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#冒険
Knight and Mist第十章-6 ほんとうのこと 異世界(げんじつ)
「待て、待て、落ち着こう。いくらなんでも話が飛びすぎる。まずは絆のはなしから教えてくれない?」
セシルの眼差しひとつでドキドキしながら、ハルカは言った。
「この絆ってなんなの? セシルはいつから気づいてたの?」
露天風呂にて。美味しいものを堪能しつつ、セシルとハルカは微妙に距離をあけて座っていた。
温泉でのぼせそうなのか、セシルの発言でのぼせそうなのかハルカ自身分からなかった。
「僕はー
Knight and Mist第十章-5 遠くの笑い声
「声かけられたからあえて言うけど……露天風呂でイチャコラしくさって! でもあんたもさ、大怪我したんだから見逃してあげてたわけ! 邪魔はしないわよ!」
イスカゼーレの姫、アザナルが言った。どうやら通りがかっただけでセシルに咎められたことを不服に思っているようだ。
考えてみれば、露天風呂でハルカとセシルふたり、聞きたいことがあるからだとはいえ、まわりからしたらイチャついていると思われても仕方ない。
Knight and Mist第十章-4露天風呂とデザート
「はい、どうぞ。限定ジェラートとソルベとあとジュース。あとフルーツ盛りだくさんプレートはここに置いておきますから適当につまんでください」
何やら名前から豪華そうなものを次々手渡され、セシルが露天風呂に入ってきた。すでに露天風呂に浸かっていたハルカの横に座り、セシルは伸びをする。
ハルカはその横でジェラートを頬張る。温泉に入りながらのジェラートは格別である。溶けて口の中に残るフルーツの味。まさに
Knight and Mist第十章-3 お姫様と婚約者
あらためてミルフィとリキと挨拶をする。おんぶされたままで。
「上からごめんなさい」
ハルカが頭を下げると、ミルフィはニッコリ微笑んだ。
「頭が高いわよ♡」
「…………」
ちょっと可愛く言っているがおおよそアンディと同じ感じだ。
危険を感じ、ハルカは無言でセシルの背の裏に隠れた。そういえばセシルからいい香りがする。たぶん乳香か何かだろう。
それから、セシルの陰から二人を観察する。
ミ
Knight and Mist第十章-1温泉に行きたい
「一個だけお願いを聞いてください」
ベッドのなかでセシルがまたワガママを言い始めた。
そこは都の広場近くにある気持ちの良い部屋だった。とある貴族の持ち物で、市中に出るときに使う洋館である。
今は持ち主は領地におり不在で、使わせてもらっている状態である。
清潔な布団に清潔なベッド。窓からの風景は美しく、王都の街並みが一望でき、良い薫りの風が吹き込んでくる。どこからか鐘の音がする。
あのあと
Knight and Mist第九章-9拷問部屋で
拷問部屋は鼻や目にツンとくるような異臭と汚臭がして、吐き気を催した。
鉄錆のおぞましい器具の数々、吊し上げるための滑車のついた装置、小さな檻、鉄の棘がついたなんだかよく分からないもの、トラバサミのようなもの……それらが血をかぶって存在していた。
そんななか、ロープで天井からぶら下げられ、気絶しているらしいセシルを発見した。
背中は皮膚が裂けていた。何がおこなわれたのか、ハルカにはさっぱり分か
Knight and Mist第八章-11 協定の行末
「オホホホホ嫌だわアタシったら取り乱しちゃって! あらためまして自己紹介と参りましょう♡」
「語尾にハートがついててもこええぞこの女」
イーディスが引きつった声で言う。
モンロー家の宮殿客間で。
ハルカ、イーディス、モンド、モンドの妹であらためて話をということに。
人払いのためクール・シトラスは出ている。代わりにのっぽのお爺さんがいた。執事服を着ておりいかにも執事でセバスチャンという感じ
Knight and Mist第八章-10 モンロー家
キラキラ軍団に護衛されながら、イーディスとハルカ、そしてキラキラマントに派手な羽飾りのクール・シトラスとさらに派手な羽飾りのモンドで馬車に乗り、羽で窒息しそうになりながらゴトゴト数十分。そのお屋敷は現れた。
ピンクの外壁に、精巧な彫刻。鉄柵の向こうに前庭があり噴水が真ん中にある。
まさに宮殿。砦とは違う、貴族が住まうためだけの、豪華絢爛な、いわゆるお城だ。
でかい扉の前には身なりの良い男が見
Knight and Mist第八章-9 王都に吹く風
「そこまでだ!」
マンホールのようなところから顔を覗かせた途端、複数の槍がつきつけられた。
イーディスとハルカは肩をすくめて手をあげる。
「だから言ったじゃねーかトンチンカン! せめて城から出るくらいは距離を取ってから地下水道から上がろうって! バカ! マヌケ!」
「どこから地上に出たって一緒でしょ! 門の外に出ちゃったらまた入れなくて困るだけだし! なら一番手前でいいのよ!」
「厳重に
Knight and Mist第八章-7セーブポイント
「あー、疲れた!」
イーディスが言い、それから瓦礫を超えて『その空間』へと足を踏み入れた。
そこは地下水道の一部が崩れ、奥に小さなスペースがある場所だった。岩肌が露出しており、整備はされていない。二人が寝るには充分なスペースがあった。
そして真ん中にはクリスタルのようなものが浮いている。
ハルカが近づけば、ハルカのペンダントとクリスタルが共鳴し、輝いた。
イーディスがハルカの胸元を覗き込
Knight and Mist第八章-6修行
「らあっ!!」
地下牢を脱出して、ハルカとイーディスは都の下を通る地下水道を歩いていた。
「迷路みたいだわ……」
「あの野郎、こんな複雑な地下水道なら地図ぐらいよこせってんだ! しかもこの魔物の数!」
イーディスが蹴飛ばしたのはスケルトンだ。数メートル吹っ飛んで壁に激突しバラバラになるも、また立ち上がってくる。
あの野郎というのは、脱獄を助けてくれたセシルのことである。
目下の目標はそ
Knight and Mist第八章-5地下水道
「はーん、それで、お前はなんでその大学ってやつに行かなくなったわけ?」
「それが、自分でもよくわかんないの」
地下水道をホテホテと歩きながら、イーディスとハルカは話をしていた。
この世界の話を聞くつもりが、いつのまにかハルカの身の上話となっていた。
「メシを食わせてもらって、たっかい金出してもらって、そんでなんとなく行かなくなるよーなもんなの? 大学って」
「うっ……それを言われると胃が
Knight and Mist第八章-4 プリズンブレイク
分かった。ユーウェインも変わり者なのだ。
セシルも変人。オーセンティックもまともじゃない。レティシアもまともに見えてちょっと変だしーー
「うん、私の周りは変な人だらけね!」
「んだとゴラァ!!」
返ってきたのはイーディスの怒れる声だった。
「お前俺様が変人だって言いたいのか! 攫われやがって、心配かけておいてその口か!!」
「あー! 待って待って! 燃やさないで!」
「燃やせるかよ!
Knight and Mist第八章-3 魔族
ーーひやり
不意に背筋から耳にかけて怖気が走る。周囲が嫌な空気に支配される。
ゾクっとする違和感。誰もいないはずなのに独りじゃない気がする気味の悪さ。
沈黙が耳鳴りのように感じられる。
バッと振り返るが、何もいない。
「俺がいたらまずいのかい?」
だしぬけに耳元で声がして、ビクッと振り返ると、すぐ横にユーウェインが立っていた。
藤色の髪の男で、柔和な雰囲気ではあるがこっちは正真正銘の