トマ人の海(3):白い旗

-- 400字連載小説 --
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オキが川に浮かぶ小さな舟を見たのは1週間後の夕方だった。こんな時間なので漁ではない。舟の上では人が白い旗を懸命に振っている。向こう側の人だろうか。オキは心がざわついた。向こうで何かが起きたのかもしれない。オキはこのあとに起きることを予感し、どうすればいいのか分からなくなっていた。

オキは川辺まで走っていった。大人たちが集まっていた。小さな舟にはオキと同じくらいの年格好の女が乗っていた。旗を振り、大声を挙げているようだが、風にかき消されて聞こえない。こちらから船を出そうとすると手を左右に激しく動かし、接近を拒んだ。

「なんでこっちにこうへん? 知らん顔やな」。オキに気づいた周りの大人たちは川の向こう側のことに触れないが、向こう側の女と思っているようだ。木製の舟は長年修理もされていないようで、ボロかった。

女が瓶をこちら側に投げた。瓶は流れに乗りこちら側に流れ着いた。瓶の中には紙が入っていた。

<続く>

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