斉砂波人

実話怪談作家、煙鳥(twitter ID @chick_encho)の小説アカウント。

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マガジン

  • 【ホラー小説】Fall down

    VHSテープに記録された、山村集落で行われている数珠回しの映像。 世界各地で古来から伝わる、降るはずのない物が降るファフロッキーズ現象。 小さな滝で祀られる異様な龍神像。 旧約聖書に書かれた謎の食物、マナ。 それぞれが交錯して一つに繋がっていく。 ここは雨の降る村、瀧来集落。

記事一覧

怪談師と町中華を。1 麻婆豆腐

「玄人が麻婆豆腐に何を求めるか知ってるか」  レンゲを口に当て、音を立てて麻婆豆腐を啜り上げる奴の姿は泥水を啜るガマガエルを思わせた。 「ヒントを教えてあげよう」…

斉砂波人
2週間前
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【ホラー小説】Fall down 最終話 現地報告"雨の降る村"

 瀧来集落での調査を終え、山のような資料と、聞き取り調査の音源を抱えて僕は久しぶりに大学に戻った。  夏は調査の季節である。  調査のため各地に散らばった学生たち…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 21 scrap"L"

 ビーコン  地上にある無線局等から発射される電波、赤外線や高周波を離れた位置にある航空機や船舶などの基地局で受信することにより、位置情報や様々な情報を取得する…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 20 現地報告”神意と真意”

 玄関戸の向こう、一人の老人が座っていた。  彼の風貌や家についての描写は彼との約束を守る事を目的としてあえて書かない。  締め切った窓、灯りの乏しい部屋の中で、…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 19 scrap"K"

人体降雨 2014年1月5日、サウジアラビアのジッダで空から人体の一部が降ってくる事件があった。  サウジアラビア警察によると、5日午前2時30分ごろ、紅海に面し…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 18 現地報告”ノミコ数珠回し考”

 ノミコ数珠回しについて考えたことを整理していこうと思う。  これまで見てきた通り、ノミコ数珠回しは雨乞いの類感呪術である。  しかし、そう考えるといくつかの不都…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 17 現地報告”橋本家”

 橋本家は瀧来集落の北方に位置し、山の際に近いところである。  現在は庭に夏草が胸程の高さまで生い茂っていた。  正面に玄関があると聞いたが、橋本家の前にある道路…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 16 scrap"J"

神隠し  我が国において人間が忽然と消え失せることを言う。  古来から使われてきた言葉であるが、不可解な行方不明のことについて、現代でも用いられる。  かつて行方…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 15 現地報告”問い”

 マツリを見終わり、車に戻った時には雨が降り出し始めていた。  僕は車の中で今までに収集した資料を見つめながら、佐久間老人の言葉を思い出していた。  聞き取りをし…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 14 現地報告”マツリ”

 ノミコ数珠回しは時期が決まっているわけではなく、神主が龍神からのお告げを夢に見ると行われる。  数珠回しとは別に瀧来神社では毎年彼岸に「マツリ」と呼ばれる龍神…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 13 scrap"I"

類感呪術  類感呪術(Sympathetic magic・Imitative magic)とは、文化人類学者であるジェームズ・フレイザーが著作「金枝篇 呪術と王の起源」で定義した概念。  呪術は…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 12 scrap"H"

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 11 scrap"G-2"

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豪雨の際に記録された野外の音。

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 10 scrap"G-1"

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VHSテープに記録された、ノミコ数珠回しの数珠の音を抜き出した音声ファイル。

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 9 現地報告”ノミコ”

 VHSテープにはノミコ数珠回しの映像が記録されているが、その準備段階からテープは録画されており、その中でノミコ数珠回しの準備を取り仕切っていた人物がいた。  佐久…

斉砂波人
2年前
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【ホラー小説】Fall down 8 scrap"F"

 雨を降らせて殺された龍。  日本各地に伝わる旱魃から人々を救うために雨を降らせて殺された龍の伝説。僧侶と龍が登場する場合が多い。  我が国では今昔物語集、本朝法…

