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Knight and Mist第八章-4 プリズンブレイク

分かった。ユーウェインも変わり者なのだ。

セシルも変人。オーセンティックもまともじゃない。レティシアもまともに見えてちょっと変だしーー

「うん、私の周りは変な人だらけね!」

「んだとゴラァ!!」

返ってきたのはイーディスの怒れる声だった。

「お前俺様が変人だって言いたいのか! 攫われやがって、心配かけておいてその口か!!」

「あー! 待って待って! 燃やさないで!」

「燃やせるかよ! 俺様の剣《メテオラ》が奪われたままじゃ!」

ーーあれから。

ユーウェインが何をしたのか分からないが、気づけばハルカはイーディスのいる牢屋に立っていた。

イーディスはどうやら自力で繋がれた鎖を断ち切ったらしい。ハルカが地下牢に戻ったときには、ちょうど地下水道への出口をあけているところだった。

合流した二人はとりあえず脱出しようということとなり、慎重にレンガを外して人ひとり通れる道をつくり、また元に戻した。

それからぶらぶらと地下水道を歩いて、地下牢から戻ってくるまでのことを思い出していたところ、うっかり独り言が口に出てしまった、ということだった。

(魔族が人を助けるのに理由はいらないって……)

その件はイーディスに言えずにいた。

(ユーウェインはいったい何を考えてるのやら)

他にも何を考えているのかさっぱり分からんやつがいる。異端審問院とやらに捕まっているセシルだ。

魔族の目的はともかくとして、イーディスと合流できたのは幸いだった。彼女の話によると、時間はそう経っていないらしい。

あそこは特異点だと言っていたから、時間からも切り離された空間だったのかもしれない。

(あそこで顔をなくしたイスカゼーレの三人ーー)

ハルカを攫ったイスカゼーレの人間たちは、突如魔族とともに現れた《ネームレス・ワン》にやられてしまった。存在を喰らうという顔のないネズミ。あれらにやられてしまったあの人たちは、家族の元へ帰ることもなく、むくろは無残な姿のままあの場に残されたままになるのだろうか……

そんなことを考えていると。

「おい、聞いてんのかボケ!」

イーディスの怒声が耳をつんざいた。

「イーディスの声聞くと、私、生きてるって感じる」

「マジマジと寝惚ねとぼけたこと言ったんじゃねーぞ。とにかく! お前が武器を取り戻したことはいいことだ。俺様の《メテオラ》も回収したいが、今は命が優先だ」

セシルによると《メテオラ》は地下牢の見張り部屋に置いてあるらしいが、取りに行くのは危険だ。衛兵が何人いるかも分からないし、まずは脱出を試みてなんでもいいから剣を探すことになっていた。

「魔剣《メテオラ》が一番だよ。だけど俺様は一流だからな。その辺の衛兵ぐらいなら普通の剣でじゅうぶんだ。問題は異端審問院だな。ひと暴れするのはいいが、あの野郎が捕まるくらいだ。魔剣2本あって足りるかどうか……」

イーディスが眉間に皺を寄せてハルカをジロジロ見る。武器の問題ではない。ハルカの武器を扱う腕の問題なのだ。

「はあ……豚に真珠」

イーディスが肩を落として深いため息をつく。

「せめて猫に小判で勘弁して! てか猫に小判とばして豚に真珠って言わないで!」

イーディスはビシィッとハルカの鼻先に指をつきつけ、大真面目な顔で、

「いいか、猫は機敏な動物だ。獰猛でもある。お前に牙はあるのか? 爪は?」

ハルカは頬をふくらませる。

「豚だって侮ったら危険な動物でしょ」

「そういう問題じゃねえ!」

「そのとおりです! ごめんなさい!」

一喝され頭を抱えるハルカ。

「……そういえば、《死神》ってどういう人なの?」

ハルカはふとオーセンティックとの会話を思い出し、イーディスに聞いてみた。

「帝国ってここから近いの?」

「どうかな、俺様も実はスループレイナの領土を正確に把握してるわけじゃねえんだ。まあ、守るには近すぎる、攻めるには遠すぎるってところだろう」

「スループレイナと帝国のあいだには国をいくつか隔てているの?」

「うーん……あとであのクソ野郎に聞いたほうがはやいだろうな」

「だいたいでいいの」

肩を縮こませながら頼むと、前を歩くイーディスが突然立ち止まった。

「いきなりどうした?」

真顔で尋ねてくる。ハルカは少し考えた。

「うーん……攫われてる間に、私と同じくにの人と出会ったのよ。それから少し気持ちが変わった。もっとこの世界のことを知ろうと思ったの。前は怖かったけどーー」

「なにを恐れてるのか俺様にはさっぱりだが、なんか心境の変化があったんだな」

「少し安心したっていうか。ほら、私アザナルのこともキアラのことも、スループレイナもセシルも知ってる。でも知らないこともたくさんある。私が正気なのか分からなくて、知るのが怖かった……」

「じゃー今はしょーきだって確信したのか?」

ハルカは首を横に振った。

「身にかかる危険を振り払うので精一杯で考えないようにしてた。でもやっぱり心配。だけど、この世界のこと、イーディスのこと、セシルのこと、もっとちゃんと知らないとと思ったんだ」

「へーえ?」

イーディスはニヤリとした。

「それなら攫われた甲斐もあったじゃん。いいよ。俺様に答えられることならなんでも答える。このクッソ長い地下水道を出るまでな!」

イーディスの返答に、ハルカは微笑みを返したのだった。


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