Knight and Mist第八章-7セーブポイント
「あー、疲れた!」
イーディスが言い、それから瓦礫を超えて『その空間』へと足を踏み入れた。
そこは地下水道の一部が崩れ、奥に小さなスペースがある場所だった。岩肌が露出しており、整備はされていない。二人が寝るには充分なスペースがあった。
そして真ん中にはクリスタルのようなものが浮いている。
ハルカが近づけば、ハルカのペンダントとクリスタルが共鳴し、輝いた。
イーディスがハルカの胸元を覗き込んだ。
「お、いいもの持ってんじゃん! それ、宝珠だよな? 特殊な魔力で持ち主を守ったり、強くしたりするやつ!」
「うん、ちょっと私を誘拐したイスカゼーレの魔導士さんから失敬したの。たぶんもう使わないと思うから……」
顔のない亡骸を思い出しながらハルカは言った。
「それ一つで地方の砦ぐらいなら買えるんじゃねえかな。よっこらしょ」
イーディスが腰を下ろし、疲れた顔で地下水道のほうを見た。
「じきに俺の脱走もバレる。見えないよう壁側に寄っておけ」
岩肌に背を預け、ハルカも腰をおろした。あちこちが痛い。
「うー、やっと座れた」
キラキラ光るクリスタルをぼんやりと見つめる。
「これは一つで何が買える?」
イーディスが呆れたようにため息をついた。
「これは護りのクリスタルだ。動かしたりできねーの。そんなことも知らんのか?」
ハルカはクリスタルを見つめながら首を横に振った。
「私は何も知りませーん。無知な存在。力もなく、なんでここにいるかも分からない」
「ここにいるのは、クソ野郎が俺らを牢屋にぶち込んで、そして俺たちが逃げ出したからだ」
「逃げるのを助けてくれたのもセシルだよ」
ハルカが言うと、イーディスは肩を落とした。
「分かってる、俺様の魔剣を取り戻したらヤツを助けに行くぞ。だがそれまで少し休憩だな」
なんだかんだ、王都に到着してからここまで、気絶していた時間を除けばまったく休んでいない。
特に連日戦闘つづきのイーディスはさすがに疲れた顔をしていた。
「この護りのクリスタルには魔物は寄ってこれない。少し仮眠を取ろう」
イーディスの提案にしたがい、ハルカは横になった。寝心地がいいわけではないがーー
(一時はどうなるかと思った……)
瞼を閉じれば今日1日のできごとが泉のように記憶から溢れ出してきた。
セシルに裏切られたと思ったこと。捕まって地下牢に入れられたこと。イスカゼーレの諜報員の尋問を受けるところに魔族がやって来て、《顔のないネズミ》にやられそうになったこと。エルフのもとで鍛え直されたいたはずの魔剣《鷲獅子心の剣》をどうやら召喚したらしいこと。
(それから、深峰戒ーー魔族の権能を持つオーセンティックという男、私と同じ日本人と会った)
それからイーディスと協力して地下牢から逃げ出し、地下水道にうろつくアンデッド相手に剣の練習をしたこと。
(セシルはなんて言うのかな……)
ーーと、そのときだ。
突然視界が歪み、目の前が真っ赤に染まった。
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