「お菓子の家」と呼ばれていた。お菓子でできているからじゃなく、ハーブの調合に日々精を出しているおばあちゃんが魔女のように見えるからなのだそうだ。童話に出てくる、鷲鼻で鉤爪の人食い魔女とはまったく似ても似つかない小柄な白髪のおばあちゃん。指には小さな緑の石のついた指輪をはめていて、服は真っ黒の長いワンピースを着ていた。彼女は、ア

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fictional diary#20 小雨の効能

fictional diary#20 小雨の効能



小雨を浴びると良いことがある、とその国の人たちは信じている。とくに愛しあうカップルや夫婦には良いのだそうだ。なにがどう良いのかは人によってまったく違うらしい。「奇跡はそれぞれ、違う形で現れるものだからね」観光案内所のカウンターのおじさんはいかにも名言らしくわたしに向かってそう告げた。いったい何が起きるんだろう、と気になって、小雨がはやく降らないかと二、三日の間待ちわびたあと、ようやくその日がき

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fictional diary#21 奇跡の魚

fictional diary#21 奇跡の魚



空に魚のような形の雲が浮かぶとき、それを見つけて近くにいる誰かに教えると、その日は勝負事に勝てたり、片づけなければいけない仕事がサクサク進んだり、ずっと悩んでいた問題が解決したりする、というジンクスがその地方にはあって、とくに若い人たちのあいだで信じられていた。むかし流行ったある歌の歌詞からきているものらしい。わたしはそこには少しの間しか滞在していなかったので、詳しいことは知らない。青空に魚の

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fictional diary#22 雲の波間

fictional diary#22 雲の波間



春になると毎年、うろこ雲のような水蒸気の波が、その町に押し寄せてくる。水蒸気なのに波、というのも変だけれど、わたしが実際にその町でみた霧は、ほんとうに空の雲が地表近くに降りてきたみたいだった。白い色の濃いところと薄いところが交互に現れて波模様になり、風の流れにのってあちらからこちらへとゆっくり動いてゆく。空に浮かぶ雲が、風のすこし強い日に流れていくのと同じくらい、ゆっくりしているけど、少し目を

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fictional diary#23 海賊のおきて

fictional diary#23 海賊のおきて



白と茶色にふたつに分かれたその学校の校舎のなかでは、生徒は厳しい掟に従わなければいけないそうだ。校則で決められているわけでも、先生に怒られるわけでもないけれど、絶対にやぶることのできない掟。いつからそうだったのか、だれも知らないし、ましてや理由なんてだれも説明できないけれど、目に見えないその決まりごとを、生徒たちはみんなで律儀に守っていた。上の茶色の階には上級生、下の白い階には下級生。下級生は

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fictional diary#24 ガラス越しの炎

fictional diary#24 ガラス越しの炎



その町でいちばん大きな交差点のところにある、巨大なガラス窓のショーウィンドーを覗いてみても、見えるのは向こう側にぽつりぽつりと浮かびあがるオレンジ色の電球だけだった。その店がなんの店なのか、通りで立ち話をしている人たちに聞いてみたけれど、みんな揃って、わからない、と答えた。窓にそって店のまわりをぐるりと歩いてみても、店の名前は見つからなかった。ひとつの窓の、目線の高さより頭ふたつぶん上のところ

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fictional diary#25 聴こえる音

fictional diary#25 聴こえる音



旅先で久々に再会した友達に、休みの日は何してるの、と聞いたら、屋根にのぼってる、という答えが返ってきたので、わたしは目をまるくした。友達はそんなわたしの反応をみて、慌てて言い足した。もちろん、天気のいいときだけだよ。けどもちろん、そういう問題じゃなかった。返事が思いつかず、黙ったままのわたしを見て、友達は早口で説明してくれた。住んでるマンションに屋根裏部屋があるんだけど、そこには誰も住んでなく

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fictional diary#26 彼女が話してくれたこと

fictional diary#26 彼女が話してくれたこと



ひとつの町からべつの町へ移動する途中、バスに乗り合わせた人と仲良くなった。20代後半の女のひと。日に焼けていて、長袖のチェックの薄いシャツを着て、肩には大きなリュックサックをしょっている。あなたも旅をしてるの、と隣の席に座ったわたしに話しかけてきた。私はそうだと答えて、いままでの旅の話や、自分の国のことを話した。彼女もわたしに、自分の旅のこと、家族のこと、そのほか思いつく限りいろいろなことを話

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fictional diary#27 街灯に咲く

fictional diary#27 街灯に咲く



その通りに並ぶ街灯には、春のある日になると、花の入ったカゴがぶらさげられる。その日がいつになるのかは、誰も知らない。その日の朝、通りに出てみて、初めて気がつくのだ。小さな花が窮屈そうに植えられた鉢植えが、カゴの中にすっぽりおさまっている。はしごを使って街灯に登った作業員が、小さいがずっしり重たいカゴを持ち上げて、そのために専用に作られた、街灯の横の出っ張りに据え付ける。カゴのなかに入っているの

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