斉砂波人
2年前
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怪談師と町中華を。1 麻婆豆腐

「玄人が麻婆豆腐に何を求めるか知ってるか」
 レンゲを口に当て、音を立てて麻婆豆腐を啜り上げる奴の姿は泥水を啜るガマガエルを思わせた。
「ヒントを教えてあげよう」
 奴の黒縁メガネが光るように見えた。
「どうせ辛さだろ」
 僕はため息混じりに答えた。
 僕らが空腹を満たし、さらには奴の与太話を聞くほど暇を持て余しているこの中華料理店「姑娘飯店」に来てから、かれこれもう二時間になろうとしていた。

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【ホラー小説】Fall down 最終話 現地報告"雨の降る村"

【ホラー小説】Fall down 最終話 現地報告"雨の降る村"

 瀧来集落での調査を終え、山のような資料と、聞き取り調査の音源を抱えて僕は久しぶりに大学に戻った。
 夏は調査の季節である。
 調査のため各地に散らばった学生たちが食堂のあちこちで再集結していた。
 僕は彼女と再会した。彼女は真っ黒に日焼けしていて、普通の人が見ればまるでひと夏を海で遊び通した学生だと思うかもしれない。しかし、彼女の場合は四国の山中で昆虫をずっと追いかけていたのだ。
 そんな彼女は

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【ホラー小説】Fall down 21 scrap"L"

【ホラー小説】Fall down 21 scrap"L"

 ビーコン
 地上にある無線局等から発射される電波、赤外線や高周波を離れた位置にある航空機や船舶などの基地局で受信することにより、位置情報や様々な情報を取得するための設備。
 現在ではカーナビゲーションなどの交通状況、気象予報などのデータ、また爆撃する際の攻撃目標等の兵器利用と様々な形でビーコンが利用されている。

 人身御供
 神や怪物等超自然的な存在に対して、人身、人命を捧げものとして供えるこ

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【ホラー小説】Fall down 20 現地報告”神意と真意”

【ホラー小説】Fall down 20 現地報告”神意と真意”

 玄関戸の向こう、一人の老人が座っていた。
 彼の風貌や家についての描写は彼との約束を守る事を目的としてあえて書かない。
 締め切った窓、灯りの乏しい部屋の中で、絶対に身元を明かさないこと、集落の人には決して内容を口外しないことを条件として、彼は祖父から聞いたという話を語り出した。

 ノミコはな、目印なんだ。
 数珠回しのノミコはこうやれって教えらっちやっから、真似するだけだげんじょも、本物のノ

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【ホラー小説】Fall down 19 scrap"K"

【ホラー小説】Fall down 19 scrap"K"

人体降雨
2014年1月5日、サウジアラビアのジッダで空から人体の一部が降ってくる事件があった。
 サウジアラビア警察によると、5日午前2時30分ごろ、紅海に面した都市ジッダ市内の交差点を歩いていた男性が凄まじい物音と共に何かが落下したため、身をかがめた。
 起き上がって見たところ、物音の正体はバラバラになった人体の一部が落下しており、その際にしたことが分かった。
 警察が出動し、確認したところ2

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【ホラー小説】Fall down 18 現地報告”ノミコ数珠回し考”

【ホラー小説】Fall down 18 現地報告”ノミコ数珠回し考”

 ノミコ数珠回しについて考えたことを整理していこうと思う。
 これまで見てきた通り、ノミコ数珠回しは雨乞いの類感呪術である。
 しかし、そう考えるといくつかの不都合な事実が浮上する。
 ノミコ数珠回しが伝わる瀧来集落は土地がとにかく痩せていて作物を育てるのに適していない。そのため林業が主な産業として成り立っている村であることから、旱魃による不作に起因する雨乞いであるとは考えにくい。
 なおかつ地盤

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【ホラー小説】Fall down 17 現地報告”橋本家”

【ホラー小説】Fall down 17 現地報告”橋本家”

 橋本家は瀧来集落の北方に位置し、山の際に近いところである。
 現在は庭に夏草が胸程の高さまで生い茂っていた。
 正面に玄関があると聞いたが、橋本家の前にある道路からは草に埋もれてそれすらも見えない。かろうじて見える農機具小屋は、錆だらけのシャッターが半分ほど空いたまま放置されている。
 当時「死ね」「二度と来るな」「雨のにおいがきえない」等の怪文書が書かれていたという立札を探す。道路から見える位

