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箱テレワーク男の冒険(1):俺は「箱テレワーク男」だ
テレワークを始めるようになってから風を感じることがなくなった。通勤がなくなり、自由になる時間は増えた。しかし家での仕事で同僚との会話がなくなった。ムカつくことも多かった同僚だけど、あれはあれで気分を晴らすのに役立っていたんだな。ススムはiPadの画面を見つめながら思った。
時間は増えたが自分の時間はなくなった。ずっと仕事をしている。24時間チャットで連絡が来る。24時間働けますか、なんて前世紀は
前世がルンバだったと言われたわたし
「今日、入社の石原さん? システム部の谷中です。これ、石原さんのパソコンね。必要な設定はしてあるから、分からないことがあれば聞きに来て」
転職して新しい会社に入社した初日、システム部の方からパソコンを渡されました。前の会社では共有のパソコンしかなかったので、とても嬉しかったです。IT企業に転職したという気分が高まりました。これからは「インストール」とかそれっぽい英語を使っちゃうぞ!
初日はパソ
Web会議の開始42秒前にログインすると
アキラの会社でリモートワークが始まって半年が過ぎた。
これまで会議室にみんなで集まってやっていた会議は、Web会議のソフトを使ってやるようになった。
最初はうまくつながらなかったり、音がハウリングしたり、映ってはいけないものが映ったりしたWeb会議も、さすがに半年も経つと慣れた。
むしろ会議室を移動することがなくなったり、議題と関係のない無駄な話がなくなったりして、アキラは時間を有効活用でき
キミヒコ。これも愛だ、愛
はい、授業を始めます。なんだ、今日はキミヒコひとりか。他のみんなは? 30人はいただろう? ん、風邪で欠席か。軟弱だな。今はこんなことも言えないが、オレのときは風邪ぐらいでは誰も休まなかったぞ。キミヒコは偉いな。小学生の鏡だ。
キミヒコ、健康なのはいいが、教室では兜を脱ぎなさい。子供の日にもらったのか? おじいさんに? それはまあいいが取りなさい。ここは教室だ。これから授業をするのに兜をかぶっ
おにぎり/八宝菜/餃子
「ゆうじくん、昨日の夕飯は何だったの?」
会社の先輩、たかしさんは顔を合わせると必ず、前日の夕飯メニューを聞いてくる。
「昨日は遅くなっちゃって、おにぎりしか食べませんでした」
「そうなんだ。最近忙しそうだもんね」
メニューに対する意見や返答はない。明るい声で「そうなんだ」が定番。
翌日も同じだった。
「ゆうじくん、ところで昨日の夕飯は? ひとりで食べたの?」
「またですか。昨日は家族と
世の中の仕組みはすべてわかっているんだ
-- ショートストーリー--
中学生の時、世の中の仕組みをすべて知りたいと思っていた。社会で起きていることにはあまねく因果関係があると中二の頭で考えていたのだ。
例えば僕がこの前の数学の小テストができなかったのは、両親が喧嘩をして落ち着いて勉強できなかったからだし、両親が喧嘩をしたのは父の会社のボーナスが出なかったからだ。ボーナスが出なかったのは会社の業績が不調(このあたりから怪しくなる)で、
浮いていますが何か?
-- 400字小説 --
「よわよわカメラウーマン」(林ナツミ)さんの写真を見た時、あ、これ私って思った。日常の中でふわっと女性が浮いている。何かが起きそう。18年前に生まれてから私には大きなことは起きていないけど、浮遊しているのは同じ。私、浮いているの。
変なことを言ったりして周りから浮いているんじゃなくて、地に足がついていないの。小さなころから足の裏が汚れることがなかった。靴のソールが磨り
n叉路で会いましょう
-- 400字小説 --
「駅の北口を左に進むと交差点があります。そこを右折すると坂になっています。その先のn叉路まで来てください」
初めのお稽古の日、先生に教室までの道筋を教えていただきました。n叉路とは何でしょうか。先生は「来れば分かります」しか言ってくれません。
交差点を曲がると坂になっています。その先がn叉路。道が6つに分かれています。六叉路のようです。先生からの指示は「北向きの道か
突っ張り棚のテンションで
-- 400字小説 --
「釘が打てなくて、ごめんなさいね。これ使う?」。アツシに突っ張り棚を渡した。久しぶりで口調が分からない。
「いいんすよ、安く借りてるんだし、贅沢は言えないっす」。タメ口。
西日に照らされながらアツシは壁をさすって調べている。すらっとした指。「大家さんには従いますよ」
「大家さんってやめてくれる? おばあちゃんが部屋を貸しただけで、わたしとアツシは単なる幼馴染でしょ
トマ人の海(4):ヤチヨの手紙
-- 400字連載小説 --
前回:「白い旗」はこちら
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手紙だった。
「町で疫病が発生した。じいさん、ばあさんが肺を患って死んでいき、40代、50代のおやじたちも倒れた。いまは若い衆しか動けない」
オキと変わらない若い女がやってきた理由が分かった。手紙には「ヤチヨ」と名前が書いてあり、「若い衆も疫病の菌を持っている。近づけない」とも記されていた。末尾には「あと
顔文字を使う最後の人
-- 400字小説 --
「昭和の表現」「白黒」。オレはSNSにあふれる顔文字への批判を眺めながら「絶対に顔文字をやめないぞ\(^o^)/」と投稿した。それに対して、また、絵文字信者から「場所取りすぎ、ギガの無駄」と心無いレスがあった。
顔文字が廃れるとは思わなかった。オレがSNSを始めた数十年前、ネットのやりとりといえば顔文字だった。しかし、カラフルで表現できるものの多い絵文字が次第に主
眠れない話ではなく、どちらかというとすぐに寝てしまう話
-- 400字小説 --
寝ている自分を客観的に見つめるのは難しい。怒っている時、泣いている時、どれだけ感情的になっていても、ふと我に返ることがある。しかし、睡眠は別だ。今日も何も考えずに寝てしまうだろう。オレはベッドに入った。
大の字を少し控えめにした情けない大の字程度に手足を広げる。薄手のタオルケット1枚。ゆっくりと目を閉じる。まだ、顔に力が入っている。ふにゃと擬音を頭の中で発して脱力をす
トマ人の海(3):白い旗
-- 400字連載小説 --
前回:「石炭」はこちら
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オキが川に浮かぶ小さな舟を見たのは1週間後の夕方だった。こんな時間なので漁ではない。舟の上では人が白い旗を懸命に振っている。向こう側の人だろうか。オキは心がざわついた。向こうで何かが起きたのかもしれない。オキはこのあとに起きることを予感し、どうすればいいのか分からなくなっていた。
オキは川辺まで走っていった。