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【ホラー小説】Fall down 16 scrap"J"

【ホラー小説】Fall down 16 scrap"J"

神隠し
 我が国において人間が忽然と消え失せることを言う。
 古来から使われてきた言葉であるが、不可解な行方不明のことについて、現代でも用いられる。
 かつて行方不明者は山や森等人里離れた異界、神域へ連れ去られたと考えられた。柳田國男が著した「遠野物語」、鎌倉時代に成立した「吾妻鏡」などにも記録が見られる。
 連れ去ったものは神だけではなく、天狗や山神、鬼、狐等異界の存在達が関わっていることが示唆

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【ホラー小説】Fall down 15 現地報告”問い”

【ホラー小説】Fall down 15 現地報告”問い”

 マツリを見終わり、車に戻った時には雨が降り出し始めていた。
 僕は車の中で今までに収集した資料を見つめながら、佐久間老人の言葉を思い出していた。
 聞き取りをした際、彼はこう言っている。

 『そんどぎは喋んねぇでずっとジャラジャラ回すのよ。すっとジャラジャラ数珠の音だけすんべした、でっけえ音鳴らせば鳴らすほど龍神様喜ぶんだど』

 無言で大きな音を出しながら数珠を回す。これは数珠が擦れあう音だ

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【ホラー小説】Fall down 14 現地報告”マツリ”

【ホラー小説】Fall down 14 現地報告”マツリ”

 ノミコ数珠回しは時期が決まっているわけではなく、神主が龍神からのお告げを夢に見ると行われる。
 数珠回しとは別に瀧来神社では毎年彼岸に「マツリ」と呼ばれる龍神に関する祭礼が行われる。
 マツリは一般にも開放された祭礼であるが、VHSテープやほかの資料で触れられておらず、佐久間老人から「せっかくだから見たらどうだ」と誘われたため、同席させて頂くこととなった。

 まず、手順としてマツリが行われる前

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【ホラー小説】Fall down 13 scrap"I"

【ホラー小説】Fall down 13 scrap"I"

類感呪術
 類感呪術(Sympathetic magic・Imitative magic)とは、文化人類学者であるジェームズ・フレイザーが著作「金枝篇 呪術と王の起源」で定義した概念。
 呪術は類似したもの同士は互いに影響しあうという考え方(類似の法則)から発想を得た類感呪術と、感染呪術の二つに分類できるとされる。
 世界各国の様々な文化圏で類感呪術と認められる呪術が存在する。
 類似の法則に基づ

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VHSテープに記録された、ノミコ数珠回しの数珠の音を抜き出した音声ファイル。

【ホラー小説】Fall down 9 現地報告”ノミコ”

【ホラー小説】Fall down 9 現地報告”ノミコ”

 VHSテープにはノミコ数珠回しの映像が記録されているが、その準備段階からテープは録画されており、その中でノミコ数珠回しの準備を取り仕切っていた人物がいた。
 佐久間老人にVHSテープを見せて聞いたところ、菅野孝蔵さんという方で瀧来神社の氏子で神社総代なのだという。
 そのため、ノミコ数珠回しの手順等にも詳しく以前録画した際も準備から撮影を許可してくれたという。
 「いい人だから行ってみらっせ、電

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【ホラー小説】Fall down 8 scrap"F"

【ホラー小説】Fall down 8 scrap"F"

 雨を降らせて殺された龍。
 日本各地に伝わる旱魃から人々を救うために雨を降らせて殺された龍の伝説。僧侶と龍が登場する場合が多い。
 我が国では今昔物語集、本朝法華験記等数多くの書物に同様の記述が見られ、平安時代にはすでに語られていた痕跡が残っており、中国や龍を神として信仰するアジア諸国にも類話とみられる伝説が残っている。

 愛知県一宮市に伝わる伝説。
 ある時、弘法大師が雨乞いをしたがどうして

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